005_奴隷所持の疑惑
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「ステラ、そろそろ行くぞ」
「はい、ご主人さま!
……ステラ……ステラ……えへへ」
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名前をつけてからというもの、
ステラは名前を呼ぶ度に嬉しそうな
照れくさそうな顔をする。
喜んでくれるのは嬉しいんだが、
早く慣れてくれないか。
こっちまで照れる。
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「ご主人さま、これからどうするんですか」
「とりあえず仕事を探す。
魔法学校の出ってだけで
それなりに働き口はあるからな。
しばらくは冒険者ギルドで日銭を稼いで
ある程度したら腰を落ち着ける
感じだな」
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長らく世話になった下宿を出て
町外れに向かうと、
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「んー?
なあ君、ちょっといいか?」
「俺か?」
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小麦色の肌の、
どことなくチャラそうな男に
声をかけられた。
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「あー、君じゃない。
そっちのお嬢さんだ」
「あ、私ですか?」
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何だよ、見た目通りの
ナンパ野郎じゃないか。
人を見た目で判断しちゃいけない
というが、まあ大体判断つくよな。
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「そうそう、君。
ねえ君、なんて名前?」
「えっと、ステラです」
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ステラ、お前も
律儀に名乗らなくていいんだぞ。
良くない男に引っかかったりするぞ。
こいつみたいな。
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「ステラちゃんか、いい名前じゃん!
可愛いね!」
「本当ですか?
ありがとうございます!
ご主人さまにつけてもらった
大切な名前なんです!」
「……ご主人さま?」
「はい!
こちらが私のご主人さまです!」
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といって俺を指す。
ナンパ男の視線がすっごく痛い。
やばい、視線で穴が空きそう。
もしかしてこれから先
毎回こんな感じになるのか?
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「なにそれ、どういうプレイ?
君、この娘の何なの?」
「あんたに答える義理はないと思うけど」
「ま、そりゃそうか。
ちぇっ、せっかく可愛い子
見つけたと思ったのに」
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「で、ステラに何の用だ。
用がないなら行くぞ」
「まあちょっと待ちなよ。
君たちさ、これからどっか行くの?」
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何だこいつ。
なんかあんまり関わり合いに
ならないほうが良さそうだな。
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「これから街を出て、
お仕事を探すんです。
まずは冒険者ギルドに
行ってみようと思います」
「ちょっと、ステラ」
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そういうの個人情報だから。
あんまり人に話さないように。
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「へえ、冒険者ね。
こっからだと、東のレムールあたりか。
そりゃ残念」
「何が残念なんだ」
「ああいや、悪い。
こっちの話だ。
気にしないでくれ」
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そういう事言われると
逆に気になるんだが。
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「俺、西のアルボスって街に
住んでるんだけど、もし立ち寄ったら
お茶でもどうかと思ってさ」
「本当ですか?
良かったですね、ご主人さま」
「ああいや、君じゃなくってな……」
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あー、完全に噛み合ってない。
なんかちょっと
可愛そうになってきたな……。
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「……まあいいや。
俺、レイノルズっていうんだ。
えっと……あ、やべ。切らしてたか。
んじゃあ、こいつを」
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ナンパ男、もといレイノルズが
差し出したのは首飾りだ。
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「もしアルボスに立ち寄ることがあったら
街の人にこいつを見せてよ。
そしたら、一緒にお茶しような」
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それだけ言うと
レイノルズは立ち去っていった。
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「……何だったんだ、あいつ」
「親切そうな人でしたね」
「ステラ、ああいう男には
気をつけるんだぞ」
「? はい」
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妙な男に会ったせいで
出鼻をいきなりくじかれてしまったが、
今度こそ出発だ。
新たな門出に祝福を。
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「止まれ、そこの二人」
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声の調子からしてどう考えても
『良い旅を!』
とか言ってくる感じじゃない。
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「何でしょうか」
「ニクスとその使い魔だな。
領主様から出頭命令が出ている。
同行してもらおう」
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出頭命令だと……?
こんなところに
もう用はないってのに……。
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「ご主人さま……?」
「……大丈夫だ。
別に何か悪いことをしたわけじゃない」
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そうは言いつつも、
俺には心当たりが
ないわけでもなかった。
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憲兵に連れられて領主邸に来た。
領主邸とは言うものの、
政治やら行政の中枢を兼ねている。
俺はと言うと裁判所に連れてこられた。
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「ニクスよ、何か申し開きはあるか」
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開口一番これである。
全く俺の話を聞くつもりがない。
ちなみにこのおっさんは領主様である。
多分逆らうと死刑にされるやつだな。
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「何に対して申し開くかわかりません。
心当たりのないものに対しては
言い訳のしようがない」
「ほう……心当たりがないと申すか。
ならば私の口から直々に伝えてやろう」
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「ニクス。
お前には奴隷所持の疑惑が
かかっておる」
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……何だって?
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「悪いがよく聞こえなかった。
『ニクス。
お前には奴隷所持の疑惑が
かかっておる』
って聞こえたんだが」
「聞こえておるではないか」
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「領主様、
それは流石に笑えない冗談だ。
俺がどこに奴隷を連れてるんだ?」
「いるではないか、お前の隣に」
「……ステラのことか?」
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「報告では確かエーデルワイスと
言ったはずだが……まあよい。
とにかくその娘がお前の
奴隷なのではないかとの報告があった」
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「ふざけてんのか!
ステラが奴隷だと!?
そんなデタラメ抜かしたのは
どこのどいつだ!」
「僕だよ」
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「キース……!」
「キース、待っているよう言ったはずだ」
「申し訳ありません、父上」
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キースは領主である
ファインダー家の長男だ。
俺の心当たりはこいつだったんだが、
当たってしまったな……。
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「何を根拠に言ってんだ!」
「見ればひと目でわかるだろう。
君が使い魔だとのたまうその子は
どう見ても人間じゃないか。
逆に聞きたいんだが、
その子が使い魔だという
証拠はあるのかい?」
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「あの時は先生だって、
他の生徒だって見てただろ!」
「あの場にその子が現れた
というだけでは、
使い魔とは断定できない。
転移魔法で呼び寄せたり、
送り込んだ可能性もある」
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「大体、ただの人間が
あんなに強いわけがないだろうが!」
「使い魔と同等以上の強さを持つ
人間は存在する。
それに、もっと言えば肉体を魔術的に
改造している可能性だってあるからね。
それはそれでまた別の罪状がつくが」
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ああ言えばこう言う……!
だがこいつの論理には
決定的な弱点がある。
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「隷属紋があるのは確認したんだろうな」
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隷属紋は、人が人を
絶対服従の奴隷とするときに刻む
刻印のことだ。
これがあれば
一発で奴隷だと証明できるし、
なければ奴隷ではない証明になる。
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「……なるほど。
実のところ、隷属紋の確認はまだだ」
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そりゃあそうだろう。
召喚してからの数日、
ステラはずっと俺と一緒にいる。
確認なんかできるはずもない。
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「だったら、ステラが
人間で奴隷だなんてのは、
お前の勝手な思い込みなわけだ」
「確かにその通りだ。
では確認させてもらえるかな」
「確認?」
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「君の使い魔に
確かに隷属紋がないことを
確認させてもらえるんだろう?」
「……!?」
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「当然この場でだ。
そもそも君には嫌疑がかかっている。
どこか別の場所でなんて
甘いことが許されるはずがないだろう」
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隷属紋を刻む場所は
体の表面であればどこでもいい。
手足など目に付きやすい場所でも、
胸や下腹部など、下着で隠れるような
場所に刻むことだってできる。
つまり、衆目の前で
ステラの全身を調べさせろと
言っているわけだ、この下衆野郎が!
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「一応言っておくが、
まさか皮膚だけで許されると
思っているわけではないだろう?」
「……何だと?」
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「過去には隷属紋を隠すため、
口の中や内臓の表面に
隷属紋を刻んだ例も
あったそうだからね。
当然、今回も例外じゃない」
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「どうやって確かめるつもりだ、
そんなもの!」
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「簡単なことだ。
体を切り開いて
内臓を確認すればいい。
その子が使い魔なら
その程度で死にはしない。
人間なら死ぬが、君に言わせれば
その子は使い魔なんだろう?
分のいい勝負じゃないかな」
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ふざけやがって……!
確かに使い魔の死は人間とは全く違う。
全身を切り刻まれても死ぬことはない。
だが痛みを感じないわけじゃない。
人間と違って絶命しない分、
痛みは受け続けることになる。
そんなの、拷問以外の何物でもない。
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「ご主人さま、私なら大丈夫ですから」
「……っ!」
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ここで隷属紋を確認させれば
俺の無実は明らかになる。
仮に全身を切り刻まれたとしても、
ステラは使い魔だ。
死ぬことはない。
だったら、取るべき選択肢は
一つしかない。
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「さあ、答えを聞かせてもらえるかな」
「答えは……」
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「答えは……ノーだ」
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