併合せず
「閣下、暗殺の黒幕はやはりロシア側のようですね」と俺
「そうか、まあ、そんなところだろう、助かったよ」と伊藤
「話は日本でさせていただきますので、早くお帰りください、ここは危険です」
「お前はどうするのだ」
「ああ、少し狩りでもして、満州をちょっと見てみたいと思いますので、数日滞在してから帰ります。では、ここで失礼します」
車内で素早く、服装を地元民のものに着替えると、反対側の窓から飛び降りる
部下の一人が近づいてくる
「どうだ、2階の人間は何人だった」
「朝鮮人でしたが、仕留めました」
「誰か捕まったものはいないか」
「おりません」
「郷田はどこだ」
「駅の外で待っております」
「よし、A点にて集合だ」
「は」
A地点、部下たちが集まってくる
「郷田、今後のココチェフの予定はわかるか?」
「残念ながら、しかし、ここにいる必要はなくなったので、ペテルブルグにあの列車で帰るだろう」
「よし、ではあの列車が見下ろせる場所に心当たりはないか」
「何をする気だ」と郷田
「決まってるだろ、倍返しが俺の信条だ」
「では、馬で行こう」
幸い、汽車の発車までは、まだ時間がありそうだ、ボイラーを落としていたのだ
汽車はボイラーの温度を落とすと動けなくなる
駅から約10キロほど離れた、人気のない荒野にたどり着く
線路が曲がりはじめる場所であり、距離は1キロとおあつらえ向きの距離である
収納ボックスから、重機関銃と三脚を取り出し、セッティングしていく、隊員には、狙撃用ライフルを渡して、照準器で調整させる
郷田は唖然としている
「郷田、この突撃銃をやるよ、新型だからなくすなよ」それは、BFAでひそかに作成され、倉に積み上げられていた自動小銃である
まだ、列車が来ていないのをいいことに、零点規制を行う
その時、線路わきに潜んでいた、隊員が旗を上げた
鉄路に耳を当てて聞いていたのである
「動き出したようだ、全員ウェポンフリー、汽車が止まって敵が出てきた場合は応戦し殲滅せよ」
「了解!」
遠くに汽車が煙を吐き出しながらやってくる、さっき駅にいたロシア側の特別列車である
特別列車は三両編成である、どの車両に乗り込んでいるかわからないが、すべての車両に弾を打ち込んでやる
汽車がカーブに差し掛かるためにスピードを落とす、ゆっくりとこちらに腹が見えてくる
「撃て!」
俺ともう一台の重機が小気味よく弾を打ち出していく真ん中の車両の窓ガラスが割れて、車両にボツボツと穴が開いていく、銃声は、汽車の音によって全く消されている
真ん中の車両が穴だらけになったころ、やっと汽車がブレーキをかけた、しかしその時には、前後の車両にも、穴が開き始める
汽車がやっと止まり、何人かの兵士が飛び出してきたが、一瞬で肉塊に変換される
「よし、運転手を殺れ」
「やりました」
「よし、では、数名ついてこい、残りは散開して援護、狙撃班は周囲の警戒を」
「外交文書、暗号ブック、金目の物を探せ、生きているものには、とどめを刺せ」
列車内はひどい有様だった、血の海になっている、部下はカバンや服などを探っていく
真ん中の車両でココチェフを発見した
「お・・前」奇跡的にまだ生きていた
「閣下、気をつけるように申し上げましたのに」バン!
とどめを刺す
それから10分後
「あらかた、終わりました、暗号ブックも回収しました」
「よし、火を放て」
・・・・・
伊藤の視点
日本に帰り着くと、どうも不穏な噂が届いた
ココチェフが馬賊に襲われて死亡したという
ちらりと、小僧の顔が浮かぶ
そうしていると、客が来たという
「ご無事で何よりです」軍服姿の少年がいた
「高野とか言ったな」
「はい高野少尉であります」
「お前がやったのか」
「なんのことでしょうか」
「ココチェフだ」
「ココチェフ氏がどうかされたのですか」
「殺されたそうだ」
「匪族ですかね、あのあたりはいろいろ奉天軍閥もありますから」
「まあいい、ところで、何が望みだ」
「早速痛みいります」
「貴様、話し方はそうだが、全然痛みいってないだろう」
「そんなことはありません」
「俺は、飾らん人間だから、本音でしゃべれ」
「では、遠慮なく、まず、出資をお願いしたい、それから後ろ盾として協力してください」
「お前、元老の田中太郎兵衛なんだろう」
「よくご存じですね」
「こう言った商売してるとな、耳だけはよくないといけねえ」
「情報戦ですからね」
「陛下の後援を取り付けてるじゃねえか」
「多くの人から後援いただければ、心強いですからね」
「で、何を協力する」
「現在韓国を併合する話が進んでいますが、これを何としても阻止したいのです」
「ほお、話があうじゃねえか」
「理由は違うと思いますがね」
「ところで、映像を見ていただきたいのですが、よろしいですか」
かくして、アカシックレコード編集の映像が伊藤の頭の中で再生される
今回は、戦後の日韓併合の葛藤という名の物語であった
「これは、ひどいな!」伊藤は怒っていた
「そうでしょう、敗戦後70年にわたって、このようなことになります」
「お前一体なにものだ?」
「ある使命を帯びているものですが、今回閣下にお願いしたいこととは、あまり関係ないかもしれません」
「儂は、儂であの国ために良かれと思って頑張ってきたつもりだがな」と伊藤
「結果は今見た通りです」と俺
「しかし、ほおっておけば、ロシアが侵略するのではないか」
「そうですが、ロシアもそれどころではなくなるので問題ないかと思われます」
「そうなのか?にわかに信じがたいな」
「私も、すべてを把握できるているとは申せません、こちらは、通行権、鉱山開発と鉄道の権利のみ、認められれば、問題ないので、その時はロシアと交渉すればよいのではないでしょうか」
「うむ」
「そちらに予算を回すより国内のインフラ投資に重点が必要になります」
「それには、儂も賛成だ」
「では、併合派の切り崩しをお願いします」
「わかった」
かくして、日韓併合を阻止すべく、伊藤博文は活躍することになる
・・・・
伊藤の活躍と明治帝の意見(併合反対)がまさり、韓国併合は実施されることはなくなった
日本政府は大韓帝国に対し圧力をかけ、鉱山開発権、鉄道使用権を150年にわたり賃借する条約を締結する
それと同時に、朝鮮人の人権を守るため日本への入国は厳しい査証要件を設けることとなる、奴隷的な条件で連れてこさせないための施策である
これは、実質、朝鮮人の日本への入国禁止措置となる
これに伴い、入国している朝鮮人も祖国への送還が決定される
民間企業は安い賃金を国内において求めることができなくなることに反発したが、明治帝が一喝して黙らせてしまう、韓国に投下されるはずだった予算は国内インフラの投資に回されることになった、これにより日本の工業技術が大きく進歩することになった
また、韓国内において、日本企業が朝鮮人労働者を雇うことを禁止する法律が発布された、これも、朝鮮人の人権を守るための施策である
労働力は朝鮮人以外の中国人などに頼るか、日本人を送るかしかない状態となった
様々な陳情が政府あてに送られたが、この法律が覆ることは、決してなかった
明治帝が「朕が死んで、100年はこの法律を変えることを禁じる」とのたまったからである
「田中!」桂は、この状態を作り出した原因が謎の元老田中にあると考えていた、時代の常識として、植民地の安い労働力を使用することなど当たり前である
しかし、それをしないなどありえないことなのだ
安い労働力を得るために、植民地をえるといってもよいくらいなのだから
ただし、日韓併合は植民地政策ではないので、この考え方は間違っているのであるが・・・
当の朝鮮では、鉄道沿線、鉱山周辺以外は全く資本が投下されることが止まり、経済発展が起きなかった、また、日本企業の鉱山では働けず、しかも日本への入国もほとんどできないような状況のため、収入を得る道が中国、満州、ロシアへの出稼ぎしかない状態に陥る
しかし、満州の日本企業でも同じ動きがすぐにおこりはじめるのである
満州の日系企業では、朝鮮人を雇うこと禁じるように、満州国政府(日本政府の影響下にある)から厳重に通達されていたのである
かくして、1910年に起こるはずだった、日韓併合は発生しなかった
ロシアの脅威が朝鮮半島に吹き荒れる結果となった
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