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峡谷の街 風河の都市  作者: 雨白 滝春
第二部
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第二十八話 合流

「きたか」


 すでに数時間前、アマサは軽飛行車で飛び立ち、報告の為、黒幕の下へと去って行った。その後、彼方に黒色の入道雲が立ち上り、雷雨に道を塞がれているのを確かめた。


 それでもガザルは待ち続けた。アセトナは、焦りを超えて怒りすら覚えた様だが、ガザルを信じ抜くと決める。


 そして遂にシェエラ達はガザルの下にたどり着く。


「ギキーーーっ」


「何してるんですかっ、ガザル先生ェ」


「いや、予想より早く追い着いてくれたじゃないか。がんばったな」


「なぜ、私たちを待っていた、ガザルさん。君だけでも先に行ってくれれば、余裕もあっただろう」


 エトロの口調は、問い詰める様では無かった。ガザルなら何か考えが有るのだろうと、本気で尋ねていた。


「ただの勘だよ。君らと一緒でないと、オクスを説得できない気がしただけだ」


「今、この状況で間に合うかも知れない、ってとこまで勘なのか」


「イサク、何故、シェエラ達を連れて来た、っつうか、おまえ、よくこいつらに信用してもらえたな」


「ガザル先生、そちらの方は」


「アセトナさんじゃないですか」


 ケレンさんの問いかけに応じたのは、意外にもシェエラ達に同行して来たレジスタンスの案内人だった。


「レジスタンスの女性戦士として、全組織に顔の利く、有名な方ですよ。案内役としては私より余程の適任者ですね」


「ええ、まあ」


 アセトナが若干、困惑気味なのは、アセトナの方がこの案内人の事を知らないからだろうとうかがえた。


「自己紹介は、走りながらでいいか。今は一分一秒が惜しい」


 ガザルが竜馬を走らせながら一番に語ったのは、アセトナとシェエラ達の互いの紹介では無く、ゲルガルの企てた烏戎軍乗っ取りの陰謀だった。


「オクス自身が、未だにその陰謀に気づいていないとは、考え難い。まず説得の為の論戦では、そのゲルガル人の側近、三公をいかに論破するかだ」


「もう、オクスさん一人を納得させるだけでは、戦争は止まらないってことですか」


 シェエラが疑問で答える。


「三公も、言い負かされたくらいで、その計画を諦めてくれるとは思わない方がいいんだろうな」


 イサクが疑問の投げ掛けを続けた。


「戦争の非を言い争うってよりは、弁論を用いてゲルガルの陰謀をどう頓挫させるか、って状況だろうな」


 ガザルが答えをまとめる。


「密室会議よりは、公開討論に持ち込みたい所だな。ゲルガルの陰謀を阻止するためには、烏戎軍の前で暴露し、こちらに烏戎軍全軍兵の支持を呼び込みたい」


 エトロが方策を提案した。


「ギキギキ、キー」


「そうか。包囲されているヤジズ首都首脳部と打ち合わせて、降伏を申し込む使節団と歩調を合わせれば、話し合いを公開会談へと引っ張り込むきっかけが作れる」


 ツェルヤとケレンが方策をさらに進める。


「オクスも烏戎軍の軍兵も、ヤジズ人たちも、ゲルガルの謀略を共通の敵とすることで、この戦争の誤りを認め、停戦させることが出来る。すまないと思う必要も無い相手だ。悪役を引き受けてもらおう」


 彼らは具体的な打ち合わせを始めた。





「ガザルとの論戦、具体的にはどう詰めたモノか……」


 座椅子に身をもたれ、ひとり想念に沈む灰色の衣をまとう者。


「我らの謀略の要はイサク、だが……」


 その時、背後の天幕の外に、気配を感じる。


「む、誰かそこにおるのか!」


「ズドンッ」


「な、に」


 一瞬の途惑い、と同時に灼熱の痛み。そして急速に薄れて行く意識。


「ま、さか――」


 果たして最後に、自分が拳銃で撃たれ、暗殺されたと理解する時間が有っただろうか。ましてやそれが、誰に何の目的でという疑問にたどり着く有余があったか。


「ゼカ……、リ…ヤァ」


 しかし彼は、それら全てを跳び越え、死に沈む瞬間に、結論にたどり着いていた。



「戻りました、ナタン様。無念ですがガザルは――」


 軽飛行車で烏戎軍総司令部に戻り、灰色の法衣をまとう司空・政略顧問の天幕を潜ったアマサが、そこで目にしたものは…………。




 ガザルとシェエラ達一行は、最終目的地であるヤジズ首都攻囲軍司令部を前に、最後の中継地・烏戎軍駐屯都市にたどり着く。すでに日は大きく傾き、地平線上に接している。


「一先ずここで、情報収集と夜間移動の許可を取らなければ」


「その際に、ここから先の移動経路も申告し、これからはそのルート上のみを行かねばなりません」


 許可申請の手続きに立ち会う、護衛役竜馬騎兵たち。ガザル達がこの都市の司令部の宿営地に入ると、そこは予想以上の慌ただしさだった。


「なにか、あったのか」


 ガザルが入口で、手続きの為の案内を乞うたところ、


「あなたがガザル殿ですか。当都市の司令官が貴殿との面会を希望しております。こちらへどうぞ」


 面会を請われたのはガザルだけだったが、一行は全員でついて行く。


 護衛役の騎兵隊員たちと、レジスタンスの案内人のみ、司令官室の外で待機し、ガザル、シェエラ、ケレン、ツェルヤ、エトロ、それにアセトナの六名が入室した。


「君たちに相談に乗ってもらいたい事件が起きた。協力してもらえるかな」


 ガザル達を立たせたまま、ひとり席に着いた姿勢で司令官は話を切り出した。


「事件が起きたのはこの都市では無く、君たちがこれから向かおうとしている、オクス総首長様の居られる総司令部でのことだ。三公の一人、政略顧問・司空殿が、天幕の中で暗殺されたらしいのだ。それもほんの二、三時間まえの事らしい。


 第一発見者は、司空殿の子飼いの部下で、アマサという人物だ。常識的に第一発見者が第一容疑者となる訳だが、彼が軽飛行車に乗って総司令部を訪れ、そのまま真っ直ぐ司空殿の天幕へ進み、正面から司空殿の下へ向かったのは、幾つも目撃証言がある。


 司空殿は背後から、それも天幕の外から撃たれて亡くなられている。アマサが天幕の裏へ回る余地が無かったことは、証明されている訳だ。そして、アマサという人物は、天幕を潜って直ぐに飛び出して来て、周囲に司空殿が殺されていると騒ぎ報せたため、この暗殺事件は明るみに出てしまった。


 私は何も貴殿らに犯人捜しをしろとは言わん。ただこの事件の事を事前に頭の中に入れて、総司令部に赴いてもらいたい。恐らくこの事件は、君たちの来訪と繋がりが有るはずだ」

午後も投稿します。よろしくお願いします。

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