第二十三話 裏目
「アマサさん、説得はどうでした?」
「ダメだ。あの都市司令官、全く取り合う気は無い。これは完全にガザルの味方に付いたな」
「つくづく狡猾な野郎だ」
「で、これからどうします。あきらめて帰りますか」
「まだだ。これからだ。これからあの訳知り顔の都市司令官とガザルの野郎に、ほえ面をかかすチャンスだ」
「そりゃ、拝めるんなら是非、拝みたい絵面ですけど」
「この都市の地下下水道が迷宮状態ってのは、広く知られた話だ。レジスタンスのアジトもそこに在るってのもおおよそ確かな噂らしい。今頃、ガザルはそこでレジスタンスを説得中だろう」
「でも、それならそれこそ、今日中に探し出すのは不可能じゃ」
「この都市の烏戎軍に、本気でそいつらを制圧する意志が無いからだ。それこそあの都市司令官の方針なんだろうぜ。本気で末端の烏戎兵を怒らせれば、司令官からの制止命令が出る前に、地下道へなだれ込んで行くだろうさ」
「どうやって、怒らせるんスか?」
「もう、手段を選んではいられねえ」
「なぜだ! なんで烏戎軍とレジスタンスが手を組んで、俺たちを追って来るんだっ」
「アマサさん、もうダメだ。俺たちじゃガザルの狡猾さには敵わねえ」
「ああ、その通りだ、ちくしょう。お前達は武器を捨てて投降しろ。このまま逃げ続ければ後ろから撃たれる。捕まった後の事は任せろ。俺が黒幕様に頼んで、戦後必ず釈放されるよう、請け負ってやる」
「俺たち烏戎兵を死なせてるんですぜ。捕まったら直ぐに銃殺刑じゃあ」
「ガザルに命乞いをしろ。アイツを草原で撃ち殺さなかった約束がある。それが有る限りヤツは俺たちを殺さない」
「悔しいっスよ」
「それよりアマサさんはどうするんです? 捕まる気はねえんでしょ」
「俺は最後のケジメを付ける。悪いがお前たちが投降する隙に、逃げ切らせてもらう」
「ズルいとは言わねえですよ。そっちの方が危険なのはさすがに解るんで。じゃあ俺たちはここでおさらばです」
「ああ、あばよ」
「末端の兵卒の間でも、噂になっているらしかったからな。俺がこの戦争を終わらせてくれるって話は」
「出会い頭に撃たれるとは、思わなかった訳?」
「烏戎兵は紳士なんだろ。丸腰で対話を要求する者を、裁判にも掛けずにその場で撃ち殺す様な真似はしないだろ」
「だからって、仲間を爆殺されて激昂している敵兵に、生身をさらして対話を要求するなんて」
「だからこの身をさらす前に、俺はガザルだ、争う気は無い、と名乗っただろ」
「それにしたって……」
「それより驚くのは、ここのレジスタンスの決断さ。俺の説得なんかで烏戎軍との和解、共同行動を受け入れるとはね」
「それを提案するアナタの方がどうかしてるわよ」
「この後も大概だけどな。あの都市司令官、果たしてレジスタンスの武装解除の拒否を、受諾してもらえるかどうか」
「武器を行使しないことを条件に、市民の武装を認めてもらおうなんて」
「元々のヤジズ国内では、民間人の銃規制は行き届いていた。戦争が終わりさえすれば、再び市民が武器を手放すことに抵抗は無いはずだ。
本音を言えば、今だってレジスタンスには武器を手放してもらいたい所だが、そこまで説得する力は俺には無い。正しいか誤りかの問題では無く、俺の限界がそこまでなのさ。不甲斐無い」
「……どうやら、終わったようね。アイツら、投降して来たわ」
「ボスのアマサが居ないな。アイツ一人、逃げ果せたか。まだラスト・ワンチャンスを諦めてないってことか」
今回、少なめです。すみません。今夜、もう一話投稿します。よろしくお願いします。