脱出
「改めて、礼を言おう、ありがとう」と俺
「なんの礼だ」ニコライ2世、元ロシアの皇帝である
彼は、家系的にもヨーロッパの王家の血筋(様々な王家との縁戚関係)であり、庶民のことは理解できないため、ロシア国内で苛政を行った結果、革命が勃発した
「ジークを嫁にもらう礼だ」と俺
「貴様、娘はそんな名前ではない」とニコライ
「あなた、そんなことは問題ではありません」とニコライの妻(ヨーロッパの王家の血筋)
「そうだ、誰が誰の嫁になるのだ」とニコライ
「私です、お父様」
アナスターシャかつてのロシア帝国王女である
「スターシャ、お前何を言っているんだ」と愕然とするニコライ
いまだに抱き合っている二人を両親が茫然と見ている
「私は、この方と結婚します」とアナスターシャ
「そいつを知っているのか」とニコライ
「いえ、今日初めて会いました」とアナスターシャ
「何が!」「神よ!」両親がロシア正教の神に訴える
「名乗り遅れたな、私は大日本帝国海軍少佐高野九十九だ、以後よろしく頼む」
「私は、アナスターシア、あなたよろしくね」
抱き合っていた二人は現在の名前を確認する
どうやら、前世での記憶は確保されているようである
前世では、夫婦として永く愛し合ったが、俺の方が先に死んだ様だ
「儂を誰だと思っているのか!」その時やっと、ニコライが声を上げた
「殺されかかっていた男だ、それとその家族と従者」と俺
「貴様!言わせておけば」とニコライ
「まあ、なんでもいいが、いまからでも、あの”特別の目的”館に送り届けてやるが」
「あなた、仮にも父親なのよ、仲良くしてあげて、お父様も無意味に反抗しないで、彼はこういう性格なの、いちいち反発しても無意味なのよ」とアナスターシャ
「おお、スターシャが、スターシャが」父親は妻に泣きながら縋り付いた
「よしでは、今後のことについて、話し合おう」と俺
「儂は認めん」とニコライ
「そうか、そもそも、認めてもらう必要はない、おい、こいつをさっきのところへ」
「もう」
「まず、君たちには、悪いが、ウラジオストクで建国してもらう、そして、白軍をできるだけ集めてもらう、その際の資金は、自分達の財産で頼む、武器、食料等については、こちらで用意するが金はあんたらのもので支払ってもらう、君らは資金と人集めに集中してもらう」と俺
ロシア王家の財はイングランド銀行に莫大な額を貯蓄している
簡単にいうと民から搾取した財産である
「そんなことができるのか」とニコライ
「問題ないだろう、君らは王族だ、ただし、実際は庶民から恨まれて、国を追われたことをよく考えておいてほしいがな」と俺
「大日本帝国は、貴国、そうロシア大公国とでも名付けるがを援助する、これは対共産主義とわが日本国の政治的安定化のためでもある」と俺
ロシア革命に手を出すときに、明治帝にはすでに事前承認を得ていた、政府、軍も内諾している
「ロシア大公国は、満州国を国として承認することとし、日満露の防衛同盟を締結する、
なお、赤軍との戦闘が想定されるが、ロシアの領土はとりあえずバイカル湖までとし、防衛戦争に徹し、決してそれ以上進行しないように軍を管理してもらう」と俺
「アレクサンドラ皇后陛下に置かれては、大英帝国に協力要請を発信しつつ、国際世論をロシアに有利になるような訴えかけをお願いする、なお、大公国の君主は、アレクセイ王子が大公に即位し政治をつかさどるものとすること、内容は以上である、では、しばらく休憩の後、オムスクに向けて出発するので、全員小休止!」と俺が一方的に話を打ち切る
皇后はドイツ帝国からロシアに嫁いできたがその母は英国王室の娘、ついでにいうと、ニコライは英国王キングジョージ5世のいとこ、妻も同人のいとこであり、みんな親戚?のような縁戚関係である
「まて、儂は?」ニコライ
「?」
「儂は何をするのだ?」
「民衆の敵は黙っいてた方が良いのではないか?」と俺
そもそも、もう少し民衆に気を使っていれば、このような革命は起こらなかったのではないか、何度も分岐点はあったのではなかったのか、はなはだ疑問が残るのである
人民の敵を倒すために、革命が発生したのである
アナスターシアがこちらを見つめてくる
「陰ながら、息子の政治を手助けすればいいだろう」と仕方なく俺
初めて、ニコライの顔に笑顔が浮かんだ
周りもほっとしたような雰囲気である
家族以外にも、お付きの何人かもやっと落ち着けたような安どの表情を漏らす
・・・・・
オムスク駅近郊の森
「これが、皆さんのパスポートになります」アバレーエフが作ってくれた偽のパスポートである
「ありがとう、アバレーエフ」
「いえ、総長、これくらいなんでもありません」
アバレーエフがマフィアから偽パスポートを用意してくれるまで、森の中で、キャンプして暮らしていたのだ
「ここで、お別れか?一度日本に帰ればどうだ」
「総長、俺は、結構外国暮らしが気に入っているんで大丈夫です、カナダから資金を送らせてもらいますよ」
「有難いが無理はするな」
「派手な暮らしをしたらごめんなさい」とアバレーエフ
「構わん、お前の人生だ、遊ぶのもいいさ」と俺
「総長!」アバレーエフの目に涙が浮かぶ、こちらもそれをみてもらい泣きをしてしまう
「暴れてこい!郷田!」
「は!行ってまいります!」郷田は敬礼した
郷田達と泣き別れてから、俺たちはオムスク駅にやってきた、もちろんシベリヤ鉄道で極東に脱出するためだ
切符の方も手配してくれていたので、すぐに乗ることができた
オムスク駅までは、赤軍の部隊などと遭遇することがあったが、オムスクは現在、チェコ軍団が占領しているの一安心か?と思ったが
ノボシビルスク駅では、赤軍の部隊が乗り込んでくるという事態が発生する
どうやら、地区によっては、赤軍の支配地域が存在しているようだ
「おい、貴様、パスポートを見せろ」
「私のことか」とニコライ
「違う、そっちの娘の方だ!」5人が銃をもってやってきている
偽のパスポートを見せるスターシャ
「怪しいな」何が怪しいのか?偽物だが本物を使っているので、怪しいハズがないのである
「一緒に来てもらうぞ」と兵士の一人がいやらしい笑みを浮かべている
「では、私も行こう」と俺
「お前はいい」
「そうはいかん」
「おい、死んでも知らんぞ」別の兵士が俺に耳打ちしてくる
「先にいけ、我々はこれから別行動になる」と俺が、皇帝家の人々に宣言する
「娘を頼む」とニコライ
同じような年ごろの娘が他にもいるのに、なぜ彼女だけなのか?きっと巻き込まれ体質なのであろう
「問題ない、それより計画通りに動いておいてくれ」と俺は西にいう
「総長お任せください」西が敬礼する
俺たちが、汽車から降ろされると、無情にも汽車は出発していく
「詰め所にこい」別の車両を臨検していた部隊も合流してくる、思い思いに気に入った娘を囲んでいる
どうせろくな目的でないことははっきりとした
詰め所は割と大きな建物であり、赤軍部隊が50人程度は宿泊できるような建物であった
「いいこと考えた、こいつの前でこの女をやるってのはどうだ」ひそひそ声が、もろに聞こえる、俺の耳は鹿よりも鋭いのだ
「いいねえ、興奮するわ、やってる間に、こいつの頭を吹き飛ばせばもっといいかも」
下種な内容が聞こえてくる
彼らの運命は決した
扉の中に入れられると
「さあ、始めようぜ」
「そうだな」兵たちはギョットしたようだった
どこからともなく、日本刀が現れ、口を開いた男の口腔を貫いていた
スターシャの両脇をつかんでいた男たちものどをひと付きされる
すさまじい血しぶきが飛び散るが、残り兵2人の兵はあっけにとられている間に首を切りさかれる
ドサリと倒れる鈍い音しかたっていない
一瞬で5人の死体が出来上がる
スターシャは少し驚いた様子だが、声は出さなかった
「お前は隠れていろ、別の部屋を見てくる」
「うん、気を付けてね」
「ああ」
別の部屋では、さっき連れてこられた女たちが襲われていた
悲鳴を上げる女の服を引きちぎり、押さえつけている男たち
「おら~」女の上に載っている男が声を出したその時、口から刀が生えてきた
女は何が起こったかわからなかったが悲鳴を上げた
残り4人の男たちの首筋に閃光が舞うと血風が巻き起こる
血の花を咲かせながら、男たちは血だまりに沈む
それから、各部屋を調べ、すべて無音のうちに抹殺を完了する
金目のものも残らず収納ボックスにぶち込んでいく
襲われた女たちに兵士たちの服を着せて建物から追い出す
「スターシャ!」
「あなた」二人は抱き合う
「ここに火をかけるぞ、先に出ていろ」
「はい」
はじけろ!炎!
明らかに、今までと違う力強さがあった
第一層の制限解除が効果を表したのであろう(第1層の制限を解除されたため、魔法力が強化された模様?)
床と壁に火がついて激しく燃え始める
魔力不足が少し解消されたのかもしれない
轟轟と燃え盛る建物を俺たちは、眺めていた
「次の列車はいつ来るのかしら」
「そうだな、明日かな」
放火前に、シャワーを浴び、衣服を着替えておいた、血まみれでは、いろいろと問題があるだろう
「じゃあ、一緒に泊まる?」
「ああ、今日は宿で泊まってから、明日出発しよう」
そうして、二人は、町の中へと消えていくのだった
かくして、脱出作戦は無事完了した
兵士たちが必死に防火作業に当たっている、彼らがどこに所属する軍隊かはしらないが
轟轟と燃え盛る建物だけがロシアの美しい景色を焦がす
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