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シコルスキー博士

1919年(大正2年*)

俺は、結婚したが忙しかったのだ


ウラジオストクのロシア正教会で盛大に結婚式は開催された

もちろん、そんなことは拒否したい事項であったが、妻のたっての願いということでは、むげにはできないのが男のつらさである

俺はロシア大公国伯爵に叙爵される、王妹の婿であるかららしい

式で愛妻とイチャイチャとロシア語でしゃべっていたら、東郷元帥に怒られた

そして、最後の閉めの挨拶をと岩倉に振られて何も考えておらず、真っ白になってしまったのはいい思い出である


ウラジオストクがロシア大公国の首都にされたが、シベリア地方には、赤軍を支持する勢力も多数いるので予断はゆるさない状況である


アレクセイ大公側に付くと宣言した部隊が、船や陸路を通じてやってくるが、かなりの部隊は赤軍と個別に戦っている、それも当然のことで、皆が皆、意見が食い違うからである

このころのロシアは混とんとしており、王家はそもそも人望がなかったのであり、政治的にも共産主義、帝国主義、立場的に、農民、商人、貴族、さらには人種等あらゆる要素で戦えるのであるから当然である

共産主義の中ですら、メンシェヴィキ、ボルシェビキなど派閥があり闘争している具合であった

まさにバトルロワイヤルの様相で誰と戦ってもOK的な状態であったのだ


「とりあえず、ウラジオストクの防衛施設は建設完了しました」百瀬建設の幹部がやってきた

面構えが怖いがそこは無視する

ウラジオストクの元市庁舎が現在のロシア大公国の政府庁舎となっている

「すまないが、まだまだ前進して、防衛陣地を構築してほしい」と俺

「もちろんです、すでに別働隊が、前方陣地の構築を始めております、建機が非常に優秀なので十分期待にお答えできると思います」と怖い顔幹部が笑顔を浮かべる、余計に迫力がありさらに怖い

「そうか、ありがとう」

「ただ」

「ただ、なんだ」

「そうですね、冬になると、どうかと思います」

「そうだな、ロシアの冬はきつかろう、ただし、相手も動けんから、無理はするな、ただし、機械の実験は続けてほしい」冬場での建機の起動実験である

「もちろんです、閣下」男はさらに笑顔になった


俺は、大公の義理の兄弟ということで、大公国駐在武官という役職でウラジオストクに赴任中である


そんな中、ある男たちが庁舎に現れた

「やあ、リヒトホーフェンさんお久しぶりです、こんな遠いところまですいません、知らせてくれたら、日本までお出迎えに行かせてもらったのに」

青年はニヤリとして「いえいえ、せっかくの機会ですから、ロシアを見ておこうと思いましてね」マンフレート・フォン・リヒトホーフェンであった

第一次世界大戦は1918年に終わっている、彼は、自らの歴史を変え生き残ることに成功したのであった

「そうですか、私の願いをかなえてるくれのですか」と俺

「もちろんです、ただ、今のところ飛行機がありませんが」とリヒトホーフェン


「リヒトホーフェン男爵(彼はドイツの貴族)、飛行機というものは、これからどんどん進化していきますから、随時最新型を導入する必要があります、もちろん私がご用意します、男爵には、生徒たちに、戦闘技能や心構え、整備などをご教授していただいたら、結構なのです」


「そうですか、最新鋭ですか」

「ところで、そちらの方は顔がよく似ているので、弟さんですよね」

弟のロタール・フォン・リヒトホーフェンも一緒に来てくれたようである

彼も、40機以上撃墜のエースである、彼も歴史を作り替え生き残ったようである


「ああ、テオドール・"テオ"・オステルカンプとエルンスト・ウーデッドです、職がないというんもので、一緒に連れてきました、よかったですか?」と別のもう二人のドイツ人のことを説明するリヒトホーフェン


「もちろん、大物を連れてきていただいて、とてもうれしいです」と俺

「大物?」言われた本人が一番驚いていた

「ああ、失礼、これからきっと大物になるに違いないと確信していますという意味ですよ」

「ああ、なるほど、私は雇ってもらえるんですか?」ウーデッドは心配顔である

「もちろん、ウーデッドさんもよろしくお願いします、私が見るところ、飛行機の仕組みにお詳しそうですね」

「なんで、そんなことがわかるんですか」

「エルンスト、この方はそうい方だ、私も、そんなところに動かされたのだ」とマンフレート


「ところで学校の方は、本来日本の本州に作りたかったのですが、この状況もありますので、北海道に作らせていただきたいと思いますがどうですか」と俺


「私は教えに来ただけですので、問題ないですよ、はっきり言って、地理のことはよくわかりませんが」


「ありがとうございます、早速、飛行機と校舎を手配しますので、準備が終わるまでは、日本の名所を回りゆっくりしてください、東京の方から迎えをよこします」


こうして、リヒトホーフェン航空学校が北海道に作られることになる、北海道である程度成功すれば、東京近郊などで航空兵を増やしたいものである


生徒はまず、教育の済んだ部隊員(長岡や新潟)、高野学校からの学生から選抜し、100名の生徒が学び、その中から、優秀なものが教官候補となり、どんどん受け入れ生徒を増やす計画である


フォッカー D.VIII、ユンカース F.13をドイツから急遽輸入することに決定する

ゆくゆくは、自国生産の航空機も欲しいものである


このころの状況であるが、第一次世界大戦が終了し、大量の不要になった航空機が安く売りに出されていた


・・・・

一方、内戦中のロシア大公国であるが、デニーキン将軍、コルチャーク提督が参陣して、兵や艦も増えたが、課題も山積していた

国土の専守防衛の意見を出したところ、まったく、違う意見が帰ってきた

曰く、赤軍が国を奪ったのであるから、奪い返さねばならない

曰く、艦隊の増強が必要である

曰く、農奴から資産を奪い、兵を養えなどである

まあ、貴族、帝国主義側の人間がおおいのであるからとうぜんであるのだが・・・

その貴族的思考が、農民を共産主義に追い立てたなどと、彼らは全く考えない、貴族とはそういう思考形態なのであろう


ニコライ2世もうんうんうなずいている

アレクセイ大公は、病弱のため、ニコライ2世が院政を敷く形になりつつある・・・

「わが方の意見は、バイカル湖を最終地点として、満州、ロシアで徹底して防備を固め、赤軍を追い返し、現有の領土の鎮静化を図るべきと考えますが」関東都督府長官が俺が教えた通りに詰め寄るが、ロシア人はふんという態度である


「では、どうしてもやるというのなら、デニーキン将軍だけは、独立軍ということで、ご自由にしていただいたら、結構です、政治的にも軍事的にも意見が食い違うのでしたら、致し方ない」と俺


「そもそも、君は何の権限でここにおるのか」

まだ、若い俺に、デニーキンが食って掛かる


「私ですか、大日本帝国海軍少佐として、大公の義兄として、関東都督府との連絡係として、王家の命の恩人として、公国伯爵として、あらゆる立場から出席しているのですよ」


「いいですか、そもそも、赤軍のほうが圧倒的に兵力があるのですよ、それに攻勢をかけて、勝てるのでしたら、ぜひお願いしたい、ただし、バイカル湖の西側でお願いします、独立軍には、わが国からの兵器は供給しませんので、兵器も独立軍側で調達してください」


「くそ、青二才が」

思いっきり聞こえるが、無視する


「では、艦隊の増強はどうか」

「それには、賛成しますよ、コルチャーク提督、ただし、まずは、ウラジオストクの港湾施設の整備と造船ドックを作る必要があり、今すぐにとはいきません、幸い、日本には、港湾整備の終わった港がありますので、そちらに造船ドックを作りましょう、ねえ、ニコライ様」と俺

あきらかに、金出せよビームが俺の目から出ていたのであろう

ニコライは露骨に視線を避ける

「さあ、提督も一緒にお願いしましょう」

「陛下、いや元陛下是非わが艦隊の増強のためにお願いします」

「うむう~」


こうして、ニコライ2世は、日本で造船ドックを作るための資金をふんだくられるのであった




「岩倉!」

「はい!」今では、会社をすべて部下に任せ、俺の秘書となっている岩倉だった

「百瀬建設いや高野港湾か?に造船ドックの建設を依頼してくれ、大至急、函館、室蘭、仙台、和歌山の四か所を頼む、金のことは気にしなくていいぞ、ニコライ元陛下のお墨付きだ、ついでにウラジオストクの港湾整備もな」

「は、承知しました」


「己!」ニコライ2世が真っ赤になっている

なんで?日本語がわかるのか?


ニコライ2世は若いころ日本を訪れたことがある

その時、大津事件が発生しそれ以来日本嫌いであるようだ

だからと言って、日本がわかるはずはないのだが・・・


「ところで、かなりのロシアの人が流れてきていますが、技術のある人は、内の会社で雇いたいと思いますので、斡旋をお願いしたい、特に工業関係の人間は、有利な条件で雇いますよ」と俺

ウラジオストクはアメリカ亡命の窓口都市となっている状況で、大量の移民が流入している


「お前がなんで、そんなことまで仕切っているんだ」とデニーキン

「ああ、商人の立場でも、入ってるのですいません、一応会社のオーナーみたいなこともしてるんですよ」と俺


「デニーキン将軍は、防御陣地を有効に活用するよう早速訓練に入ってください、行かなくても、時期が来れば、赤軍はやってきてくれますから、それまでは、訓練を積んで、ゆっくりしていてください、あとで、ウォッカでも差し入れしますんで」

ウォッカの単語を聞いたときはじめて、デニーキンの顔が緩んだ

物でつれそうな男っとメモしておく



「高野警備保障?あなたそれは何」

俺たち二人にあてがわれた、新婚用の建物内で、俺とスターシャが会話している

「ああ、俺の部下たちで、戦闘に慣れてるのがいるんだが、それと、契約して、スターシャとその家族を警護させる、いまここウラジオストクは、結構危険だ、赤軍のスパイも相当入り込んでるはずだからな」

「じゃあ、弟たちも守ってくれるの」

「もちろんだ、お前を悲しませたくないからな、だから、治安当局にも警備保障に権限を与えるように、口添えしてほしい」

「あなた、何か企んでるしょ」勘の鋭さはさすがである

「そんなことはないよ」

「目そらしてるじゃない」


その警備会社の兵たちは、後に「王女親衛隊」あるいは「高野親衛隊」または単に「親衛隊」と呼ばれ恐怖の対象とされるような、部隊へと変貌していくことを皆は、まだ知らない


ロシア内務省管轄の治安維持局が編成され、高野警備保障関係者が続々と採用されていく

しかも、アバレーエフの関係者も多数ウラジオストクに流れ込んできているものを、情報屋として、組み込んでいく

ウラジオストクの裏側をがっちり固めていく


そして、ウラジオストクのいたるところで、殺人事件が発生することになったのである

共産主義者を排除するのに躊躇はなかった、表沙汰にならなかった事件も数多く発生している

一部では、チェーカー(赤軍の秘密警察の部隊)と戦闘が発生したりもした


ロシア大公国内務省治安維持局の一室

「総長、例の人物を発見したので、確保しました」そう答えたのは、司馬龍一である

彼は、長岡部隊で戦闘訓練後、満州での軍閥討伐をへて、いまウラジオストクの治安維持局で採用された戦闘のプロである、元不良であったが、教育も十分受けさせられているので、このような任務にも就くことができるようになった

「おい、大切に扱っているのだろうな」

「はい、慎重に扱っていますので、大丈夫です」

とても、不安である

「別室で待たせてありますので」


地下に連れていかれる

いやな予感しかせんな

扉を開けると、取調官らしきロシア人が立ち上がって司馬に敬礼する

男が手錠をかけられ青い顔をしている

「大丈夫ですか」俺はその男に駆け寄って、声をかける

青い顔の男の目が潤んだ


「早く手錠を外せ」と俺

「いえ、いま取り調べ中でありまして」と取調官

「バカ者、失礼であろう」と俺


俺は、手錠を外す

「大丈夫ですか、どうも共産主義者の容疑がかかっているようですが」と俺

「助けて下さい、違うんです、赤軍から逃れてきたんです」と男

「そうでしょう、しかし、身分などを明かせるものなどないのですか」

「パスポートがあります」男が差し出す

「偽物です、閣下」ロシア人取調官

「本物なんです」と男

「どうしたらよいものか」と思案顔の俺

「なんでもします、閣下のために働きます!誓って!」と男

「わかりました、私が身元引受人になりましょう」内心にんまりの俺

「ありがとう、ありがとうございます」

「私、アナスターシア・ロマノヴァ王妹の夫たる高野九十九伯爵が、彼の身元引受人となる、それでよいな」と取調官に告げる

「閣下がそれでよろしいのなら、わたくしどもは引き下がらねばなりません」ロシア人は不服そうである


別室で、

「大丈夫ですか、ひどい扱いのようでしたが」

「はい、ウラジオストクに入ったら、いきなり、共産主義者容疑で逮捕されました」

「どちらかに、亡命を考えておられたのですか」

「はい、満州では、技術者を募集していると聞きましたので、そちらでもと考えておりました、だめならアメリカにと考えていました」

「それはよかった、私が先生のお役に立てると思いますよ、私はこう見えても、結構顔が広いのです」

「そうでしょう、そうでしょう、お救いいただきありがとうございます、王家のご親戚なのですか」

「まあ、王家の方々が殺されかかっていたのを、たまたま助けただけですよ」

「なんと、」


「私、ロシアで航空機を作っておりました、技術者で、シコルスキーと申します」


・・・・・

契約書の中身をしっかりと読む、男

「これでは、わたくしのほうが儲けすぎではないですか?」

「中身はそれでよいですか、これから開発する技術は、すべてこの高野を利するために使って構わないとなっていますが」

「もちろんです、命の恩人にお返しをするのは当然です、しかもわたくしの会社を作ってくれて、十分な給料と配当まで、こんな良い条件どこにもありませんよ」

自分の名前のついた会社を作り、資金もすべて出してくれる、さらに、給料まで用意されているのであるから、男が疑うのも当然のことであろう


「そうですか、では、日本の様式に従って、ここに署名いただき、血判をおねがいします」

「少し変わっていますね、血判をおすのですね?」


「そうですよ、日本では、皆が命がけで約束するときは血判を押すのですよ」

「わかりました、命を懸けて働きますぞ!」

「よろしくお願いします」

そうして、シコルスキー氏が血判を押す

契約書が少し青光りを起こしたが、彼はそれを見ていなかった

まあ、見ていてもどうしようないのだが・・・

俺は黒い笑顔がこぼれそうになっていた


彼こそがいずれ、ヘリコプターを実現するはずの男だった


いつも読んでくださりありがとうございます。

少し改題しましたがこれからも応援をよろしくお願いします。

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