【第7話 聖職者】
自律思考型第三世代AI搭載NPC、リンゴは、スタート地点から数歩の距離で斃れていた。周囲には弱い魔物しかおらず、いったいどうやったら死ねるのか謎だ。
リンゴの実力を知るために、少し離れたところから見守ることとした。
デスペナルティーから復活したリンゴは、両目に涙を溜めながらウサウサに向かって杖を振り上げた。どうやら職業は聖職者らしい。僕と同じキャラクターで、銀髪の美少女だ。
杖を掲げて呪文の詠唱に入る。閃光とともに、魔物の群れを吹き飛ばし……。とは、ならなかった。むしろ、さっきまでのんびりと草を食べていたウサウサたちが、いきりたってリンゴに向かって行った。
ぽこぽこと飛びかかられながら、さらに何度も呪文を唱えるが、ノーダメージだ。むしろ杖が閃光を放つたびに、草原のあちこちからウサウサたちが現れてリンゴを取り囲む。何が起きているのか、目を点にして見ているうちに、気付くとフルボッコ状態になっていた。
えーん、なんで〜?
それがリンゴの最期の言葉だった。チリも積もれば山となる。ウサウサたちのダメージ総数が自然回復値を越えてしまったらしい。
魔物の群れが草原に散って行った後には、ボロボロになった無残な死体が転がっていた。ポップモードにしておいて良かった。
さて、結論である。
リンゴが必死に唱えていた呪文は、敵のヘイト値を上げるもので、本来はタンク役にかけて狙いを集中させるものだ。それを自分にかけ続け、魔物の群れを呼び寄せていた。完全に自殺行為である。
死んでその場に復活し、再び魔物を呼び寄せ、殺されては復活する。まさに地獄のデスロード。もしかしたら、すでに何度もやっていたのかもしれないと思うと恐ろしい。
「なんて恐ろしいポンコツ」
徐々に半透明になっていくリンゴの再復活を待ちながらつぶやいた。すると、いつもの冷静な声でソデが応じる。
「評価ポンコツ、記録しました。最新技術の結晶に対して大胆な御意見ですね」
「だって、どう考えてもポンコツだろ」
「そのようなことはないと思いますが」
「じゃあ聞くけど、ソデならどうしてた?」
「私ですか。私なら、妖精スキル〈ジゴクノグンゼー〉で辺り一帯を地獄に変えて……」
「こらこら」
さすが第二世代で最も信頼の厚いSA10である。冗談も言えるらしい。……言えるんだよな? ま、まあいいか。それよりもゲーム内ヘルプを見ていて気になることがあった。
「聖職者は魔物に危害を加えられない。これってどういうこと?」
「そのままです。命を慈しむ聖職者ですから」
「それ、聖職者を選んだ時点で詰んじゃうと思うんだけど」
「エリ様の御懸念ももっともですが、大丈夫です。故意でなければ良いのです」
「ん、わざとじゃなければOKってこと?」
「その通りです。範囲スキルで木を狙ったら、たまたま近くの魔物に当たった。これなら問題ありません」
「問題ありありだと思うぞ。どんな謎仕様だ。聖職者に偏見を持ってるんじゃないのか。ちなみにレベル1から範囲スキルが使えるのか?」
「使えません」
「……そんなアホな。じゃ、どうやってレベル上げるのよ」
「目をつぶって杖を振り回してみるとか、やりようはあるのではないでしょうか」
ソデの回答は大真面目なものらしい。このゲームの製作者は何を考えているのだろう。頭がわいてるとしか思えないな。