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004_【武装召喚】

――――――――――――――――――――


「顕現せよ、『タイラントゴーレム』」


――――――――――――――――――――


 現れたのは一体のゴーレムだった。


 しかし、ただのゴーレムではなかった。


――――――――――――――――――――


「こ、これは……!?」

「素晴らしい、これほどの才能とは!」

「学生にしてここまでとは!」


――――――――――――――――――――


 ゴーレムを使役する魔道士は多い。

 初めて召喚される使い魔としても

 かなりメジャーだ。


 扱いは容易で、

 その割に使い魔としてのランクも高い。


――――――――――――――――――――


 驚くべきことはない。


 そのはずだった。


――――――――――――――――――――


 とにかくデカい。


――――――――――――――――――――


 あまりの巨体。

 フィールドの半分を占めるその巨体は、

 低く見積もっても

 10メートルは下らない。


――――――――――――――――――――


「流石にこれでは相手が不憫ですな」

「まあ、手合わせできるだけで

 幸運というものです」

「ファインダー家ともなると

 手合わせの機会もありませんからな」


――――――――――――――――――――


 めちゃくちゃ憐れまれてる。


 そりゃあこんだけデカいのが相手なら

 誰だってそう思うだろう。


 俺だってそう思う。


――――――――――――――――――――


「ああ、済まない。

 善戦してくれというのは無謀だったね。

 ではせめて、死なないように

 頑張ってくれたまえ」


「……!

 避けろエーデルワイス!」


――――――――――――――――――――



      ズドオォォン!!



――――――――――――――――――――


 ゴーレムが振り下ろした腕で

 小さなクレーターができた。


――――――――――――――――――――


「大丈夫か、エーデルワイス」


「はい、ご主人さま!」


――――――――――――――――――――


 唐突な攻撃にも関わらず、

 エーデルワイスは完全に回避していた。


――――――――――――――――――――


「今度はこちらの番です!」


――――――――――――――――――――


      ギギギギィン!!


――――――――――――――――――――


 エーデルワイスの目にも留まらぬ早業が

 ゴーレムの腕を切り刻んだ。


 はずだったのだが。


――――――――――――――――――――


「ご主人さま、全然効いてません!」


「みたいだな……」


――――――――――――――――――――


 ケルベロスを一瞬で戦闘不能にし、

 サラマンダーを瞬殺した

 エーデルワイスの攻撃が、

 全く効いていない。


 それこそ、傷一つすらついていない。


――――――――――――――――――――


「素晴らしい攻撃だね。

 しかし僕のゴーレムには効かない。

 何しろあらゆる物理攻撃を

 無効化する特性を持つからね。


 無駄な努力とわかっていて

 足掻いてもらえると嬉しい。

 魔法でも使ったらどうだい?」


――――――――――――――――――――


 物理攻撃が駄目なら魔法か。

 だが、残念なお知らせがある。


――――――――――――――――――――


「エーデルワイス、魔法だ!」


「すみません、無理です!

 元ロボットなので!」


「だよな!」


――――――――――――――――――――



      ズドオオォン!!



――――――――――――――――――――


 再びのゴーレムの攻撃。

 これもエーデルワイスは躱し、

 腕へと斬りつける。


 しかし効果はない。


――――――――――――――――――――


「とにかく私は攻撃して注意を引きます!

 ご主人さまは換装の準備を!」


「わかっ……換装?」


――――――――――――――――――――



      ギギギギィン!!



――――――――――――――――――――


 何度やっても

 一向に攻撃が通る気配はない。


 このままではジリ貧だ。


――――――――――――――――――――


 ゴーレムのような無機物系の魔物は、

 決して疲れることがない。


 エーデルワイスも攻撃を完全に

 見切っているが、

 体力がいつまでも続くわけじゃない。


――――――――――――――――――――


 俺も多少の魔法は使うことができるが、

 あんなデカブツに効く魔法などない。

 正しく焼け石に水というわけだ。


 だが、何だこの感覚は。


――――――――――――――――――――


 換装。

 エーデルワイスはそう言った。


 確かに、今の武器では

 奴のゴーレムに

 有効打を与えることはできない。


――――――――――――――――――――


 魔法も使えない。

 ならば武器を変えるのは

 一つの手段と言えるだろう。


 しかし、俺が持っているのは

 護身用の普通の鉄剣。

 役に立つはずもない。


 魔法剣なら効くだろうが、

 そんなものはない。


 ではどうする。


――――――――――――――――――――


 エーデルワイスは、

 さもそれが当然かのように言った。


 俺ならできると思っている、

 いや、できると知っているのだ。


――――――――――――――――――――


 俺とエーデルワイスは、

 数多の戦場で戦ってきた。


 敵の種類も数え切れず、

 それこそ星の数ほどいただろう。


 それほどの敵を相手に、

 どのように戦ってきたのか。


――――――――――――――――――――


 敵に合わせた装備を選択し、

 有効な攻撃を加える。


 ただそれだけだ。


――――――――――――――――――――


 ならば今の俺が取るべき手段もやはり、

 敵に合わせた装備を選択することだ。


 できる。

 必ずできる。


――――――――――――――――――――



        ブゥン。



――――――――――――――――――――


 目の前に現れたのは

 一つの『窓』だった。


――――――――――――――――――――


「これは……!?」


――――――――――――――――――――


 世界と明らかに不釣り合いなその窓、

 それはコマンドウィンドウだった。


 ゲームの産物のようなそれに、

 俺は見覚えがあった。


――――――――――――――――――――


「これが……これが換装か!

 まさかこっちでも

 これにお目にかかるとは!」


――――――――――――――――――――


【武装召喚】


 装備を選択してください。


――――――――――――――――――――


 ウィンドウには選択可能な武装と

 召喚に必要なコストが表示されている。


 コストは……

 表示されているが単位がわからない。


 いくつかの武装は表示されているものの

 グレーアウトしている。

 おそらくコストが

 不足しているのだろう。


――――――――――――――――――――


 このウィンドウで

 選択した武装を呼び出し、

 エーデルワイスに装備させる。


 それこそが換装!

 行ける、行けるぞ!


――――――――――――――――――――


「行くぞ、エーデルワイス!」


「はい、ご主人さま!」


――――――――――――――――――――


「武装召喚、『ビームライフル』!」


――――――――――――――――――――


 納刀したエーデルワイスの

 手元に光が集った。


 奇妙な光だ。

 魔法で発生するものとは異なり、

 明らかに幾何学的な、

 もっと言えばキューブ状の光の粒子が

 徐々に形を成していく。


――――――――――――――――――――



     バシュウウゥゥ……。



――――――――――――――――――――


 光が収束し、エーデルワイスの手に

 武装が出現した。


――――――――――――――――――――


 ビームライフル。


 白兵戦用の装備しか持たなかった

 初期のエーデルワイスに

 最初に追加された遠距離攻撃用の装備。


 当時実弾・実剣に対して

 非常に高い防御力を発揮する

 特殊装甲の普及に伴って開発された

 初の携行式ビーム兵器。


 威力は十分だが初期型故に燃費が悪く、

 乱発できないのが欠点だな。


――――――――――――――――――――


「何だ、それは……?

 武器、なのか?」


――――――――――――――――――――


 エーデルワイスが

 ゴーレムから距離を取り、

 ビームライフルを構える。


――――――――――――――――――――


「ゴーレムのコアは首の下、

 胸の中心だ!」


――――――――――――――――――――


「何か知らないが、そんなもので

 僕のゴーレムが倒せるものか!


 ゴーレム、コアを守れ!」


――――――――――――――――――――


 ゴーレムが両手を胸の前に交差させる。


――――――――――――――――――――


「照準! 首の下、胸の中心!」


「首の下、胸の中心!」


「撃て!」


――――――――――――――――――――



        カッ!!



――――――――――――――――――――


 鮮やかな閃光が

 ゴーレムの両腕と胸を貫き、

 遥か彼方まで飛んでいった。


――――――――――――――――――――


「な……何……!?」


――――――――――――――――――――



    ズズウウゥゥンンン……。



――――――――――――――――――――


 コアを失ったゴーレムは、

 その場で地響きを立てながら崩壊した。


――――――――――――――――――――


「負けた、のか……?

 僕が、この僕が……!?」


――――――――――――――――――――


 キースは膝から崩れ落ち、

 呆然としていた。


――――――――――――――――――――


「やりました、ご主人さま!」


「ああ。

 よくやったぞ、エーデルワイス」


――――――――――――――――――――


 ウキウキしながら近づいてきた

 エーデルワイスの頭を撫でてやる。


 ……はっ!

 こういうのって、いきなりやったら

 めちゃくちゃ嫌がられるやつか!?


――――――――――――――――――――


「んふふ……えへへ……ご主人さま……」


――――――――――――――――――――


 と思ったがエーデルワイスが

 すごく嬉しそうなので良しとする。

 なでなで。


 ……元愛機に変質者扱いされたら

 立ち直れないからな。


――――――――――――――――――――


 卒業試合も終わったし、

 これで晴れて卒業だ。


 この学校に心残りはないが、

 目下気になるのはこいつだな。


――――――――――――――――――――


「……?

 どうかしましたか、ご主人さま?」


「エーデルワイス」


「はい、ご主人さま!」


――――――――――――――――――――


「お前が確かにエーデルワイスなのは

 よくわかった。


 でもお前はもう

 あのエーデルワイスじゃない。

 こっちの世界に新しく生まれた

 新しい命なんだ。


 だから、その……

 新しい名前を、だな……」


「つけてくれるんですか!」


――――――――――――――――――――


「いや、でも、お前が気に入るかは

 わからないし、

 気に入らなければもとのままでも」


「どんな名前ですか!

 教えて下さい、ご主人さま!」


――――――――――――――――――――


「ステラ」


「ステラ……」


――――――――――――――――――――


「俺がいたところで『星』っていう

 意味の言葉だ。

 俺の名前のニクスが『夜』っていう

 意味だから、どうかなと思って、

 ああでももし気に入らなければ他の」


「いいえ!」


――――――――――――――――――――


「ありがとうございます、ご主人さま。

 私は今日から、ステラです!」


――――――――――――――――――――


 エーデルワイス改めステラは、

 満面の笑顔でそう言った。


 ……太陽の方が良かったかな、

 と少し思った。


――――――――――――――――――――


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