第二十五話 一息
その頃、シェエラ一行は、バルクの下を訪れていた。
「今、ちょうど中部地区首都圏のレジスタンスから、ガザルの要請に応じるとの連絡があった所だ。そしてとても信じ難い話だが、その都市でレジスタンスと駐屯烏戎軍の間で、不文律ながら和解が成立したと伝えて来た。全ヤジズ人が驚愕したことだろうが、これでガザルの言う烏戎軍の無条件撤兵が、にわかに現実味を帯びたと言える。しかし、まさか本当に。途方も無い事を仕出かす男だな」
「ええ、まあ、やると思っていましたけど」
「ガザル氏は都市民と烏戎兵、双方に見送られて出立したそうだ。この和解の報せはヤジズ全土のレジスタンス達に、ガザル氏と君たちの要請に応じる構えを取らせることだろう。あるいはこの都市でも烏戎軍に対する見方が変わるかも知れない」
「私達もあなた達に期待しているんです、対話による歩み寄りに。これからすぐにまた、ガザル先生の後を追います」
そう言い置いてシェエラは、ケレン、ツェルヤ、エトロ、イサク、それに護衛役騎兵隊員、新たなレジスタンスの仲介役と共に、次の都市へと向かう。
午後五時限界まで進んだ結果、ラケルのアジトがある都市より手前の、烏戎軍駐屯地まで進むことが出来た。
ここでも、ガザル先生の噂は、無線連絡網に乗って広まりつつあった。シェエラ一行がオクス総首長に面会を求める理由が、彼らに薄々察せられているようでもあった。
「風向きが変わったな」
イサクのつぶやきが、実感できる。この時点で、シェエラ達とガザル先生は、時間にして七時間ほどの距離にまで詰め寄っている事が確認される。
翌日七月三十一日、早朝。
民兵の抵抗活動が停止したことで、ガザルの進行速度は著しく加速した。
「これなら間に合いそうね」
依然、アセトナはガザルに同行している。このまま首都まで付き添うつもりらしい。
「今日一日、眠らずに明日の朝まで駆け続けなければならない。そして明日の日の出前に首都にたどり着いてからが、本当の闘いの始まりだ。大丈夫か」
「レジスタンスを甘く見ないで。民兵への救援の為、三日三晩飲まず食わず、眠らずに活動し続けたことも有るのよ」
「ああ、すまん。それと、今日中にやっておくべきことが二つある。一つはアマサとの決着。これは放っておいても向こうの方から仕掛けて来るだろう。もう一つはシェエラやエトロたちとの合流。アマサとの決着が付いたら、しばらく見晴らしのいい場所で、待つことになるだろう」
「必ず間に合うと、信頼しているのね」
「この戦争を終結させるのに、必ずあの子たちの助力が要る。間に合わない可能性を負ってでも俺は待つ」
「――そんなっ」
朝九時、シェエラ達は中部首都圏レジスタンス・アジトに到着。
ここでガザル、シェエラ達の要望を、全レジスタンスが受け入れるとの合意報告を伝えられた。だが同時にもう一つの状況の変化も知らされる。
「ヤジズ首都首脳部が、烏戎軍への降伏を検討しているらしい」
「それは……、たとえ首都首脳部が降伏してからでも、オクスさんが撤兵と解放を決断すれば同じことですよね」
「つまりはそこだな。オクスという人物が、相手が降伏した後でも、降伏しなかった場合と同じ決断を出来るかどうか」
「相手の降伏を聞いて、気が変わるかも、ってか」
「影響が有るとすれば、それくらいだな。降伏してもしなくても、オクス総首長を説得できれば、私たちのすることに違いはない」
「ギキキー、キギキー」
「そう、むしろ降伏しておいてくれれば、首都への総攻撃が回避できる。到着期限に余裕が生まれる」
シェエラたちの楽観論にラケルは慌てた。
「待て、まさにそこだろう。旧ヤジズ政府が全面降伏した後で、全ヤジズの解放と無条件撤退を受け入れるか。どう考えても説得はより困難になるだろう」
「そうですかね。理論的な状況・条件が変化する訳でも無いですし、変わるのはオクスさんの気の持ちようですよね。理屈が通じる相手なら、説得内容に変わりは無いんじゃないですか」
「それは、そうかも知れないが、…………つまり、この一団全員、ガザルに匹敵する人物という事か」
考えるだけ無駄だと悟った、ラケル。
「だが、降伏が未だ検討の段階で、確証が無い以上、総攻撃開始の期限内に私たちは到着しなければならない。あと、二十時間を切っている。ガザルさんだけなら間に合うが、私たちは分単位で時を争う状況だ。このまま出発させてもらう」
シェエラ達は都市を離れた。
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