部下たち
兵学校で俺が熱弁をふるい、いわゆる信者たちを洗脳しているころ
岩倉は一人奮闘していた、儲かっている企業を経営していくのはすべて岩倉だったからである
新しく立ち上げた、不動産会社に指示し、大連に用地を確保させ、新工場を建設する準備を執り行い、藤の農業会社の世話をし、輸送船の新造を発注し、海運会社も立ち上げ、今あるBFAを回していくのである、そんな中、高野工業技術専門学校の生徒から優秀なものが出てきたことから、大学の世話をしてやらねばならなかったのだ
また、部隊の要員の中でも、年かさのものの就職を斡旋したりもしている、そうしなければ、部隊戦闘員はほぼ百瀬組のヤクザになってしまうからである
まあ、世話自体、またほかのこまごましたことは、岩倉玩具や岩倉商事の社員にさせれば問題ないが、すべての決裁を自分が執り行わねばならなかった
とにかく、すべて自分の責任で行うということは、孤独な戦いなのである
上に立つということは、孤独で判断を迫られることの連続であった
玩具の方は、アメリカでも普通に売れ出したので、急激に儲けがなくなることはなかった
それと、総長が言っていた、満州鉄道株の売買でも、3倍の稼ぎをたたき出した
かけた資金100万円が300万円になって帰ってきた、総長から託された資金も3倍で売り抜けの指示があったのでそうした
3000万円!なんということか!総長の元手資金1000万円はどうやって手に入れたのか?
詮索はしないほうが良いだろう
しかし、この途方もない金をどうするつもりなのか?
喜びもつかの間、景気は悪化すると総長から言われたいたが、その通りになった、初めて会った時から、尋常ではなかったが、まさに異常である、彼こそが、神が遣わした人間に違いないと近ごろ確信を持つにいった
あまりにも、正確すぎるだろう
新型輸送船は長岡丸と名付けた
「今は景気が悪いから、とにかくカナダで、ニッケルを買い集めておいてくれ、倉庫が足りなかったら、すまんが立てておいてくれ」手紙に書かれていた、なんで景気が悪いとニッケルを買う必要があるのだろうか?
「あとな、自動車も載せれるだけ、輸入してくれ」
買うのはいいのだが、行きの船に乗せていく物が大変だった
輸出品を請け負うのが難しかった
その手配はまあ、社員にすべて任せる、倉庫を建てる土地を探さねば、これも、不動産部門に任せよう
しかし、自動車とは?乗りたいのだろうか?新しい物好きそうであるからそうに違いない、しかし、何台かあれば十分なのではないだろうか、岩倉の心配は尽きないのである
そんなとき、会社に、白髪の男が現れたのだ
「社長、お客様です、応接に通しております」と秘書がいってくる
「ああ」と答える
応接室に行くと白髪の男が待っていた
「百瀬さん、今日は何か御用ですか」
「はい、岩倉様」
「岩倉でいいですよ、百瀬さんのほうがはるかに年上なんですから」
「いえ、あのお方の右腕の岩倉様ですから」
百瀬はあの日を境に変わってしまった
といっても、昔を知っていたわけではないが、変わったのは間違いないはずだ
まず、体形が変わった、小太りだったのが、腹がへっこんだ、今は筋肉がたっぷりついている
髪の色が黒から白に代わった、あまりの恐怖に遭遇すると、変化したりするというが・・・
目つきが変わった、非常に鋭い、油断がまったくなく、常に張りつめているような感じである
彼は何かに追いつかれるのを恐れるように次々と支配地をひろげていった
その間、BFAの拳銃を回してやった
「実は、新潟県の制圧が完了しました、岩倉様からも助力をいただきながら、時間がかかってしまいました、大変申し訳ない」と百瀬が白髪をさげる
「いえ、構いません、というか、総長からもそういう命令はでていないはずですが」
「いや、あのお方はきっとそう望んでおられたと思います、そこで、非才ながらこの百瀬粉骨砕身いたしました」とにっこりと笑顔をみせる、しかしそれを見た人は、凄まれているとしか思えなかったであろうが・・・
「そうですか、総長も喜んでくださるといいですね」と軽く返す岩倉に
「いや、そうではありますまい」ととたんに真剣な表情になる百瀬
「?」
「次の制圧地区は、どこにいたしたらよいかと考えまして、罷り越したというわけです」
「まだ、戦争がし足りないと?」
「戦争ではありません、あのお方の支配する地域が足りないのです」
なんかこいつやばいな!そう思いながら
「そうですね、一度お伺いを立ててみましょう、報告書も出す必要がありますから」
ぎろりと目が動いた
「いえ、それには及びません、我々できめれば良いことです」と百瀬
「そうですか?」
「そうです、そのような些細なことは、部下たる私達が決めればよいのです」
「では、百瀬さんはどう思っていらっしゃるので」
「はい、岩倉様、富山が良いと考えています」
「そうですね、総長は船をどんどん作れと言っていますから、海沿いのほうが良いと思います、では、富山ということで、あまり無茶をしないようにお願いしますよ」
百瀬はニカリと笑みを浮かべた
「もちろん、では、今月のアガリです、では」
茶封筒をテーブルに置いた百瀬は満足そうに出ていった
「もう、ある意味手遅れですかね」そう一人ごちるのだった
・・・・・
農業では儲からないからな!
その一言は、衝撃であった、自分も岩倉副長のように儲けて、貢献したいと考えていたからである
総長、では俺がやっていることは無駄なのでは?そう口から出かけたのだが
戦争の基本は兵站である、兵站の基本は食料である、十分な食料があってこそ兵は戦える、そこを間違ってはならない
「お前のやることは蔵を満たすことである、それも日本人全体を食わせるくらいの量を」
「耐寒品種を作っている人間がいるから、探せ」
総長がそういわれたので、探していたのだが、案外すぐに見つかる
その人のやり方は至極簡単であった、苗を育て、その中でよい品種だけをまた育てていく
それを繰り返し、強い品種だけを選抜し、増やしていくというものである
さらに、その間も品種交配も行って新種の開発も行うのである
とてつもなく、手間のかかる方法である、こんな根気のいる作業を毎日毎日、良く続けられる、だが、自分も農業部門をまかされたのである、この人からいい苗を分けてもらうためにも、頑張らねばならない、時間のある時はできるだけその人を手伝うことにしている
藤とその部下達は、農業を学びながら、この偉人の手伝いを続けるのであった
そのための給料などは、岩倉のところから送られてきている
従来の田や小麦畑は他の要員がしっかりとやっていってくれることを信じて、自分はここで頑張ろう、実験田を見つめる藤がそこにいた
そんなころである、突然
「ところで、藤君、小麦ができたら、食べたいものがあるから、サトウカエデを一杯植えといて」突然意味不明の手紙が届く、総長からであった
「サトウカエデ?」始めは人の名前?佐藤楓さん?と思ったが、岩倉副長に調べてもらったら、木のようだ
どうやらカナダでは、この木から樹液をとって煮詰めて、シロップをつくり出すらしい
苗木は岩倉副長が手配してくれている
「総長は甘いもの好きなのか?」
「藤、養蜂もしといたほうがいいかもしれん」
「では、人員の手配もお願いします」
「わかった、余ってるやつがいるから、そいつらを回す」
「赤字ばかりで申し訳ない」と藤
「総長のおかげで、その程度の赤字は全く、まったくもって心配はない、君は全力で、生産しなさい」と岩倉
こうして、藤農業では、米作、小麦作、養蜂、植樹と幅広い事業を展開することになる
しかし、その後に、また、砂糖製造を任されることになるとはこの時は考えもしないことだった
・・・・・・
郷田は、まさにロシアをさまよい歩いていた、シベリア鉄道で、ヨーロッパを目指したのである、様々な土地を観て、言語を習得するための修行である
ロシアの首都サンクトぺテルブルクは美しいまちだったが、人々は圧政に苦しんでいるせいか、やたらとデモが横行していた
そんな中、次々と襲われた、もちろん喧嘩で負けるわけにはいかない、返り討ちにする
そして、そいつの家に世話になったりするのである
言葉や習慣はウラジオストクで十分にわかるようになっていた
次の日はそいつの敵のところに行き、また、喧嘩である
次々と倒していく、ここは喧嘩の聖地である、そう感じた、日本にはない、殺伐とした戦闘の世界、貴族と農民、労働者と資本家、あらゆる階級が、戦っている、文字通り戦っているのだ、血を流しながらな!
もちろん、相手が武器を使うこともあり、何度か危ない目にもあったが、それでも、倒し続けたのだ、そうしていく間に、だんだんと仲間ができていく
長岡では戦闘訓練自体は、常に厳しく行われており、自分自身も手を抜くことはなかった
そうなのだ、隊長にやられて完全に心を砕かれたが、やっと、かつての牙が生えてきたのではないか?自分の中で殺された、または死んでいた何かがやっと目覚たような気がしていた、生き生きとした自分がここにいるのだった、そう猛獣の心の復活はもうすぐだ!
資金もあり、少人数の組織を作るくらいわけはなかった、こちらの人間は、奪われるほうが悪いという考え方の人間が多い、「俺と一緒の考え方」だ、やられるほうが悪いのだ
そうなのだ、そのとおりだ!俺と同じ考えの人間がいっぱいいるのだ、このロシアには
いつの間にか、サンクトペテルブルクの地下組織でも名をとどろかせる存在になっていた
しかし、肉食を推奨され腹いっぱい食わしてもらっていたせいで、身長に恵まれたのは、良かった、160程度では、この国では、目立てない
自分の高身長(それでも180程度)が役にたった、裏社会では、はったりが大きな部分を占めているところがある、体が大きく迫力がある方が何かと都合がよいのである
イギリスに行くように言われていたが、俺はロシアが気に入ったので、長居することになる、その代わり、部下になった者たちを、イギリス、ドイツなど必要なところに行かせることにした
そうして、スパルタク・アバレーエフ(偽ロシア人)偽戸籍、偽パスポート所持が生まれたのである(郷田氏のこと)
「さあ、早速部隊を鍛えねばならんな」やることは日本でやってきたことと同じである
あとは、いかに裏切らないようにするか、血の契約をお願いすべきか?それとも、完全に洗脳するか、それは後々考えるとしよう
牙を取り戻した野獣ロシアの寒空に月をにらむ!
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