006_死罪
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「答えは……ノーだ。断る」
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「いいのかい?
せっかく身の潔白を示せる
機会だというのに」
「わかってて聞くな、下衆野郎。
公衆の面前でステラの裸を晒して、
その上切り刻んで内臓を開くだと?
そんなことを俺が
許すわけがないだろうが」
「ご主人さま……」
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命じればステラは従うだろう。
だがステラは俺の相棒だ。
前世でも、最終的には
信頼できるメカニックに
サポートを頼むだけで、
ほとんどの整備は俺がやっていたんだ。
それをどこの馬の骨ともわからない奴に
触らせてたまるか。
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「だそうです、父上」
「……わかった。
では判決を言い渡す」
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「ニクス。
お前を奴隷所持の罪により……」
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「死罪とする」
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死罪……死刑ってことか!?
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「どこをどう聞いたら
その結論になるんだよ!」
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「我が領では奴隷の所持は重罪。
それが、60年以上前に
初めて奴隷を廃止した我が領の法だ。
ましてお前はキースの申し出にも
関わらず潔白の機会を自ら放棄した。
当然の判決である」
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死刑……やっとこれからだってのに、
ここで終わるのか……?
今からでもステラを調べるよう言えば
……言えるわけがない。
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「連れて行け」
「ご主人さま!
……っ、離して、離してください!」
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俺とステラをそれぞれ連行する。
抵抗するが、衛兵のほうが数が多く
抗いきれない。
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やりたいことがたくさんある、
やり残したことがたくさんあるんだ。
ステラ……そうだ、ステラ。
あいつはまだ意識を持って生まれて
数日しか経っていない。
いろんなものを見て、聞いて、
感じられるはずなんだ。
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召喚主が死ねば、
使い魔はその存在を維持できなくなる。
つまり俺が死ねば、
ステラもこの世界にはいられなくなる。
たった数日だぞ、あんまりじゃないか。
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せめてステラだけでも、頼む……!
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「ステラ!」
「ご主人さま!」
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「お前だけでも……生きろ」
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もう、できることはない。
せめてステラが不当に扱われないよう、
なるべく抵抗せずにいよう。
この世界にはいられないだろうが、
それでも……。
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「行くぞ」
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悪いな、ステラ。
短い間だったけど、元気でな。
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「ご主人さま……ご主人さま!」
「こ、こら、暴れるな!」
「離してください!
離して!
離してって……言ってるのが……!」
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「わかんないんですか!」
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ドゴオオォォン!
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「な、何だ!?」
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轟音とともに領主邸が揺れる。
よく見るとステラの足元の床が
陥没しており、
そこを中心に四方に亀裂が走っている。
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「すみません、ご主人さま。
そのご命令は聞けません」
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「私の望みは、
ご主人さまと一緒にいることです。
私の願いは、
ご主人さまをお守りすることです。
たとえご主人さまの命令であろうと、
ご主人さまを見捨てることなど
いたしません。
今度こそ必ず、
私があなたを守り通します。
世界の全てを敵に回すとしても」
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「ご主人さま、ご命令を。
あなたを守れと。
そうすれば私は、
この命の全てをもって、
必ずあなたを守ってみせます!」
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「……っ、はは。
全く、俺は幸せ者だな」
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死刑宣告された以上、
この世界に俺の居場所はないと思った。
生きる意味はないと思った。
でもそうじゃない。
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ステラがいる。
俺にはまだ、ステラがいる。
どこにも居場所がなくたって、
ステラがいる限り、
俺の生きる意味はある。
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「ステラ」
「はい、ご主人さま」
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「俺を守れ!
ただし、誰も殺すな!」
「ご主人さま……」
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おそらく、ステラの強さなら
俺を守るだけなら簡単だ。
だが、場合によっては
人を殺してしまうかもしれない。
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俺も、ステラも、
たくさんの人を殺してきた。
これ以上誰も殺す必要なんてない!
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「できるな」
「もちろんです、ご主人さま!」
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「罪人ニクスよ。
更に罪を重ねるつもりか?」
「勝手に罪を負わされて、
勝手に死ぬわけにはいかないんでな」
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「戦闘態勢!
使い魔を顕現するんだ。
癪だけど、彼女は強いよ」
「了解しました!
顕現せ……うっ!?」
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ドォンン!!
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「がはっ!?」
「ぎひっ!?」
「ぐふっ!?」
「げへっ!?」
「ごほっ!?」
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俺とステラを取り押さえていた衛兵は、
瞬く間に吹き飛ばされた。
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「なっ……!
卑怯だぞ、使い魔を顕現する前に!」
「戦に正当も卑怯もありません!
あるのは、勝者と敗者のみです!」
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無茶苦茶な……。
誰だそんなの教えたやつは。
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「ぐ、ぅ……申し訳、ありません……。
キース様……」
「!? 生きている!?
その剣……いや、剣ではないのか!?」
「そうか、お前はステラの剣を
間近で見たことはなかったんだな」
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「ステラの剣に刃はない」
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メイスソード。
エーデルワイスの初期装備の一つ。
敵機の装甲を斬り裂ける
片手持ち武器の開発が行われたが、
耐久性が確保できず、一時断念された。
その後切れ味を度外視し、
耐久性を飛躍的に高め、
殴る剣として再開発されたのが
このメイスソードだ。
刃がないため使い減りしにくく、
堅牢で信頼性が高いため、
後続の機体の標準装備としても
広く搭載されることになったのは
後のことだ。
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「ちっ……かくなる上は」
「待て、キース」
「父上……!」
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「罪人ニクスよ。
お前にはこの私が手ずから
引導を渡してくれる。
覚悟はできておるだろうな」
「覚悟?
そんなものはないし、必要ない。
なぜなら俺は、これからも、
ステラと一緒に生きていくからだ」
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「そうか。
それは叶わぬ夢だと知るが良い!
顕、げっ!?」
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その瞬間、ステラの剣が領主の顎を
綺麗に打ち上げた。
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「ち、父上!?」
「万事、先手必勝です!」
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領主はそのまま気を失った。
……哀れ。
だが、この機を逃す手はない。
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「ステラ、行くぞ!」
「はい、ご主人さま!」
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今なら戦える人間は限られている。
この隙にここから逃げ出すんだ!
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「ちっ、逃がさない!」
「邪魔すんな!」
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ガスッ!
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「げふっ!?」
「ああっ、キース様!?」
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キースの顔面に
華麗な飛び蹴りをお見舞いしてやった。
お前に用はない、そのまま伸びてろ。
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屋敷を飛び出し向かう先は、
町外れの馬車の繋ぎ場。
とにかくこの街から離れなくては。
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