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峡谷の街 風河の都市  作者: 雨白 滝春
第二部
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第十九話 密話

「あの三人の烏戎兵も、君たちレジスタンスの協力者なのか」


「余計な事は知らない方がいいんじゃないの」


 ヤジズ人特有の、いかにも都市民と言った風袋をした、少し背の高い気の強そうな女性。こう見えても、どうやらレジスタンスの女戦士らしい。


「烏戎軍の内部にも、ヤジズ側への内通者がいたとはな」


「詮索している暇が有るなら、もっと早く歩きなさい。アナタが行方をたどられたら、私たちはお終いなのよ」


 死角になった辻角から、ガザルの手を引いてここまで連れて来たのは、そしてこれからガザルをレジスタンスのアジトへ連れて行くのは、彼女の役目だそうだ。


 暴走の引き金になるのを避ける為、裏通りや路地裏には、烏戎兵も足を踏み入れないよう気をつけているらしく、ここまでの道のりには味方の気配しかない。


 とは言え、ヤジズ市民側からも烏戎軍への密告者、内通者がいないとも限らず、余りに目立つ訳にもいかない。


 そのためこの二人も、足早に歩きながら走り出すことは出来ないのだ。


 やがて二人は、レンガ造りの事務所の様な、この街のどこにでも見かける平凡な三階建てくらいの建物に入る。


 建物内の一室、何の用途にも使われていない空っぽの部屋に入ると、レジスタンスの女戦士は、床に張られた布シートをめくる。


 そこには地下室の入り口が開いていた。梯子を伝わりガザルが下りると、そこはかろうじて人一人が立てるくらいの密室。その目の前は鉄扉で塞がれている。


「わたしよ。例のガザルというカデシュ人を連れて来たわ」


「合言葉じゃないんだな」


「どうせ、案内人がいなければ、部外者は入れないんだから、声で確認する方が安全でしょ」


「なるほど」


 直ぐに鉄扉が開かれ、ガザルは地下室内へと招かれた。


「ようこそ、アジトへ。悪いがもてなしをする余裕は無い。さっそく本題に入ろう」



 それは完璧なまでに整理された空間だった。この室内に収容された書類文書はすべて、正面の鉄扉を突破されるまでの隙に、焼却処分が可能と見えた。


 それ以前に、この空間に配置された文書類の内容からは、レジスタンスメンバーを誰一人特定出来ない様、巧妙に記されているのだろう。


 そこまでの処置をしたうえで、彼らはこの活動に身を捧げているのだ。目の前の人物には、それぐらいの仕事はできる器量がうかがえる。


「私はここ、ヤジズ北部四州のレジスタンスをまとめるトップを任されている、名乗り遅れたが、バルクという者だ」


 今この室内には、バルクと名乗る人物とガザル、ここまでの案内役を務めた女性の三人しか居ない。


 だが、壁の四面を覆う書棚の裏には、どこか別室に繋がる隠し通路がありそうだ。その先にはきっと、何名かのレジスタンスメンバーが控えているのだろう。


(恐らくそれは、俺を警戒しての事では無く、俺が尾行者につけられていた時の為の備え。いや、むしろ常にいついかなる時にも、警戒を怠ることは無いのだろうな)


「俺は戦争を止めるよう、オクスを説得に来たって触れ込みだが、俺にそれが出来ると言う根拠は無い。期待させて悪かったな。それでも俺に協力してくれるか」


「不可能に挑んでいるにせよ、見返りも無く我々のために命を惜しまずここまで来てくれたことには、言葉に出来ない程の感謝はしている。それを裏切るようで心苦しいのだが、君への協力には、内容次第では頷けない場合もある。例え、君の協力要請が我々の為であってもだ。それを承知してもらったうえで、話を聞かせてくれ」


「もてなしをする余裕は無いんじゃなかったか。俺が何を要求するかは、すでに無線連絡が届いていると思っていたんだが」


「君を助けるべく後を追って来ているカデシュ人とは、連携が取れていないとも聞いていたが、彼らから伝えられた要求の内容を、君はどこで知ったんだ」


「なるほどな。俺を追って来ているのは、イサクだけじゃ無かったか。エトロ、シェエラ、ケレン、ツェルヤも一緒か。アイツ等なら君ら、レジスタンスに要求する協力要請の中身は、『レジスタンスリーダー全員と旧ヤジズ政府指導者による、ヤジズ首都でのオクスとの会談』。それとその日まで『全市民兵の抵抗活動の停止』。そんなもんかな」


 バルクはしばし黙考し、その思慮の深そうな顔にシワを寄せ、やがて口を開く。


「ブラフにせよ、大したものだな。君なら出来るかも知れん。ヤジズ北部四州内での、全民兵の戦闘活動、破壊工作を即日停止させよう。ここでの仕事を終え次第、一週間以内に君の後を追い、私も首都に駆けつける。


 それともう一つ、ヤジズ中部首都圏のレジスタンスリーダーへの紹介状と、事前に彼との無線連絡の手を打っておこう。彼に会えれば、その後の道行きにひとまずの目途は付こう。もっともそれだけでは彼に会うのには障害が伴う。このアセトナと同行するといい。決して足手まといにはならん。必ず役に立つはずだ」


 そう言ってこの地のレジスタンスリーダー・バルクはこの室内に居るもう一人の人物、レジスタンスの女戦士を連れていく事をガザルに進めた。


「私はリーダーを信頼してるし尊敬してる。一緒に行けって言うなら、必ず使命は果たします」


「本音は嫌です、って言ってる様なもんだな。レジスタンスには顔が利くようだが、烏戎軍に警戒されないか」


「烏戎軍は紳士よ。女性に危害は加えない。ヤジズ兵とは違った」


 思わず絶句するガザル。このアセトナという女性は、ヤジズ人でありながらヤジズ兵に不信感を持ち、逆に烏戎兵の方が信用できると思っているらしい。


 さすがに驚くべき話だが、過去に事件が有るのかも知れない。そしてガザルにしてみると、言われてみればその通りなのだ。


「なるほど。役に立ちそうだ」


 明朝、この都市を発つときに、合流することで話が付いた。ガザルは来た時とは別ルートをたどって、烏戎軍の宿泊施設へと帰る。

午後も投稿します。よろしくお願いします。

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