派閥結成
「しかし、総長、なぜ目標は原爆投下阻止なのですか?」と山口
「うむ、実はな、私は#$%&女神とその約束をしているのでな」
「#$%&女神とは、聞いたことがありませんね」
「そうだ、参謀、私もだよ、それに何回もご尊顔を拝し奉っているがな、いつも目線だけ隠されていてな、実に奇妙なのだよ、まさに目隠し女神と呼ぶにふさわしいのだ」と俺
「総長!」
「うん、参謀その先は言わんでよい、私も担がれているという懸念はないでもないのだ、しかし、歴史はあの映像通りに進むことは間違いない」俺は、そのことを知っている
「#$%&」の部分は人間の発声器官では、はっきりと発音できない
「それにな、米国は強い、あの国が本気で戦えば、日本が勝つことはできない、物理的にな」
「では?」山口は考え込んでいる風である
「参謀、だが、勝てはせんだろうが、負けない戦いはできる、いや、それしか生き延びる方法はない、そこにかけているといってもよい」と俺
「負けない戦い」
「そうだ、負けない戦いだ」
「しかし俺の条件は、原爆阻止だがな」と俺は一人ごちる
あくまでも、原爆阻止が条件で、戦の勝ち負けではないのである
もちろん、米国が全力で兵器を量産すれば、日本などアッという間にすりつぶされてしまうだろうが、そんなことを言うわけにも行かない
・・・・・
「長岡派?なんだそれは?」
「越後派じゃないのか?」
「とにかく、一年の高野が主宰してる派閥らしいな」
人間三人集まれば派閥ができるという、どうせ後に、艦隊派と条約派ができるのである、こちらが新しい派閥を作っても何も問題がないであろう
早速、同期の南雲と有栖川宮様を仲間に強制的に引き込む。有名人、あるいは非有名人もすべからくわが派閥に入ってもらうことにする
ちなみに、南雲はいわゆる艦隊派になるはずの人物であったのだが、この世界では、長岡派の筆頭格になってもらうつもりだ
そして、派閥の隠れ蓑である研究会が発足した
総力戦研究会、来るべき大戦における日本の国土防衛のための政治・外交と戦略、新兵器など、その方法論を研究するという名目の会である
もちろん中身もそのことが主眼となる
しかし、洗脳教室の場でもある
刺激的な映像をみせ、パニック状態に追い込み、すくわれるにはどうすればよいのかを、俺が教え、最後には、俺の料理がふるまわれ、鞭と鞭と飴が繰り返されるのであった
「それで、この疲れた状態でさらに何を研究しようというのか?」南雲君がやつれた表情でいう
確かに、普通の人間には、この学校の課程はつらいものである、座学に実習に体力づくり一日終われば、へとへとである
しかし、俺はその程度のことは、朝飯前に終えてしまうのである
ずば抜けた体力、あるいはもともと能力が高いのかもしれないのだから当然である
「確かに、南雲君の言う通りだ、私ももういますぐにでも寝たいのだが」と宮様
宮様の家は、みな虚弱な体質のようで、父君もあまり健康がすぐれないという
宮様自身も、士官学校卒業を前に、盲腸炎で死亡してしまうという、悲劇的な人生をたどることになっている、俺の知る歴史ではな・・・
では、虚弱な宮様がなぜ兵学校に入るのか?
日本の貴族制度の問題であった、本来は、海軍兵学校、陸軍士官学校などには、貴族いわゆる、元武家が入ってほしかったのであるが、人気がなかったのである、それゆえ、天皇家が率先垂範してみせる必要に迫られた、そこで、宮家の息子たちは仕方なしに兵学校などに入るようになったのである
「須らく士官とは、兵の手本と成らねばなりません」と俺
教室には、俺、山口、南雲、宮様、上級生10人ほどがいる。
「これから、この研究会では、来るべき戦争において日本が生き残る術を徹底的に研究し、実行していく必要があります、皆さんが各部署に配属されていった時に、その部署で仲間を増やし、指導していくことが必要とされています、そのための勉強会だと心得てください、皆さんは日本を導くエリートなのだということを、肝に銘じていただきたい」
そして、俺は、あの映像の中身について語り、日本の敗因についてそれを修正する手段を滔々と語りはじめるのであった
「仲間を増やすのに、手段は選びません、いいですか、金の欲しいやつには、握らせ、女に弱いやつにはそれをあてがい、脅しに弱いやつは脅してでも、仲間、いやこの場合は、配下ですかね、を増やしてください」と俺
「総長、それはあまりにもひどいのでは」山口参謀が声をだす
「資金は私の方で用立てます、なんとしてでもやってください」きれいごとで戦争をするつもりは毛頭ないわ!
俺は心の中で絶叫するのであった
・・・・
山口参謀の視点
総長が雄弁に語られている
長岡にいるときは、聞いたことがなかったことばかりである
「まず、第一に、海軍・陸軍はあらゆる場面で足の引っ張りあいをしている、これでは、自分たちで限られた資源を食い合い、総力戦にはとても勝つことはできない」
「其の2、国力が数段劣る我が国では、戦い方をよくよく考える必要がある、欧米列強すべてと同時に戦う、中国一つでも、倒すことが難しいのにである、各個撃破を狙うべきである」
「其の3、葉隠れが如きは、もっとも忌むべき考え方である、とにかく徹底して生き延びる、どんなに、汚くても生き延びる、何度でも戦場に復帰する不死身の精神力をもった兵士が必要なのである、潔い死などまったくもって無用である、兵士を鍛えるにかかった時間、資金がどれほどのものか考えれば、すぐにわかるはずである」
「其の4、」
しかし、上級生すらもう机に突っ伏してよだれをたらしていた。
全くふがいないやつらである
こうして、新たな派閥の総力戦究会が無事は出港したのである
当初は十数人で始まった研究会だが・・・
数日後、教室は、満室であった、なぜか?
「総長、人を呼ぶとっておきの方法があります」と山口
「なんだ、それは」
「総長、あの鍋ですよ!」
「鍋?」
「あのイノシシの鍋はうまかった」
「まあ、うまかったな」
「あれを研究会の後に出すんですよ」
「だがな」
「材料は総長の見えない袋に入っているのでは?」
「今のは聞かなかったことにしておく」
「はい、ですが手段を択ばずとは、総長のお言葉かと」
「俺が作るのか?講師も俺なんだが」
「先に作っておけば問題ないかと、調理場は借りる許可を得ておきました」
「どうしても?」
「はい、総長の料理は神のごとし、あっという間に信者を増やせるかと」
「信者じゃないが」
「いえ、同じようなものです」
そうして、鍋が会の終了時におやつとして出されると、次の回、その次の回には、教室が席の数だけ埋まってしまった
今は、前後半の2部制になってしまった
・・・・・
「それでは、今のところ、南雲君」
「はい、これからの戦いでは、陸海空の3次元の戦い方が肝要であるということでしょうか?」
「その通り、航空兵器は、一気に進歩してくる、今までのように艦と艦が砲撃を始める前にまずは、この空撃が肝心になる、そのためには航空母艦を守り、相手の母艦をいかに早く発見し、これに打撃を与えるかが最も重要なこととなる」
「しかし、飛行機がどのようにして、攻撃できるのですか」
むしろこの時代の飛行機は、飛ぶのがやっとのところであった
「航空技術の進歩が爆弾を搭載させることにつながる、わが国は航空技術の進歩を急ぐ必要があるということだ、技術の進歩こそ最も重要なことなのである」
「わかりました!」南雲君は直立不動の姿勢になり、頭を深々と下げる
「我我は神国日本を守らねばならん、そこのところをよく考えてほしい、みながこの国を守る責務を背おうているのである」
「はい、肝に銘じます」
いつの間にか、彼等の頭の中にそれは刷り込まれていく
「だがな、大艦巨砲主義は表面上は維持しておく必要があることは、留意しておくように、我々の戦法を気取られては困るからな」と悪い笑顔の男がそこにいた
「では、我が海軍はどのようなことを準備する必要があると思うか?はい、アリス様」
「海上輸送路の確保、絶対防衛圏海域の防衛、敵艦隊の撃滅です」おっとりとした口調ながら、中身はしっかりとした答えである。
「そのとおりです、しかしながら、まだ足りないものがあります」
「というか、今のは必要な一部にすぎません、こちら側では、潜水艦による通商破壊、対潜哨戒機による徹底した敵潜水艦破壊、海兵隊の創設、基地建設用機械化部隊等必要なものはいくらでもあります、これらも必要なことでもあります」
「私も私財から、何らかの協力をしましょうか?」
「アリス様、そのお話は大変有難い、投資向きの話は別に相談させていただきたい、こちらでも私的にいろいろやっておりますが、まったくもって足りませんので」
岩倉はよくやってくれており、BFAも順調に事業を拡大させている
だが、それは日本全体から見れば全く目に見えない程度の変化でしかない
資金、人すべてがまったく足りていない
そもそも、足りる時が来るのかどうかすら全く不明であった
「父上にも相談してみよう」と宮様
やはりこういう時、育ちの良い人は素直でよい
「ありがとうございます、そのような用向きまったくもってありがたいことでございます」
完璧な笑顔を向ける俺に
「総長、笑顔が黒いですよ」と山口
「そんなことはないぞ」俺は黒い笑顔を浮かべているようだ、自覚は全くない
山口参謀が少し引きつっている
いつもお読みくださりありがとうございます。
評価の星を押して後押しをしてくだされば大変ありがたいです。




