エース
1917年(明治50年)
いよいよ、明治帝の容態が良くない
やはり、糖尿病が進行しているらしい
海戦後、俺たちは一度本国へ帰還した際に、陛下からお言葉を賜ったが、その時もう車椅子で自分で立つこともできなかった
「大戦を最後まで見極めようと思ったが、無理のようだ、高野、あとのことは、頼む」
陛下がそうおっしゃられた
俺は何も言えなかった
「乃木、後追いは許さん、高野を助けてやるのだぞ」そばにいる、乃木大将に陛下はそうおっしゃられた
乃木大将は涙をこらえて、うなずいていた
しかし、俺は、別の仕事にかからねばならない
俺は、まだ、激しい殺戮が行われている欧州に向かっている
この年、ロシアが革命で転覆する予定である
シベリア鉄道で終点のサンクトペテルブルク駅に到着すると、スパルタク・アバレーエフが迎えに来てくれていた
「おお、アバレーエフ」
「嫌味ですか」近ごろ皆が冷たい気がするのは俺だけか
「ご無沙汰しております、総長」
「まあ、一人くらい、好きに生きても問題ないぞ」
「やっぱり、嫌味ですか、まあ、ここで話していて仕方ないので、アジトにご案内します」
アバレーエフは確実に支配地域をひろげロシア中に情報員を張り巡らしているらしい
「もう、やばいですね、各地でストやデモが頻発しています、ロシアが倒れるのは、時間の問題です」
「うん、そうなると、ソビエトができるのだが、アバレーエフは難しいのではないか」
「そうですね、危ないようなら、中央アジアで潜伏しようかと思っていますが」
さすがに、組織の長である、先を考えているようだ
「実は、ロシアンマフィアの君にお願いがあるのだが聞いてくれるか」
「総長、嫌味はもういいですから」
「実はな、私には壮大な野望がある」
「ええ、女神からの使命を果たすんですよね」
「いや違う、それは使命だ、私は野望といったのだよ」
「違うんですか」
「ああ、私の野望には、金がかかる」
「なんかいやな予感がしますよ、金ならもうかなり持っているのでは、それこそ一億円、天皇陛下からせしめたとか、岩倉から聞きましたよ」
「岩倉め、口が軽い、しかし、一億では、大和は一隻しか作れん」
「大和?奈良県を作るのですか?」
「違う、戦艦だよ戦艦」
「戦艦なんて、軍隊が作るものでしょう?」
「わかってないな、自分の艦隊を作る!これが男のロマンというものだろう」
アバレーエフの目が点になった
「いくらなんでも、それは無茶ですよ」
「アバレーエフよ、あきらめたらそこで試合終了だぞ」
「あんた、なんの試合やってんだよ」とアバレーエフはあきれ顔だった
・・・・・
「まあ、ロマンの話は置いておくとして、元に戻そう、ロシアンマフィアの君にお願いしたいこととはな、資金作りの手伝いだ」
「すいません、まだ組織づくりに金が要ったので、上納金があまりできず申し訳ありません」
「違うぞ、もっと儲けてくれと言っているのだ、そのためには、場所をカナダに移してもらう必用がある」
「カナダ?」
「そうだ、今の組織はこのままでもいいのだが、今度はカナダを舞台に、一働きしてほしいのだ」
「メープルシロップですか、そんなに甘いものが欲しいんですか」
「今度は藤の奴か」
「砂糖とかメープルシロップとか常に甘いものを求めているとか」
「違うわ!」本当はホットケーキにメープルシロップをかけて食べたいだけだ!
「実はな」俺は居住まいを正して語り始める
「これから、アメリカはな禁酒法時代が始まる、カナダはその禁酒を密輸する絶好の場所になる、君らは、密輸で大儲けして、こちらに資金を還流してくれ」
「密輸なら、俺たちの分野ですね」
「ただし、米国内にはイタリアンマフィアがいるから、殺しあいになるかもしれん、それだけは気にかけておいてくれ」
「殺し合いですね、任せておいてください」
「殺しあうなといっているのだが」
「任せてください、では早速、手下をつれて、カナダに向かいます、案外ロシアから出たほうがいいかもしれませんね」
「頼むといいたいのだが、その前に一つだけ協力してほしい仕事があるので、お前は残っていてくれ、お前が行くのはそれからだ」
「何かあるんですか?」
「うむ、一つだけな」
「わかりました、一足先に、部下を生かせます」
「頼む」
俺は、禁酒法の内容、どの土地が適しているかなど詳細をアバレーエフに伝授する
・・・・・
アバレーエフ氏と別れて、俺はドイツ帝国内を目指す
アバレーエフもついてくるといったのだが、何かと一人の方が便利であるので、単独行である
ロシア領内では、ロシア兵の恰好を、ドイツ領内に入ってからはドイツ兵の恰好をして旅をしている、目的の人物の場所は、目隠し女神がマークしてくれているので、寝ればわかる(夢の中で土地を確認できる、女神GPSシステムという、嘘です)
何度か車(T型フォード)を止められ、誰何されたり、脅されたりしながら、目的の町にやってきた、目的の人物はどうやら、頭に傷を負って、休暇中らしい
ちなみに、車は俺の収納ボックスに入れてあったものである、収納ボックスには様々なものが入っているド〇衛門の何とかポケットのようだ
「こんにちは」完璧なドイツ語であいさつして玄関のドアを開ける
「どちら様ですか」どうやら母親らしい人が出てきた
「マンフレートさんに会いに来ました、軍のものです」
明らかに、ドイツ人ではないのだが、相手は気にするようすもない
包帯をまいた若い男がでてきた
「なんでしょうか?」
「どうですか?お体の方は」
「よくありません、最悪です」どうやら、精神的にもかなりまいっているようである
顔色はさえない
「そうですか、私、実はドイツ軍のものではありません」
「そうでしょうね、そうは見えませんしね、ドイツ語は完璧ですが」
「そうですか、まだまだのようですね」
どうやらドイツ軍人の魂が足りていないようである
「それで、ドイツ軍でない、あなたが何の用ですか」とても面倒くさそうである
「あなた、このままでは死にますよ」といきなり、オカルトで脅すというようなやり方を繰り出す
「そうですか、やはり」
「私は、あなたを必要としていますので、それを避けるべくやってきたとというところなのですが、少し、元気になってもらうために、治療してみましょう、どこまで治るかはわかりませんが」信者獲得を目指す偽聖者のような感じになってしまう
「医師なのですか」マンフレートはひどくだるそうであり、どうでもよいというような感じで答えている、やはり、撃墜による肉体的被害が、精神的にも悪影響を与えているのであろう
「医師ではありませんが、治療をしたことはありますので、ご心配なく」
俺は、マンフレート氏を椅子に座らせて、頭部に手をかざす、いわゆる手かざしである
治癒の魔法を発動する、すごい勢いで、魔力が喪失していく
クラリとしたところで、やめる
「どうですか?少しは効いてますか」
「ええ!すごいです、頭痛が収まりました」ひどく元気になった感の声である
「それはよかった」
「ありがとうございます、なんとお礼を言ったらよいか、もう死のうかと悩んでいたところでした」いわゆる鬱状態であったのであろう
「ああ、あのままでは、戦場で死ぬでしょう、そこで、一つ提案したいのですが、私と一緒に、日本に行ってもらえませんか」
「あなたは、日本人なんですか」
「はい、そうです」
「日本人のあなたが、私を知っているのですか?」
「ええ、よく存じてますよ」と俺
「ああ、敵国のパイロットとしてね」マンフレート氏が合点がいったといった感じである
いままさに、ドイツと日本は戦っているのである
「いえ、違いますよ、敵国というのは、少し違います、次の大戦では、日本はドイツと同盟国になるので味方といってもよいのかもしれません」と俺
「わかりませんね、それに、次の大戦とは何のことでしょうか」
「そうでしょう、では、少し話が長くなるので、外で話しましょう」
「ええ、久しぶりに気分が良い、たとえ敵国の人がなおしてくれたとしても」
久しぶりに調子がいいのであろう
そうして、木立の間を俺たち二人は歩いて話した
「実をいうと、私の誘いは、あなたにとって良くないことかもしれません」
「そうですか、私は何を誘われているのでしょうか、寝返れということですか」
「私は、あなたを飛行教官として日本に招きたい」
「私を?」
「そうです、残念ながらこの戦いはもうすぐ終わります、あなたもお感じになっていると思いますが、ドイツは負けます」
「そうでしょうね」ドイツ空軍が食い止めているだけで、陸ではどんどん追い詰められているのである、空軍のみ善戦しているといってよい状態であった
マンフレートもその中で、必死に空戦に駆り出されていたのである
「もうひとつ、あなたは今後行われる空戦で死ぬと思います」
「なぜ、そんなことをあなたが知っているのですか?」
「先ほどの力が関係しているとしたらどうでしょうか?少しは納得する材料にはなりませんか?一瞬で痛みが消える能力です」
「そうですね、あなたはどうも普通の人間ではないのかもしれません、とても落ち着いている」
「一つ映像をお見せしたいと思いますが、どうでしょうか?それを見てからご意見を聞かせていただきたいのですが」といつもの技へのコンボを狙う俺
「わかりました、あなたには一つぐらい何かを返さねばならないでしょう」
「目をとじてください」
マンフレートは目を閉じた
「手をお貸しください」
脳内に映像が壮大に流れ始める
それは、ドイツ軍の戦いであった、しかし、戦局は圧倒的に不利に向かっていく、マンフレート自身がみたことのある場所もあった、ソンムでの激戦、そして、ついに敗戦、ベルサイユ条約でとても支払えない賠償金の請求、そして、国内の不満は、ナチスを急成長させ、ヒトラー政権を誕生させ、ついには、第二次世界大戦がはじまるのである
映像はそこで終わる
今回は、ドイツの歴史について、編集されたものを用意していたのであった
アカシックレコードまじ優秀!
「この戦いからあなたが帰ることはありませんでした、ソンムで地上から放たれた機銃弾があなたを撃ち抜いたのです、ですからあなたは、第2次世界大戦に参加することはありませんでした」
「祖国はどうなるのですか?」
「ドイツはこの戦いでも敗北し、灰になります、残念ながら、日本はドイツと同じく敗戦するのです、ソビエトに占領されてね、因みに、日本は原子爆弾を落とされて負けます」
「原子爆弾?」
「見ますか?映像はありますよ」
「ぜひ、見せてください」
日本人用のアカシックレコード編集映像を流す
原子爆弾の破壊力は圧倒的であった、すべてを薙ぎ払い、焼き殺した、そしてその後も放射能による汚染であまたの人間が苦しんで死んでいく
アカシックレコードでは、原爆爆発の直下での映像すら存在する
「こんなひどい」マンフレートは、祖国の敗戦をきいても涙を流さなかったが、今回の映像では泣いていた、人間的な感情を持ち合わせれば、そうならざるを得ないのかもしれない、一般市民の無残な姿が心を打たざるを得ないのである
「私は、誰と戦えばよいのですか」
「戦うのは日本人がやりますので、あなたには、日本人のひよこを荒鷲に育て上げてもらいたいのです」
「こんなひどいことをするやつを許してはいけません!人の道に悖る」さすがは、貴族で騎士道精神を持っているというべきか、彼の家は男爵家である
「では、ご協力いただけるのですか」
「ええ、もちろん、ですが今は戦争中なので」
「あなたは、傷を負った、そのことをもって、今回は除隊されるか、後方勤務に配置換えを要求されるのが良いでしょう、あと、弟さんも同様にされたほうが良い」
「ロタールも」
「はい」
「生活資金にこれをお使いください、戦争が終われば、日本にいらしてください、連絡先をお渡ししておきます」
「この金は、すごい大金ですが?」
「これから、ドイツはナチスによりひどい方向に動きます、家族やご友人も誘って、移住されたほうが良い、もちろん日本に来ていただいてもかまいませんし、それ以外の国でも結構です、私は、あなたが来てくれれば問題ありません、もちろん教官が多いに越したことはありませんが」
「考えてみましょう、どちらにしても、この戦いはもう先がないのはわかっていました、意地で戦っていたようなものですから」
「では、日本での再会を楽しみにしています」
俺たちはがっちり握手した
こうして、マンフレート・フォン・リヒトホーフェンとロタール・フォン・リヒトホーフェンの兄弟の歴史が捻じ曲げられた
いつも読んでくださりありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




