第七話 級友
「はあ、そうですか」
朝から憂鬱な時に、全く面白くも無い冗談を聞かされ、一層気分が沈みこむ。
森の妖精族との関係を、学校関係者には一切他言していない事を、失敗だったかな、とも思い、言わなくてよかったとも思いながら、仕方なく一応返事をする。
「私のどこが好きなのかをラブレターにまとめて、放課後までに届けてください。家に持って帰って部屋で読むので、明日、返事を伝えます」
「な、なんだって! よし、いい返事が期待できるような、名文を書こう。期待して待っててくれ」
カデシュ人の祖先は、黒髪黒眼で長身痩躯だったというから、今の女生徒はカデシュ人の原種であるはずだが、どういう訳かエキゾチックと言う表現が似合う顔立ちをしているように思う。
悪い人でも無さそうだし、悪気があってあんな風にからかっているのでも無いのだろうが、ああいう冗談は好きになれない。
クラスメイト達が、黄色い悲鳴を挙げていた。どこかで誰かが、告白でもされたのだろうか。
周囲のキャーキャーと聞こえる騒ぎの原因も分からないまま、幾らか気分も晴れて来た頃、教師が教室に姿を現し、授業が始まる。
一日の授業を終え、帰宅に取り掛かるかと机を整理していると、今朝の女学生がシェエラの隣に立っていた。
「シェエラ、恋文だ。一生懸命、授業をサボって書いておいた。是非、読んでくれ!」
今日は昨日のエンジンの試運転だしな、寝る前に読もう、それにしても手の込んだ冗談だなァ、と、今朝より幾分も活力的な頭で手紙を受け取る。
シェエラもげんきんな物で、授業が終わってしまえば憂鬱な気分も晴れやかな春の空だった。
そうなると、この女生徒、ケレンと言う名なのだが、この人に対しても朝とは段違いに、軽やかな態度で接することが出来る。
自分のこの節操の無い変わり身や軽薄さを、自分で蔑んでみたり、反省に耽ったりする気は、もはや微塵も失せていた。
改めて、状況を顧みると、冗談にしては妙な具合だと気がつく。
このケレンと言う少女は、自分のように人間関係に消極的なタイプとは、とても思えない。わざわざ自分を選んでからかいに来る理由が思い当たらなかった。
友人に不自由して自分なんかに話しかけてきた訳でない事は、今も他の生徒達とキャイキャイ、ワイワイと黄色い声でさえずり合っているのを見れば、はっきりしている。
と、為ると考えられる可能性は、要らぬお節介で、自分を他の生徒たちの輪の中に引き込んであげようとして、話題を振って来た、と言った所だが、それにしては他の生徒達を会話に引き込もうとしていない。
取りあえず、この恋文とやらの中身を読んでみれば、どんな事情か分かるだろう。これで手紙の中身が悪口だったら最悪だ。
どうみても、そんな事をするような、嫌な人には全く見えない。それも、自分に人を見る目が無いだけかも、と、思えばありあり得ない話では無いのだろうか。
憂鬱な気分でも無いのにネガティブな思考にばかり意識が向かう。
学校が終わった解放感で、性格まで変わったように思えたが、自分の本質は何も変わってはいなかったのだろう。
改めて、他の生徒達と、告白の答えを待ちわびている恋する乙女のような雰囲気で話し込んでいる、長身かつ中性的な顔の、よくよく見ればかなり端整な、どことなくエトロさんにも似た面影のあるケレンさんを眺めると、向こうもそれに気づき、花が開いたような微笑みを返して来た。
とっさに顔を背けてしまうという、恋路に慣れない思春期の少年のような反応を取ってしまい、うろたえながら教室を後にする。
思いの外、恋文の中身が気になり出している。
一旦、帰宅して学校道具をしまい、制服から作業着へと着替え、あらためて工房へと向かう。
ガザル先生とツェルヤさん、シェエラの三人が並び、昨日、試作したばかりのエンジンを始動させる。案の定、数十分もする頃には、試作エンジンは焼き付きを起こした。
やはり、オイルまわりに激しくムラが生じてしまったのだ。
問題はそれだけに止まらず、スリーブバルブの複雑な機械構造にも無理が祟ったか、馬力も回転速度も期待値には及ばなかった。
「技術より、設計の段階で問題が有るようだな。エンジンの仕組みをもっとシンプルな設計にしない限り、行き当たりばったりの改良で、克服できる話じゃない」
「今回は、ここまでですね」
「ギキーイ」
「こっちでもう少し、改善策を模索してもいいが、最終的な結論はこの時点で出ている気がするな。部品の摩擦係数のバランス調整だけで、オイル消費が克服できないという結論の証明には十分だろ」
「はあ、その結論はもう、前回の試作品でも出ていましたから。意地になってここまでツルツルにしたんだから、分かってもらえると思いますよ」
「ギキィ―」
「よし、次の研究依頼に取り掛かろうか」
「はい」
「ギイキー」
今夜、もう一話投稿します。よろしくお願いします。