010_俺はレイヴン
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よう、賢明なる読者諸賢。
俺はレイヴン。
いわゆる魔族ってやつだ。
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ちょっと訳あってシルバから
逃げ回ってたところに、
たまたま人間を見つけたもんだからな?
ちょっと匿ってもらったんだ。
いや情けない話なんだが。
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その礼にニクスたちの護衛を
引き受けたわけなんだけど。
護衛対象のステラちゃんとニクス、
何か妙な気配漂わせてるからさ。
あ、妙ってのは気配とか佇まいが
変に強そうな感じがするってことでな。
別に変な意味じゃないぞ。
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ちょっとした好奇心で
「じゃあどんなもんか試してみるか」
と持ち掛けてみたわけよ。
そしたら思いの外乗り気でさ。
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魔界限定じゃなく人間界でも
いうことを一つだけ聞くなんて
条件になっちまったもんだから、
俺としても負けるわけには
いかなくなったわけよ。
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「どっからでもかかってきな」
「じゃあお言葉に甘えて」
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お手並み拝見といくか。
まずは剣を構えて、どう来る?
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「はっ!」
あ、は
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ガッギイイィィンン!!!
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は……速ええぇぇ!!??
何だこいつ!?
踏み込んだと思ったら
一瞬で距離詰めやがった!
真正面から一直線に
突っ込んできたくせに、
一瞬見失いかかったぞ
どういうスピードしてやがんだ!?
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「っ!
止められた!?」
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いや待て落ち着け。
攻撃は受けられてる。
それに、ステラちゃんも
どうやって攻撃を止められたかまでは
見抜いてない。
落ち着け、顔に出すな。
そして煽れ、俺は余裕だと見せつけろ!
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「へえ、結構やるじゃん。
まあ、でもこんなもんか」
「まだまだ!」
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ガギガギガガガガガ!!!
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ぬおおぉぉ速い上に重ええぇぇ!!
ただの連撃がなんて威力だよ!
しかもこの密度!
でも大丈夫、弾ける!
この程度で俺に攻撃を入れようなんざ
半年早えんだよ!
でも百年とは言えねえ!
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「っ!?
攻撃が、届かない!?」
「いい攻撃だ。
でも、俺には通用しないぜ」
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そうだ、俺には通じない。
初見は正直かなりビビったが、
それでも捌くのに問題はない。
大丈夫だ、落ち着け。
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「……」
「どうするよ、ニクス?
作戦変えるなら今のうちだぜ?」
「ご主人さま、このまま攻撃を続けますか」
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さてどう出る?
ステラちゃんは強いが、
このまま続けても勝ち目は薄そうだぜ?
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「黒い」
「黒?」
あ?
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「黒い何かが、ステラの剣を止めていた。
霧……いや、影か?」
あああぁぁぁん!?
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なんで見えてんだよおかしいだろ!?
どんな目してんだこいつ!?
せっかくバレないようにやってんのに
何をどうしたら気付けるんだよ!?
大体ステラちゃんが気づいてないのに
なんでマスターのお前の方が
先に気が付いてんだよおかしいだろ!
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いや、待て落ち着け。
こんな早々にバレるのは
さすがに予想外だが、
それでも致命的じゃない。
あくまでも余裕だ。
余裕を見せるんだ。
俺は余裕だ。本当だぞ。
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「へえ、見えてんのか。
やるじゃねえか。
こいつはシャドーミスト。
収束させることで
物理的干渉をできるようにした
俺の魔力だ」
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「魔力……?
魔法じゃないのか?」
「魔法の定義次第だが、
俺にしてみれば魔法じゃねえな」
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「んで、だ。
こいつがある限り、
俺に対するあらゆる攻撃は
全方位自動的に迎撃される。
それが、ステラちゃんの攻撃を防いだ
カラクリってわけだ」
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「いいのか、そんなにベラベラと喋って」
「シャドーミストを見破ったご褒美だ。
ありがたく受け取れよ?」
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まあ、正直よくはない。
情報を出していくのが
有利に働くわけがねえからな。
だが、あくまでも余裕だ。
余裕がなくなれば畳みかけられるぞ!
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……さて、これを踏まえてどう出る?
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「ステラ」
「はい!
……行きます!」
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ドンッ!
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速え!
……だが!
真正面! さっきと同じ!
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ガギイイィィンン!!
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「ステラ!」
「はい!」
何をしよう、が!?
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ギュンッ!!
ドドドドドドド!!!
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うおおおおぉぉぉぉ!!??
俺の周りを回りながら、攻撃!?
くっそ速ええぇぇ!?
さっきより速くなってんじゃ
ねえかクソが!?
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全方位から攻撃してシャドーミストの
隙を突こうって魂胆なんだろうが
やり方が脳筋すぎんだろ!
飛び道具とか罠とか魔法とか
いろいろあんだろ!
そしてそれなしで実行できんのが
一番あり得ねえんだよどうなってんだ!
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「!
これも通りません!」
「くそっ、バケモンかよ」
おめえが言ってんじゃねえ!
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「次!」
「はい!」
まだあんのかよ勘弁しろ。
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チャキッ。
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何だありゃ?
短剣、か?
妙な形だ。
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ビッ!!
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投げた!
やっぱ飛び道具か。
だが、自分の足より遅い飛び道具なんざ
意味は
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ギュンッ!!
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後ろに回り込んだ!?
それだけ……じゃねえ!
こいつは!
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ッギイイィィンッ!!
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っうおあっぶねえぇっ!?
「っこれでもダメ!?」
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飛び道具の遅さを利用した
前後完全同時攻撃か!
しかも、正面の飛び道具に
気を取られてる間に完全に死角の
真後ろからより強い攻撃を加えるなんて
見かけ以上に性格が悪い!
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何より「完全に同時」なんて
口で言うのは簡単だが、
実際にそれを実行しようとしたら
とてつもない精密な動作が要求される!
飛び道具使えなんて思ったが、
実際に使われてみると
たまったもんじゃねえな!
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はあー、やべえ。
動悸がやべえ。
深呼吸だ深呼吸。
でもあからさまにやると
ビビってんのがバレるからな。
こっそり、こっそりだ。
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「いろんな手があるもんだな。
もうそろそろ手が尽きてくれると
嬉しいんだが?」
「尽きたら教えてやる。
だが、今はまだその時じゃない」
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マジかよ。
もうそろそろ手詰まりに
なってくんねえかなぁ。
結界の中行くのマジで嫌なんだけど。
いや負けねえけど?
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「ご主人さま」
「大丈夫だ。
もうすぐ揃う」
「……はい!」
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やっべ、何か言ってる。
あんま長引くとマズいかも知んねえな。
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「チンタラやってんなよ、ニクス!
来い!」
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とにかく今は煽れ!
思考時間を削れ!
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「ステラ!」
「はい!」
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ギュンッ!!
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また俺の周りを回りながらの
全方位攻撃か!
だがそれはさっき通じないと
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ビビッ!
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また投剣!
しかも今度は二本!
前後は効かないと見て今度は左右か!
だが、一本が二本になった程度で、
俺のシャドーミストは破れ
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待て。
こいつらが今更そんな攻撃をするか?
前後がダメなら左右?
安直、単純。
そうでないなら!
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ドッ!!
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真後ろからの踏み込み!
だが、この方向は……!
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跳躍しての、真上!
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「はああああぁぁぁぁ!」
「うおおおおぉぉぉぉ!?」
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ギイイィィンン!!!
ドゴオオオォォォォッッッ!!
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やべえ。
マジでやべえ。
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今度こそマジでやべえぞおおぉぉ!?
スピードだの同時だの言ってたけど
今度のは比較にならねえ!
渾身の一撃だろこれ威力が半端ねえ!
受けた俺の足元が陥没してんだけど!
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さっきまでとは次元が違う威力だ!
シャドーミストを全部集中しないと
受けきれねえ!
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しかもちくしょうふざけやがって!
さっきの投剣との同時攻撃かと思ったら
微妙にタイミングが違う!
ステラちゃん本体の攻撃の方が
わずかにタイミングが早いせいで、
投剣を防御するのに
シャドーミストが回せねえ!
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やべえやべえやべえ投剣が迫ってくる!
受けきれ受けきれ、早く受けきれ!
くっそ重てええぇぇ!
どんな威力してんだよ
どっからその力出てくんだよ!
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「うおおおおぉぉぉぉ!!??」
「ああああぁぁぁぁ!」
「押し切れステラ!」
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やめろバカやろおおぉぉ!
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「っ、ああぁぁ……っ!!」
「ぐ、おぉっ!!
どおりゃああぁぁ!」
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ギギギイイイィィィン!!
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「くそっ!」
「すみません、ご主人さま!」
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あっ……っぶねええええぇぇぇぇ!
あぶねえ、あぶねえええぇぇ!
マジで今のは危なかった!
ギリギリだった!
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最後一瞬ステラちゃんの
攻撃の威力が緩んだ!
多分空中だったせいもあって
踏ん張りがきかなかったんだろ?
そうなんだろ?
そうだと思ってなきゃやってらんねえ
何だあの威力はよ!
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投剣二本もろとも弾けて
ギリギリセーフだ!
あぶねえ……マジで負けるかと思った。
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いやしかし、
今のを凌ぎ切ったのはデカいな。
もうさすがに万策尽きたろ?
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「いやあ、今のはさすがに
ちょっとだけ焦ったぜ。
やるじゃねえか、ニクス、ステラちゃん」
「ありがとうございます、レイヴンさん!」
「そうだろう」
「もうちょっと謙遜とかしねえのお前ら」
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「今のがとっておきか?
降参するなら今のうちだぜ」
「ご主人さま、どうしましょう?」
「そうだな。
確かに今ので用意していた策は尽きた」
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よっしゃ来た!
俺の勝ち来た!
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「だが」
おん?
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「一つ、お前の嘘を暴いてやるよ」
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……はい?
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