暗殺事件
1909年(明治42年)
俺は候補生から少尉に任官した
この春、帝国では海兵団が結成される、始めは旅団規模を目指すことになっている
俺が東京勤務になったため、新潟にある㈱岩倉の支店が東京にできた、また、百瀬組の東京支部ができた、東京でも百瀬自らヤクザ狩りをするそうだ、どうも百瀬は岩倉曰く壊れているらしい
まあ、この際忘れることにする
ヤクザの出入りに興味はないのである
もっとやるべきことがあるのだ、百瀬よ、捕まらないように適当にやってくれ
あと、一般人に迷惑をかけてくれるなよ
T型フォードが発売されたそうなので、高野海運で輸入を行ってもらった、自分用と技術学校向けに配車してもらう、学校の生徒にできるだけ、自動車に慣れてもらうための措置である、生徒には運転技術と整備の技術を身に着けてほしいものだ
いずれは、自動車事業を立ち上げたいものだ
高野不動産?(いつの間にかできたらしい)が東京のいい土地を買い占めを図るらしい
目的は不明だが、とにかく拡大をしていくようだ、そんなことをお願いしたつもりはないのだが、いちいちかかわるのも面倒なのですべてお任せコースだ
岩倉東京支社の一室
「岩倉よ」
「は」すっかり副官となってしまった岩倉である
「今度はな、」
「わかりました」
「まだ、いってないが」
「では、いってください」
「うん、実はな、ディーゼルエンジンのことだ」
「残念ながら、詳しくは知りません」
「そうだろうな、わたしも仕組みは知らん」
「ルドルフ・ディーゼルという人が作ったらしいな」
「オイル・エンジンと呼ばれているのでは」
「そうなのか?」岩倉の方が詳しかった
「それで、それを買えということですね」
「簡単にいうとそうだが、本人に協力してもらえんかなと」
「総長、実は岩倉は順調ですし、BFAも順調ですが、農業はだめです、倉庫もだめです」
そもそも、農業はできたものを自家消費と備蓄しているので、売り上げがない
倉庫も各地に作っているが、備蓄品(主に金属インゴット)を入れているだけで、儲けがない、それどころか、インゴットの輸入に黒字が食われているらしい
それに、長岡、新潟の各部隊、学校の維持費と岩倉が受け持ってくれている
満鉄㈱の利益を食いつぶしながらやっているという
BFAの方は、軍との自動拳銃の契約がなされ、重機関銃の納品も行われる予定となり、大きく黒字が出るようになり、工場も拡大していくようだ、社長には、ブラウニング氏、副社長には、山口一(山口参謀の兄)が就任するらしい
「そうか」
「総長、次の玩具をお願いします」
「社員が考えたものではだめなのか」
「総長頑張ってください」岩倉の眼が怖い
「むむ!」俺は久しぶりに追い詰められたのだった
「よし、米国向けの奴を少し考えてみる、それで思いついたのだが、映画はどうかな」
今度は岩倉の顔色がかわった
「総長、まずは玩具をお願いします」
「米国人は、日本人を知らなさすぎる、我々は、映画によって米国でそれを広報するのだ、日本人は恐ろしいやつだとな」
「総長、玩具の方なのですが」
こうして、映画製作会社、高野映像が発足することになる
近ごろ、やたらと、高野をつけられる、岩倉でよいと言っているのだが、そうはいきませんの一点張りである
「ところで、オイルエンジンだが」
「新玩具を、岩倉を助けてください」
「映画だよ」
「うちはもともと武闘派が多いんですが」
「そうだよな」
「人が必要ですね」
「大学に行かせてる連中で、連れてきたら?」
「技術学校ですが」
「頭いいんだから、何とでもなるだろ」
「では、その方向で」
・・・・・・・
「桜井比呂雪です、総長に置かれましては、大変お世話になりました」
明らかに、自分より年下である男に、丁寧に頭を下げる
二十歳すぎの若者である、少し甘いマスクでよくもてそうだ
「桜井君、君、英語は大丈夫か」
「おかげさまで」
「じゃあ、アメリカで映画作ってきてくれる」
「?」
「技術の方面の映画ですか?」
「いや、普通の映画をお願いする、撮影とかは、人雇ってね、君は企画、運営のプロヂューサー」
「よくわかりませんが」
「ああ、細かいところとか、新技術のところは、俺が指導するから、後の世話をお願いしたい」
こうして、桜井君は、無茶ぶりされて、映画関係者の世界で人探しから行うことになる
映画製作は桜井に投げられた
なぜ、桜井が選ばれたのか?それは、わからない!
岩倉にあとで聞いたが、適当ですと答えやがった
しかし、この映画が非常に重要なのだがな?俺は一人ごちた
プロパガンダで世論を誘導するのが、これからのトレンドになるのであるが・・・
会議室には岩倉玩具の企画課の人間がやってきたので、アメリカで発売するボードゲームの企画を作り始める
”ゴールドラッシュ””フォーティーナイナー”など名前をあげる、金を稼いで地面を買ってビルを建てる、相手が止まったら金を受け取るなどのルールにする
そう、まさにモノぽ〇リーのパクリである
「非常にいいですね、リバーシの販売網で売れるので早速案を作ります」
「ところで、これを今度の映画の中で使う、それを宣伝に使う、それと、映画といえばコーラだからな、コーラ飲料の会社を向こうで作っといて、主人公がさわやかに飲むからな」
「相変わらずですね総長」と岩倉
「まったく、訳が分かりません」と桜井
皆にあきれられてしまった
映画といえばコーラとポップコーンなのだがな
ちなみにこのころ、ポップコーンがあるかどうかは知らない
「ところで、ルドルフ・ディーゼルさんのことだが、ブラウニングさんに説得に行ってもらおうと思っている」と俺
「いいんじゃないでしょうか」と岩倉
「同じ技術者同士だしな」と俺
「はい」と岩倉
何事にも淡泊になりつつある俺と岩倉、抱えている仕事の量が多いので、面倒になってきているのに違いない
話の内容が飛び飛びなのに、淡々と対応する岩倉、まさに、上善は水の如し
近ごろ、ブラウニングさんは、日本に移住してきた、時々北海道の工場(新潟以外の場所にも分散した方が良いので新設した)に行ってもらっている、京都京都とうるさいので、山口先生に連れて行ってもらっている
暇そうなので、ドイツ旅行に行ってもらうことにした、護衛のため、山口先生にも同伴してもらう
こうして、ブラウニング・山口コンビは、ドイツへと旅だたされたのである
ブラウニングと山口は旅行なれしているので、「そうか、わかった」程度の乗りで引き受けてくれるのであるが、この時代の旅行はそのような軽い決心でおこなうものではない
・・・・・
「部長、実は、わたくし仕事ができましたので、少し休みます」と俺
軍令部長室である
「貴様の仕事はここであろう!」
「はい、しかしどうしても自ら処理したい案件がございますので、休みをいただきたいのです」
「貴様というやつは!海兵団に入れてやる!」
「はい、それで、影武者を置いていきますので、そいつをこき使ってください」
「貴様鬼だな」
「おい、佐藤はいれ」
「は」軍服を着た人間が入ってきた、軍服は本物であるが、佐藤自身は、軍に入隊していない、もちろん影武者なので、当然である
「影武者の佐藤です」
「全然似てないじゃないか」と東郷部長
「すいません」背丈はかなり近いのだがな
「佐藤修一であります、軍神東郷閣下にお目にかかれて光栄です」
「こう見えても、佐藤は、自動車の運転もできますので、私の車をお使いください」
「そうか、車がな、ちょっとドライブしてもよいのか」
「もちろんです部長、これからは自動車の時代ですよ」
「まあ、よいであろう、それでは佐藤、頼むぞ」
「は、光栄であります」
「おい、この軍服どうしたんだ」
「はい、ちょっと分けていただきました」正規品を横流ししてもらった
「無茶苦茶だな」と軍令部長はため息を吐いた
・・・・
こうして、俺はハルビンを目指すため、新潟からウラジオストックへと渡る
「総長、ご無沙汰しております」ウラジオストック駅には、懐かしい顔があった
「郷田!」俺は、人目をはばからず抱きついていた
「総長、ご健勝で何よりであります」
「お前こそ、いったい何をしていたのだ、一回も帰ってこないとは」
不覚にも涙を流してしまう
「そんなに感動されるとは思っておりませんでした」
「バカ者、貴様は兄弟も同然なのだぞ」
「話は列車の中で、先は長いですぞ、先に来た者たちは、先に現地へ出発し、周囲を確認しておくようにしています、俺の組織にも、朝鮮人たちを見張らしています」
「ご苦労」
「すっかり軍人らしくなりましたな」
「お前は、すっかり親分だな」郷田はサンクトペテルブルクでマフィアを仕切っているようだ、まるで〇オウのような雰囲気の郷田だった
・・・・・
ハルビン駅構内
「さて、諸君、敵はおそらく朝鮮人を使って攻撃してくると思われるが、絶対に阻止しなければならん」と俺
「特に、あの建物はここを狙うのに非常に都合がよいので、明日までに、内部に潜伏し、強襲の準備を頼む、私は、一度汽車に乗り込んでから一緒に出てくるようにしてみる」
おれは、駅構内にある建物の2階を指し示しながら説明する
「総長、敵は朝鮮人じゃないのですか」と郷田
「実のところはわからんが、伊藤さんを暗殺したというものが、本当の犯人であったかは疑わしい、逆に、朝鮮人たちが確実に仕留めれば、真の犯人が手を出す必要がないのかもしれんしな」
複数の暗殺チームが存在するの可能性は捨てきれない
「敵は、周囲にいくつもいると考えてくれ、拘束しようなどと考えるな、行動を起こしたらすぐに、射殺するように、そして更なる襲撃を警戒して次の敵をさがすように」
「は」そういって、全員が散開していく
長岡部隊から20名が同伴してきている、拳銃とナイフで武装している、戦闘訓練は十分積んだ猛者ばかりのはずだ、ロシア語、中国語も訓練されいるため、この、満州での活動も十分にこなせるはずである
皆、現地人が着ているような衣装である
伊藤博文暗殺事件を食い止めなければならない!
・・・・・
次の日、ハルビン駅に伊藤博文の乗る特別列車が到着し、ロシアの蔵相が乗り込もうとするとき、帝国海軍の軍服を着た少年が汽車に近づく
「大日本帝国海軍少尉高野であります、東郷軍令部長より至急の命令書を届けにまいりました、伊藤閣下に面会をお願いしたい」
「貴様は何者だ」
ロシア軍人が制しに入る
「無礼者」一瞬でロシア人は宙を舞いホームにたたきつけられる
「どけ!私は帝国海軍軍人である」とロシア語で威嚇する
「何事か、貴様は?」車両の入り口にいた出迎えの陸軍兵が声をかけてくる
「私は海軍軍令部長より親書を預かっている、先に伊藤閣下に合わせてくれ」
ロシア兵たちは毒気を抜かれて、前に出ることができない
「動いたら、どうなっても知らんぞ」とさらにロシア語で脅しつける
「おい、貴様、入れ」陸軍兵が声をかけてくる
汽車に入ると、ボディーチェックされる
「親書は?」
「ないぞ!」
「なんだと!」
「それより、元老は狙われている、私は、そのためにここに来たのだ」と俺
「本当の軍人なのか」と陸軍兵
「軍令部長付きの高野少尉であることは間違いない」身分証を見せる
「どうした」その時、騒ぎを聞きつけて、伊藤博文が現れた
かつて千円札に描かれていたその人であった
・・・・・
「そうか、狙われているのか」銃を向けられながら、俺が説明すると、伊藤はそういった
「ではどうする」
「このまま、帰られるのが良いと思われます」
「しかし、そうもいくまい、もうロシアの蔵相も来ているのだ」
「そいつが黒幕かもしれません」
「お前が守ってくれるのではないのか」
「閣下!」護衛のものが声を上げる
「巷で、有名になっている、高野か、面白いではないか」と伊藤
「危険だと思いますよ」と俺
「それで、わしを助けて何をしようとするのか」
「はあ、それはいろいろとお願いしようと考えております」
「では、田中元老だったか?ココチェフに入ってもらえ」と伊藤
「田中元老ではなく、高野少尉です」
「まあ、構わんが」偽元老田中のことを伊藤は知っているらしい
にこやかにロシア人が入って来る
「よくお越しくださいました、会議はあちらの列車で行いますので、あちらにまいりましょう、準備をさせております、その前に、閣下にわが部隊を閲兵していただきたいのですが、日本の元勲に閲兵していただいたら、さぞや兵も感激するでしょう、ぜひともお願いします」とココチェフ
「わかりました、ではあちらへまいりましょう」と伊藤
ココチェフらが出ていく
「いよいよですが、私が前衛を行きますので、閣下は私の少し後ろをお願いします、絶対に離れないように」
「頼むぞ」
「は」
汽車の入り口から出ると、拍手が沸き起こる
スキルによりいくつもの赤い点が存在する、敵性マーカーが反応しているが、ロシア兵なので撃つことができない
伊藤がロシア兵らに敬礼をしていく
「ウラー!」ロシア兵の後ろに隠れていた朝鮮人が飛び出そうとした瞬間!
一斉に銃声が錯綜する
ダダダダダン何発撃たれた?
俺の一発目は朝鮮人の頭を撃ちぬいていた、即座に、レストランの2階に目を向けると、部下が親指を立てていた
「ウラー」その時別の角度から、別の朝鮮人が銃を構えて出てくる
バンバンバン「グオ」ロシア兵がうめいて倒れる
俺がとっさに盾にしたのである
その朝鮮人は俺の部下が打ち倒す
「車両に戻れ!ここは危険だ」と俺が伊藤一行に怒鳴る
「ロシア兵が伊藤閣下をすくったぞ」もちろん俺が敵が打つ前に引っ張ったのだが
一行を下がらせながら、伊藤を援護しつつ、汽車に乗りこめた、ココチェフがすごい形相でこちらをにらみつけていたのが印象的だった
それから、数分後ココチェフが再び乗り込んできた
「どうやら、不貞の輩が紛れ込んでいたようです」
「勇敢なロシア兵のおかげで助かりました」と伊藤
「彼も閣下をお救いできて光栄でしょう」とココチェフ
「彼の家族には、私からお礼がしたいので、名前を教えてください」
「わかりました、残された彼の家族も喜ぶでしょう」
「お亡くなりに?」
「残念ながら、3発食らっては」
「そうですか、では、我々はこれで失礼します、会談はまたの機会ということで」
「お送りしろ」伊藤は陸軍兵に声をかける
「は、では、ココチェフ閣下お見送りします」
出口で、「では閣下ごきげんよう、お気をつけてお帰りください」見送りについてきた俺が言う
ココチェフの目が増悪の炎にゆれる
「貴様のことはゆるさん」聞き取れないほどの声で、言ったが俺の耳にはしっかり聞き取れた、それとも、心の声を聞き取ったのだろうか
「閣下、ここは治安が悪いそうなので、お気をつけて」と相手の車両のドアで声をかけた
「ありがとう、君のことは忘れんよ」
「有難き幸せ、ですが、すぐに思い出すこともなくなるでしょう、寂しいことです」
相手は、こいつは何を言っているのかという表情をうかべていた
こうして、伊藤博文暗殺は未然に防がれたのである
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