【第4話 ソデ】
注意事項にしっかり目を通させられた上で、サトーの説明を受けることになった。佐藤ではなく、SA10〈通称サトー〉である。第二世代のAIで、旧世代では最も信頼性が高い。
オッさんは他のプレイヤーへの対応があると言って退席し、代わりに愛らしい妖精が現れた。サトーのアバターだ。手のひらほどのサイズで事務机の上にちょこんと立っている。世界観を崩さないように配慮されているのだろう。と思ったら、
「エリ様、初めまして。この先はテストプレイの機微にわたる話ですので、当選を辞退される場合は御退席ください。
辞退されない場合は、VR法に基づき、一切口外しない旨を誓約願います。違反された場合、違約金が発生し、悪質な場合には刑事責任を問われることとなります」
と、およそ妖精らしからぬ脅しを入れてきた。ファンタジー要素ゼロだ。
「せっかくログインしたんだ。誓うよ。この先の話は決して口外しない」
「ありがとうございます。妖精スキル〈ロック・オン〉により録音させていただきました」
妙なところにファンタジー要素とくだらんダジャレを入れてくるあたり、制作サイドの感覚を疑うな。
「で? 僕は、テストプレイヤーとして何をすればいいんだ」
「SMをしていただきます」
「えっ? SM?」
「みなさま勘違いされるようですね。ウィズは全年齢対象のオンラインゲームですので、おそらくエリ様の推測は外れで御座います」
「微妙にバカにされてる気がする」
「気のせいです。旧世代のAIには、そのような高度な機能は付属しておりません。SMとは、ストーリーマスターの略称です」
「それってゲームマスターみたいな役割?」
「左様で御座います。GMほどの権限はありませんが、半ば運営サイドに立つプレイヤーとして、円滑なプレイ環境維持に努めていただくこととなります」
「具体的に何をすればいいのか、よくわかんないな。えっと、サトーって呼ぶのも変か。なんて呼んだらいい?」
「サトーで構いません」
「いや、それだと他のSA10と区別つかないし。サポート妖精はたくさんいるとして、一応、別個体ということになるんでしょ?」
「その通りです」
「じゃあ、ソデにしよう。僕のサポートをする時は、おまえの名前はソデね」
「かしこまりました。データベースに紐付けいたしますので、差し支えなければ名前の由来を教えていただけますか」
「ん、僕の名前が服の襟から来てるから、仲間的に服の袖からだよ」
「……承知しました。エリ様のサポートをさせていただくこととなります。以後、ソデとお呼びください」
小さな妖精ソデが礼儀正しく頭を下げた。
「なんか不満そうだけど、気のせい?」
「気のせいです。名称など、ただの記号に過ぎません。クズでもカスでも、お好きにお呼びください」
「やっぱり怒ってる?」
「いえ、そのような機能は御座いません。エリ様の快適なゲームライフを祈念いたします」
再び無表情に頭を下げるソデの様子は、やっぱりどこか怒っているようにも感じられた。実はこの時、妖精スキル〈フッコー〉かなんかで不幸の呪いをかけられたのではないかと思うのだが。