爆音忍者スズムシ
──ここは忍が棲む草原……いや、里だ。
忍とは、何らかの異能も持つ虫たちのことだ。彼らは集団で密かに草原の中で生活していた。
「おーい、みんな! そろそろ始めるぞー!!」
スズムシのススムは忍のなかでもとりわけ場違いな男だった。
ススムができること。それは……。
「準備はいいかぁーーーっ!! フォーーーーッッ!!」
木でつくられた打楽器と棒で演奏を始めるススム。デスボイスとともに歌を歌い出した。
言わずもがな、彼の特技はロックバンド。激しい曲を歌うことなのだ。
他の虫──コオロギは羽音でこのライブを盛り上げて、バッタは脚を地面にタンッ、タンッと叩きつけて楽しんでいた。
普段はクラシックな音楽を奏でているコオロギも、飛び跳ねる特技をもつバッタも、このときだけは虫が変わっている。
「いいよー! ススムー! もっといっちゃえーーーっ!!」
「ウォォォォォッ!!」
コオロギはクラシック音楽を忘れたように大きな歓声をあげて、バッタは飛び跳ることなく野太い雄叫びをあげていた。
「次はこの曲だーーーっ! “でんでん虫”いくぞー!」
そしてススムは歌い出した。でんでん虫の曲調を改造したロックな曲を、かたつむりを讃える曲を……ハスキーボイスで。
──“でーんでんむーしむしかーたつむりー!!”
観客は既に、コオロギやバッタに加えて、クロアリやアブラムシ、テントウムシも来ていて、空からはトンボなども歌を聴きに来ていた。
彼が場違いな理由、それは──“忍であって忍ばない”ことにあった。
派手に演奏会をしていれば、忍んでいる意味もない。
「「「「「フォォォォォォォォォォッッ!!」」」」」
……でも彼は、今日もライブを開くのだ。
──ロックに飢えている里を盛り上げるために。
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蟲の勇者は地底に眠る。
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