ブラウニング
1901年(明治34年)
この年、日英同盟の協議が開始される、ロシアの南下政策を警戒して両国の利害が一致してのことである
そして、この同盟のおかげで、ロシア艦隊の情報を英国経由で得て、日本は勝つことができるのである
兄、五十六が海軍兵学校に入学した
俺は順調に小学6年生に進級した
そして、株式会社岩倉は〈リバーシ〉の爆発的大ヒットに続く第二弾〈トランプ〉を発売、日本で最も有名な玩具会社となっていた、岩倉の次の製品である、いろいろな遊び方を提示して販売したので、これも空前の大ヒットとなる
売上の急増で、株式会社岩倉は大きくなり、長岡部隊以外の人間がかなり社員に加わったため、通常の堅気の会社となったように見える、継続的に売れる商品をもったことで、経営が安定し、俺たちが手を入れる必要がなくなった
一方、新潟市内では部隊の編制が進んでいる、新潟市の郊外で訓練所が開設され訓練が開始されている、格闘教官は長岡部隊の隊員が、語学、教養の教師たちが新たに雇われた
そんな中に、武道の教官に植芝盛平氏が迎えられ、英語教師に南方熊楠氏が迎えられた、目隠し女神に所在を確認させていたのである
今度は、新潟市の野生児やヤクザを狩りだして調教していくのである
拠点ができたことにより、百瀬組の組員もそこで訓練を積むことになった
「岩倉よ」
「はい隊長なんですか」
「物資の輸入を始めるたい」
「突然どうしたんですか」
「船が欲しいな」
「ずいぶんと突然ですね、漁船じゃないですよね」
「輸送船だよ」
「それで貿易をするんですか」
「そうだな、貿易だよ」
「何かあるんですね」
「ああ、あるな」
「では、値段を調べますね」
「船で儲かるのはまだ先だが、いずれは造船所も起こしたい」
「隊長、現状では無理ではないですか、買い取るとかなら可能かとおもいますが」
「そうだな、焦りすぎた」
「隊長はまだ小学生じゃないですか」そうだった、まだ小学6年生(飛び級しているので本当は3年生)だったことを思い出す
「うん、そうだな」
近ごろ何かと、岩倉が俺の世話をしてくれている?のかもしれない
だが、しかしである、残された時間は有限である、一歩も二歩も進まねばならない
「郷田は元気にしているかなあ」
「郷田なら、元気なのは間違いないですよ」
「そうだな」
俺たちがそんなに黄昏ているころ
米国の先生から手紙が届く、先方さんが来日の準備に入ったとのこと
夏頃には、日本に到着するとのことである
早速、スケジュールの調整を岩倉にお願いする
東京見物後、京都観光、福井経由新潟のコースで豪遊できるように手はずを整える
岩倉は、空前のヒットで相当な資金を得ている、社員も50名以上に増えたので人手も十分にある
戦闘員なら、長岡にも100名以上いる
それに、玩具事業は分社化し、別事業を組み立てる準備に入っている
俺には、次の玩具が思い当たらなかった、もちろん、チェスとか億〇長者、人〇ゲームなどは開発できるのかもしれないが、そもそも、玩具会社が欲しかったわけではない
始まりで儲けることが目標だったのである
まあ、分社のほうには、それとなくこれらを企画させるようにしてみるが・・・
すでに数十万円の資金と年数万円の利益が毎年見込まれている
・・・・
夏、久方ぶりに先生に会えるを楽しみに、横浜へ向かう、岩倉とその社員数名の一団である、横浜から東京へと向かい、東京で帝国ホテルに宿泊し、東京見物を行う予定である
「先生!山口先生!」後ろには〈ウェルカム、ブラウニングさん〉の横断幕を社員に持たせている
完全ウェスタンスタイルの山口がこちらに手を振る
「先生」何年かぶりの再会なので、感極まって抱きついて泣いてしまった
「九十九、お客さんの前だぞ」と社会性を身に着けた山口兄に諭されてしまった
「ウェルカム、ミスター、ブラウニング」後ろのハットとスーツ姿の背の高い外国人に話かける
「How do you do」ブラウニングさんは答えてくれた
「Im fine」以下すべて英語
「ようこそ、はるばる日本まで、」
「いや~、こちらこそお言葉に甘えてしまいました、お招きありがとうございます」
「いえいえ」
「ところで、早速例のあれを見せてほしのですが」
「ブラウニングさんは仕事熱心ですね、ですがまずは、皆さんお疲れでしょうし、ホテルまでも時間がかかります、移動しましょう、仕事は疲れが取れてからで十分でしょう」
「あなたはまだ若いのに相当英語が堪能ですな」
「ブラウニングさんも日本語を覚えるぐらい日本におられたら良いと思っています」
「いやいや、そうもいかんですよ」
そんなやり取りをしながら、東京への汽車に乗る
一行(山口、ブラウニング、奥さん2人に兄弟4人)は計8人の大所帯でしかも荷物も含めれば相当なものである
荷物は岩倉の社員にお願いし、俺と岩倉が一行に随行して東京を目指す
ブラウニングさんにはこの時妻が二人いる、宗教的にはOKなのだそうだ
山口とホテルで打ち合わせをし、夜は豪華なディナーを一行で食べる
さすがに、一流ホテル、前世の記憶でも見たことのない素晴らしい食事を堪能することができた
その後、俺と山口はホテルの一室で旧交を温めた
連日の物見遊山と贅沢な時間を満喫し、一行は箱根温泉へと向かうことになる
俺は、京都見物に付き合っているわけにはいかず、長岡に帰ることになっていた
「新潟でお待ちしております」ブラウニングさんに別れを告げる
彼らは、京都観光へと向かう、いわゆる接待攻勢である
彼らは、東京、京都、敦賀、新潟のコースをゆっくり豪遊しながら来てもらう
「では、お言葉に甘えます、これではどのようにお返ししたらよいか」
「岩倉社長お願いします」岩倉の父勝次良が社長として、接待を取り仕切ってくれる
「委細お任せください」岩倉が丁寧に頭を下げる
・・・・・
山口兄の視点
日本到着から十数日ごやっとのことで、新潟に戻ってくることができた
汽車が新潟駅のホームに入っていく
ホームには多数の人間が待っていた、きっと九十九の仕業である
横断幕にようこそブラウニングさんと英語や日本語で大書されている
一家がホームに降りたつと数百名の人間が「ブラウニングさん万歳!」と何度も連呼して手を振り上げて迎えてくれる、それはまさに英雄の帰還とでもいうような光景だった
一家はとても驚いていたが、とても喜んでくれていた
しかし、この人数どうやって、集めたんだと考えてしまう
しかも、どうも普通の人間たちではない、きっと鍛えられた少年たちである
その中から、弟が出てきた「兄上!」
「おお、勇!元気だったか」見違えた、昔は田舎の子供だったが、今はちゃんとした服装で知恵が身に付いたのがよくわかる、九十九は約束を守ってくれたようだ
ようやく故郷に帰還したのだと思わず落涙するのだった
・・・・・
「そういえば参謀の名は、勇だったのだな」俺は一人ごちた
いや、もちろん知っていたぞ、本当だ
次の日、新潟市岩倉本社ビルの会議室
「長旅でお疲れはないですか」
「ええ、もんだいありません、歓待ぶりに驚きました、本国でもああいう感動的なことに出会ったことはありません、本当にありがとうございます」
「では、仕事の話をさせていただきます」と岩倉があまり流暢とはいかないまでも、はっきりと簡単な単語を使いながら話し始める
不足分は山口兄が英語の注釈をつける
「正直に申し上げますと、わが社の新事業として、銃砲の製作を行いたいと考えておりまして、ブラウニング先生の開発した銃のパテントを売っていただきたいと考えています」
「それだけのために、このような歓待をされているのですか?」
ブラウニング氏は非常に驚いた表情を浮かべている
「それだけとは!先生の発明は、世界の最先端です、その銃を作って売れば、言い方は悪いですが、ぼろもうけも確実です」と岩倉
「いや~正直いって、どのようなことを要求されるのだろうと内心ひやひやしておりました」とブロウニング氏
「それでは、売っていただけるので」
「ここまで、していただいて何もせずに帰るわけにはまいりません、今までのものはすでに他社にお売りしているので、今開発中からのものをお売りすることになると思いますが、それでよろしいですか」
「ありがとうございます、できるだけ高値で買い取らせていただきますので、どうかお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、契約書を用意しますので後程よろしくお願いします」
「ええ、大丈夫です」
「では、ブラウニングさん、前から手紙で書かせていただいた、銃についてお見せします、ですが、私自身銃のことについて詳しくないので、これがどのようなものなのか説明できませんし、由来も語ることはできません、どうかご容赦願います、それとこれのことは他言無用に願います」と俺
「わかりました、神に誓います」
桐の箱のふたを開けると布でくるまれた自動小銃があった
「開けてみていいですか」
正直言ってあまり見せたくはなかったのだが、日本に来てもらうにはこの方法が適切だと思われたのだ
「どうぞ」
ブラウニングがおもむろに布をめくる
誰が見てもAK47自動小銃であった、転生したときに、お土産として頼んだものである
「なんだ!これは」
ブラウニングの表情は青ざめ、赤くなり、白くなり千変万化の変化を見せる
「馬鹿な!こいつは天才だ、こんなもの見たこともないぞ!」
「誰だ、こいつを作った奴は誰だ!」
先ほどの説明はすでに忘れ去られていた
「ブラウニングさん落ち着いて、出所は不明です、私にもよくわからないのです」
「おお、そうでした、失礼、あまりのことに取り乱してしまいました」
「申し訳ないが分解してもよろしいか、中がどうなっているか見たい、見たいのです」
「先生、私、自分では、組み立て方はわかりません」
「それは、私が責任をもってちゃんと組立て直しますので安心してください、分解です分解、すぐに分解しましょう、どのような機構なのか調べないと、どうやら連発式のライフルのようですが」
「先生落ち着きましょう、大丈夫ですよ、銃は逃げませんから」
「貸していただけるのですか?」
「先生、わざわざ日本まで来ていただいたのにもちろんですよ、それに、これから新たなインスピレーションを得てもらって、新型銃を開発していただいたら、わが社に売っていただけるんですから」
「そうでした、年甲斐もなく面目ない」
翌日契約書文が用意され今後ブラウニング氏が開発した銃は、株式会社岩倉にパテントを適正価格にて優先的に売買することになることがしるされた
「日本では、署名のほかに血判もいるのですか?」
ブラウニングは奇妙な慣習だと思いながら血判を押した
「ありがとうございます、できるだけ頑張らせていただきますので、開発の方をよろしくお願いします」
歴史の歯車が少し変わった瞬間だった




