拡充
長岡部隊発足から3か月が過ぎた、近ごろは不良少年たちの兄弟も参加し、40名前後の規模に育っていた、ここまでの人数になると、訓練の場所とそれなり設備(家屋など)が必要となってくる、基本的にこの時代の子供たちは、労働力として期待されているが、彼らはアウトロー的なスタンスであるため、労働者枠から外れている、簡単にいうと、親の言うことを聞かない子供たちなのである
銃剣の訓練と同時に格闘(喧嘩)の訓練も行っており、俺が指導することによって、かなりましになったようには思うのだが……
中でも郷田は、もともと才能(スキル闘魂)を持っていたので、相当腕を上げたといえる
これで、長岡市内のヤクザ相手でも戦えるであろうか
「ということで、ヤクザを制圧します」と俺
突然の宣言に隊員が固まる
「隊長、どういうことでしょうか」すかさず岩倉が問いの声を上げる
近ごろ、副官ポジションで皆の疑問を解決するために質問してくる
「ヤクザの制圧作戦を開始します」
「隊長、さすがにやばいですよ」山口参謀
「まあ、とりあえず腕試しと大人狩りですよ、この辺のヤクザの何人かを支配下に置きたいとおもいます」小学生が中学生に命令している図はシュールである
「なぜですか」と岩倉
「まずは、不動産の取得です、大人でなければ難しいですよね、それに、一般人に迷惑をかけることには、抵抗がありますが、ヤクザなら問題ないでしょう、武力制圧ですよ」
「いや、隊長が強いの間違いありませんが、ヤクザもメンツとかあるでしょうから、戦争になるんじゃ」
「いやいや、私は小学1年生ですよ、君たち上級生が頑張るのですよ」
「隊長少しお待ちください、大人の名義がいるなら、私の親に頼めば問題ないと思います」
「そういえば、岩倉の父上は何をしている?」
「商売人です、雑貨屋みたいなことをしております」
「手伝いをしなくて大丈夫なのか?」
「もちろん、そうしたらよいのでしょうが」
岩倉が頭を掻いている
「そうですか、では岩倉副長、父上に不動産の件お願いしてくれるか、条件は後で書いて渡す、金は心配いらないからな、だが、節約できるところはしたい」
「わかりました隊長、条件の内容についてよろしくお願いします」
「ということで、本拠地のほうはぼちぼちいくとして、隊員の拡充は急務といえる、そこで、君らには、舎弟づくりに力を入れてほしい、ただし、舎弟には、君らがそうであったように、素行不良であること、それを武力によって制圧すること、舎弟はのちに君らの副官、隊員となるので、そのつもりで、舎弟を多く引き連れてくるものには褒美を与えるので皆さん励んでください、以上、本日は解散、岩倉は残ってくれ」
・・・・・
数日後、岩倉の父(勝次郎)親名義で、不動産を賃貸することができた、建物は2階建てのかなり大きなもの、敷地もかなり広く、耕されていない畑もついている好物件を郊外に借りることができた、畑には早速、ジャガイモを植えることにする
建物は部隊本拠地とされる
早速、舎弟狩りをしてきた郷田がやってくる
「隊長、5名ほど舎弟を作りました、どうしたらいいですか」
「さすが郷田副長、やはりお手のものだな、では、長岡部隊の隊長としてお前がこれからここを仕切れ、俺はここの賄いがかりになるからな」
「え?」
「馬鹿野郎、小学一年に命令されたらいろいろとまずいだろう」
「まあ、そうですが」
「だから、これから長岡部隊の隊長はお前だ、自覚をもって仕事をこなすように」
「は!」
「では、新舎弟にこの契約書に血判を押させろ」
「中身は?」郷田の顔から血の気が引いている
「長岡部隊入隊と決して裏切らないという誓約である、裏切れば、部隊の記憶はすべて失うという中身にしている、よく読んでみろ」
「はい!」
勉強の不得意な郷田は、俺の字を必死で読み始める、以前の失敗はそこにあり、今は逆らう気は毛頭なくなったが、恐怖の記憶だけは、しっかりと刻まれているのであろう
彼は、契約書をこの先、一生ちゃんと読んで生きていくに違いない
「隊長、この全財産を#$%&女神に寄付するというのは?」
「何!そんなこと書いたつもりはないぞ」
郷田が妙な声を上げたが、驚いたのは俺だ
「なお、長岡部隊を裏切れば、#$%&女神に対して贖罪をなすため、全財産を喜捨することを誓うものである?」
いつの間にか、俺の字に似せているが、妙な一文が書き込まれている
「#$%&女神とは何でありますか?」
「あまり語りたくはないのだが、まあ、われら長岡部隊が帰依する女神の名だ」
「そうなのでありますか?」
「うん、そういえば貴様らにはいってなかったな」
というか、発音不明の女神を祭るのはいささか抵抗がある
「これ消えないのかな」
「墨だから無理ではないですか」
しかし、それは墨ではないような気がする、明らかに印字されている
やり方があくどい、邪神に違いない
だが、決して声にだしてはならないのである
「まあ、女神の思し召しである、これでいけ」
「きいたことのない名前ですね」
「そうだな、俺も聞いたことない」
こうして、表の看板は郷田にひきつがれたのだった
・・・・・
兄、五十六の視点
近ごろ変な噂をよく聞く、不良どもがかたっぱしから狩られているというのだ
うちの中学校には、郷田というのがいる、大変危険な奴である、誰彼構わず、喧嘩を売って倒していくという危険人物である
その郷田が突然、人が変わったという、今では全く別人のように大人しくしているらしい
そうしていると、今度は、郷田によって抑えられていた別の不良どもが勢力を伸ばしたらしいのだが、近ごろはそれらの奴が次々と倒されていくという、しかも、長岡市中の中学校でそのようなことが起こっていらしい
不良であるような素振りを見せると、刺客が送り込まれてくるらしいのだ
あっという間に、不良どもがいなくなった、もちろん、失踪したのではなく、大人しい人間に代わってしまったのだという
そういうわけで、学校に暴れ者はいなくなってしまった
まあ、まったく困るわけではないのだが・・・
しかし、あの郷田がなぜ変わってしまったのか?二つ名「狂犬」と呼ばれた男である
町のチンピラでさえ道を開けたというのに
・・・・・
毎日、契約書が届く、それに魔法で契約の効力を発揮させる
その程度の魔力であれば、問題ないのだが、もっと魔素を吸い込めれば、大きな力を得られそうなのが、とても残念である
この世界では、魔法は難しいのであろうか
それにしても、武力要員だけあって、彼らは相当頭が悪い
俺が、建物内で馬鹿どもに教育を施さなければならない、なぜ小学生一年生が上級生や中学生に国語を教えねばならないのか?算数に至っては、壊滅的状況である
「岩倉副長、ちょっとすいません」
「はい」新米たちは本当の隊長がだれか知らないので、俺は小間使い兼教師やくである
隊長は郷田で、副長は岩倉という役割である
部隊長室で、「また、お父さんに頼んでくれるか」
「何でしょうか」
「あいつらは押しなべて、勉強不足だ、あれでは使いものにならん、そこで、勉強を教えてくれる先生が必要だ、国語、算数、それと英語、ロシア語だ」
「英語、ロシア語って」
「これからは国際化時代だ、英語は世界の共通語である、それとロシアが日本と近いために非常に重要なのだ、幸いこの新潟では、ロシア人は割といる、ロシア語教師が必要だ、ロシア語を身につけてもらったものには、ロシアでの工作活動に従事してもらおうと思っている」
岩倉は神妙な顔つきで聞いているが、理解しているかは怪しいところだ、こいつも勉強不足だな
「わかりました、父親に相談してみます、給料とかは?」
「もちろん、私が払うから心配いらん、ひと月50円も払えばなりてはあるだろう?」
「は!相談してきます、しばらくお時間をいただきます」
「よろしく頼む」
このころの外国人をお雇い外国人などと日本では呼んでいる
そして、人口の多いこの新潟には、外国人はわりといるのである
進んだ文明を手に入れるため、高給を支払い、教えてもらうのである
1898年(明治31年)、日本は、もちろん国際化時代には向かってはいない




