休戦協定
休戦協定
その日の午後、2人の男がホワイトハウスによばれたあわただしく到着した、先のグリーブス准将とアンバー・ブッシュであった。
もちろん「それ」が、爆縮レンズであることは、他の人間でもわかっていたが、手紙に書かれていたことからよばれたのである。
あまりにも重いので未だに、同じ場所におかれたままであった。
彼らは別の場所にいたが、早朝から叩き起こされて、ワシントンDCまで飛んで来たのであった。
すでに安全性は確保されていた、時限式タイマーは作動していたが、火薬類が搭載されていなかった。あの男一流の冗談であったのだが、誰も笑う人間はいなかった。
もちろん濃縮ウランも無かった。皆一様に深刻な表情をしていた。
いとも容易くホワイトハウスの屋上に人間では持ち運び不可能な爆弾もどきをおいていくという、ありえない生物が存在したからである。
彼らがよばれたのは、この装置自体が合衆国の技術と比較してどういう位置にいるのかを調べるためであった。
「大統領、残念ながら、この爆縮レンズは完成の域にあるといえるでしょう」
装置を調べてから立ち上がったアンバー・ブッシュが言い、隣のグリーブス少将が頷いたとき、ブッシュの頭が砕け散り、グリーブス少将の頭もガクンと横に倒れ、そのまま、倒れこんだ。
トルーマン大統領の顔には大量の血や何か〇〇〇〇〇〇〇〇が飛び散った。(自主規制)
「大統領を守れ!」警護が叫ぶ。その時、始めて発射音が届く、長距離射撃であったため、音が後から来るのである。
警護がほぼ茫然自失の大統領を抱えてうずくまる。
警護の一人が「あそこだ!」
ジェファーソン記念館の屋根の上に、狙撃手が寝そべって此方を見ていた。
警護の兵士がライフルを構えて撃つがもちろん、届かないし、狙いも狂っていた。
そのような距離ではないからである。米国兵のM1ガーランド小銃の有効射程とは程遠い距離である。
ジェファーソン記念館の狙撃手の対物ライフルが火を吹いた。
先ほど撃った警護兵の頭が吹きとばされる。とてつもない距離の長距離射撃をいとも容易く成功させる。
それは、明らかに、大統領をいつでも狙撃することができたことを意味していた。
最初の一発目で、撃ち殺せたのである。
にわかに、パトロールカーがうなりを発し始め、周囲を警戒していた警官や兵士(場所の特性上多い)が動き始めていた。
だが、彼らが記念館に到達した時はもちろん影も形も無かったことは言うまでもない。
また、発見していた場合は物言わぬ骸をさらしたであろうことも間違いない。
トルーマン大統領はそれ以降PTSDに悩まされることになった。
目の前でそういう場面を目撃すれば仕方ないかもしれない。
世論の大半は休戦を望んでおり、大統領の決断を支持した。
そして、この戦争で戦死した26万9600名余の戦死が公表され、(多くが隠蔽されていた)
弔意が示された。
この休戦の決断により彼は第33代大統領に当選することができた。
何とも皮肉としかいうことができない出来事であった。
だが、これは休戦であり、決して終戦ではなかった。
また、ヨーロッパ方面の戦闘は未だ継続中であり、世界の混乱は収束していなかった。
だが、大日本帝国や関係諸国(アジアの独立諸国)には一時的にでも平和が訪れたことは、幸いであったにちがいない。(ロシアはドイツ帝国と交戦中)
・・・・・・
時が流れ
ニミッツの娘キャサリン(太平洋艦隊司令長官を解任されたニミッツの娘)は、書斎で亡き父のノートを発見する。
それには、太平洋戦争時の資料や考察などが集められていた。
そして、最後の方には、太平洋戦争の敗因の一つに、高野兄弟(山本五十六は旧姓高野五十六)が上げられていた。
ヤマモトフィフティーシックス、タカノナインティナイン
何度も、その名が登場する。
99、99、99とアラビア数字を呪文のように書いている。
タカノの誕生日は9月9日とも書いている。戦後集めたのであろう資料にもそう書かれていた。
その通りであった。彼は9月9日の朝9時に生まれているのだ。
別のページには、聖書の一節が書かれている
「また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である。」( ヨハネの黙示録13章16-18節)
666に線が引かれている
この獣の数字にはいろいろな説が存在するが、666は実は裏返った画像であり、本当は999、上下逆ではなかったかという言説も存在するのである。
「奴こそが『獣』であったのではないか?」父が熱心なキリスト教徒だったとは記憶していない。
そして、最晩年になると、「奴が『獣』だったに違いない!ああああ」に変化して、筆先に激しい怒りと同時に恐怖が込められていた。
因みに彼女の兄も父と同じく海軍士官であり、開戦時フィリピン沖で潜水艦乗り組み中、MIAとなっていた。
・・・・・・
そのころ獣はニューカレドニアにいた。
獣の一族は、制圧した南洋でニューカレドニアを領地として、大日本帝国からもらい受けた。
ロシア近くにいると、ロシアの跡継ぎ問題を起こすことが予想されたための特例で、ニューカレドニアの統治を任せるという名目でやってきたのである。
ロシア人嫁や付き人達は寒いのが嫌いだったので大喜びであったという。
獣はなぜか黒真珠の養殖にのめりこんだという。なぜかは不明である。
宝石などは好きで、ロシアで掘り出されるダイヤなどを楽しみにしていたらしい。
・・・・
そして、獣は齢99歳に及び天に召された。
天国に一番近い島で早く天に帰りたかったのかもしれない。
もちろんこの男の事であるので、そんなことはない。
ニューカレドニアには地下資源が豊富に埋蔵されているため、適当な理由を付けてこの島に移住し支配を目論見、子孫たちに残してやったのである。
死んでもただでは起きないをモットーとするこの男らしい生きざまだった。というべきであろう。
・・・・・
「よくぞ無事にやり遂げてくれました」
いつぞやの白い部屋には、#$%&女神が立っていた。
「は、見事にやり遂げました」
目隠しがざわざわと動いている。鼻筋や唇などを見ていると相当な美人であろうと思えるが・・・・
「だいぶたくましくなりましたね」
「は、大分、逞しくなりました」
「ありがとう」
「は」と敬礼を返す。
「これで、多くの付喪神たちが生き残ることができました」
「私も、直営高野艦隊など、堪能することができました」
自らの直営空母機動艦隊を構成し、太平洋を走り回ったのである。因みに敵はなかったので暴れまわることができなかった。赤い彗星を再現できなかったことは少し心残りだった。
代わりに「蒼い流星」を仕立ててみた。
「あなたこそ、付喪神の神、まさに九十九神と言えるでしょう」
そこか~い、心の中で叫んだ男であった。
「これからあなたは各地の付喪神からの加護を受けることができるでしょう」
「いや、もう普通の生活(すでに死んでいるが)したいんですが」
「心から本当にありがとう」女神が頭を垂れる。
「いえこちらこそ」
そして、目隠しが消える。
眩しい光のような衝撃がきて眼をつぶりそうになる。
まさしく完璧な美人というか人間ではない何かがそこに存在する。
心がそれに持っていかれる。
「だから見せられなかったのです、人間では、眼が潰れるくらいでしょう」少し自慢げな女神にイラっとしつつも
「ははあ」とひれ伏しながら、クトゥルフの神ではなかった~と心の中で叫ぶ俺がいた。
完
最後までお読みいただきありがとうございました。
「提督の野望 風雲立志伝」これにて完結と相成ります。
永らくありがとうございました。
新連載を開始しました
https://ncode.syosetu.com/n9792he/
『八咫烏の旗を掲げよ! 硝煙弾雨血風録 ~そろそろ普通の輪廻に戻してくれませんか?~ 九十九異伝』もよろしくお願いします。