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出勤

1908年(明治41年)11月

俺たち、36期は無事に卒業することができた


有栖川宮様、山口参謀、南雲君は第一艦隊の艦船に少尉候補生として乗務することになった、通常1年半ほど練習航海するらしい、だがしかし、俺は一年半も悠長に船に慣れてるわけにはいかない、やることが山積みなのである、先に彼らに慣れておいてもらおう、戦争になれば、いくらでも船にのることになるはず・・・



東京にある海軍軍令部は赤煉瓦の建物である、見張りの兵に敬礼をして、建物を見上げる、今日からここで働くことになるのか、万感の思いに浸る俺

受付で名前を告げると、大尉がやってきた

「高野九十九少尉候補生着任しました」

「おお、君か、よろしく俺は嶋中だ、階級は大尉だ、取りあえず、お前の処遇は決まっていない、なんせこんなことは初めてなんでな、とにかく東郷軍令部長が貴様を連れてこいと仰せだ、付いてこい」


軍令部長室の中に連れていかれると、そこには白鬚を蓄えた尋常ならざる気迫を放つ東郷軍令部長が立って待っていた

「高野候補生、あれ以来だな」

「はっ!そうであります」

「年はいくつになったのだ?」

「数えで17歳であります」

「お前、若すぎるぞ、恩賜組だったということだが」

「はっ!ハンモックナンバー2であります」

「お前、頭だけは良いということか」


通常、卒業生に皇族がいる場合は、一番は皇族になるための2番である、実質上の首席ということである


「貴様は」東郷軍令部長が眉間にしわを寄せる

身長185センチは当時の日本人の中では飛びぬけて高い、しかも、非常に男前にできている(ただし、両親のどちらにも似ていないのが悩みである)

「お前にはいろいろと問題があるので、私の助手でもさせようかと考えているが、貴様どう思う」

と嶋中大尉に目を向ける

「部長のお知り合いなのですか?」と嶋中

「まあ、知り合いといえば知り合いか、よし、貴様は私付きの付き人をしてもらう、恰好よく言えば秘書だ」

「ありがとうございます」


「えっ!軍令部長本気ですか?」嶋中大尉は口をあんぐり開けている。

「まあ、御前にいっても信じんだろうが、いろいろとあるのだこいつにはな」東郷部長は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべている


「いろいろですか」

「嶋中、今は言えんが、いろいろこちらにも都合があってな、付き人にでもして、儂が監視せんとヤバいやつなんでな」


「部長が監視ですか?お前なにしたんだ」胡乱な表情の嶋中大尉

「儂の手元に置いておかんと、大変なことをしでかしそうで、心配なのだ」

東郷はそういいながら椅子に座る。そして、こちらを見つめている

「それで、高野貴様のことを少し兵学校の知り合いに問い合わせてみたんだが、組打ち術が抜群に強い、成績は抜群、教練も満点、水泳は果てしなく泳ぎ続け、語学はすべて母国語並みにしゃべれる、おまけに手術まで行うという、人外の人だときかされた、生徒たちは神の子、神使、御使いなどと呼んでいるとな、どうだ本当なのか?」


尋常でないオーラが吹き付けてくる。

「組打ちは、得意ですし、語学もおかげ様でできると思います、呼び方などは、皆が勝手に読んでいるだけにすぎません、手術の話は、手伝っただけです、噂には尾ひれはひれが付くものです、わたくしはいたって普通の人間であります」軍神をまえにして平気でうそぶくことができる人間を普通の人間とはよばない


「やはり普通ではないようです、部長」

世界のアドミラル東郷を前にして、普通に受け答えできる少尉候補生などほかに存在しまい、大尉である嶋中でさえ、東郷の前に出るとこえが上ずってしまうのだから


「そうか、お前は儂の付き人でよいのな?」

「は!よろしくお願いします、右も左もわかりませんので、できることを全力でやるのみです、軍令部長の小間使いとしておいてくださるのなら、とても光栄であります」

と敬礼する


「まあいいだろう」

「高野、貴様は今から軍令部長付き武官だ、しっかり儂を警護してくれ」

「は!お任せください」


そうして、軍令部長付の護衛として仕事をもらったのだった

護衛といっても実際は、小間使いのような雑用係だったが・・・

それでも、部長室に来る人間たちは将官ばかりである。その中から有望そうな人間を一人づつ味方につけていこう、さすがに将官にまで登りつめていく人間達、簡単に陥落などしないだろうがな

極め付けが東郷軍令部長である、この人艦隊派なんだよね


・・・・・・

「おい、高野」と部長

「はい」受付から部長室に入る

「今日は、時間がある、貴様の考えていることを儂に聞かせてくれ、儂もお前の言う準備をしておきたい」

部長の鋭い眼光が俺の目を射貫くようだ


「は!では、小官の考えなど少し部長にきいていただきたくあります」

「まあ、座れ」中央のソファを勧められる


「何からお話しすればよいのか」

「では、あの映像を踏まえて、少し説明させていただきます、あの戦争は、昭和という時代に発生しますので、当分先になりますが、それまでにもいろりいろとあります、それと今までの戦争とはすべてが根本から変わります」

「戦争が変わるとは、どういうことだ」

「はい、今まで、わが国が行ってきた戦争は限定戦争という範疇に入るかと考えます、例えば、旅順や奉天で戦いそこで、勝てば終わるということです、しかし、総力戦という戦いはそうはいきません、日露戦争でいえば、日本は広大なロシアを占領しなけれならず、また、敵が兵器を作る工場を破壊し、敵の戦闘継続力をなくす必要があるということです、さらには、工場で働く市民まで殺さねばなりません、大変過酷な状態になるのです、これが総力戦と呼ばれるものになります」


「国民まで殺すのか!卑怯ではないか」

「そういうことを言っていると、自分の国の国民が殺されます、総力なのです、ですから国民すら大量に殺されるようなことになります」

「民間人を大量殺戮?」

「空から爆弾を落とせばそうなります。兵器を作るのが民間人であれば、それらを殺さねばなりません」

「敵国の戦略は必ず、国の経済力を低下させ、そののちに降伏させることを常套手段にしています。」

「おい、敵国とはどこのことだ」

「米国であります。」

「何?露西亜ではないのか?」

「いずれ、こちらが窮地に陥れば、ロシアも攻めてくることに成るでしょう」

「おいおい、お前は誰と戦うつもりなのか?」

「私が戦いたのではありません、日本国はいずれ、戦争せざる得ない状況に追い込まれていくことに成ります。アジアにおける利権を我が国から奪うためには、そうするしかないからであります」


「閣下は、海軍で一番重要なのは、戦艦であると考えておられますか?」

「当たり前ではないか」

「しかし、これから飛行機が現れます」

「飛行機?」

「航空機の技術が戦争を変えます、陸海空で戦う必要あります、また、航空機ははるか主砲の射程外から来ますので、砲戦を行うことはできなくなりますが、それでも重要ですか」

「なんだと!」

「航空母艦という艦種が生まれ、大きく艦隊の意味が代わります、そのことに初めに気付くものが、兄の五十六ということになります」

「むむ」

「しかし、それが逆に問題になります」

「何がだ」

「空母が重要ということが分かれば、それを作ればいいことになります、日本と米国どちらが多くの空母を作れるでしょうか」

「・・・」

「もちろん、米国です、国力が圧倒的に違うのですから、当たり前です」


「ところで、戦争までには、いろいろあると申し上げましたが、日本、米国、英国などは一生懸命に戦艦などを作り始めると、予算不足に陥るのですが、自分だけ弱音を吐くことができず、一緒に軍艦製造予算を減らそうなどと、軍縮会議なるものを行います」

「軍縮会議か」

「そこで米英は10日本は7などと言ってきます」

「馬鹿な、そんなことは認めん」

「閣下そこでの答えはそれでよいのでしょうか」

「当たり前だ、最低でも同じ数がないと勝てぬではないか」

「ですが、本気を出せば、米英のほうが建艦能力は上なのではありませんか」

「そんなことはわかっておる」

「問題は、数ではありません、作る能力なのです」

「作る能力さえあれば、いつでも作ることができるのです、もちろん軍縮条約が失効する前には、この三国は大いに戦艦を作り始めることになります、そこで閣下にお願いしたいのは、そういう状況になった時には、少ない数でも構わないと言ってほしいのです、ただし、減らした予算は港湾整備に回して、造船ドックを作っておき建造能力だけは維持するのが大事なことであることをご承知おき頂きたいのです」


「さらに言うと、その間に、船を作る技術の向上、性能を向上させ、短期間で作り上げる技術を磨くのです、また、数合わせのために、他国に船を売り払います、戦争が起これば、すぐに返してくれる国に」


「相手を油断させるということか」

「まあ、油断するような相手ではありませんから、しかし、どんなに力んでも、作る能力がなければまったく意味がありません」

「貴様の言うとおりだが・・・」


「明確な目的をもって、しっかりと準備を行わなければ、あの悲惨な状況を回避できません」


「儂にどうしろと」


声を低めて「・・・・・」


「お前、何を考えている」


「私、個人的には戦艦が大好きなので」黒い笑顔の少年兵がそこ立っていた


いつも読んでくださりありがとうございます。

応援のおかげでランキングも上がってきました。

これからもよろしくお願いします。

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