第十四話 抵抗者
二十八日、夕刻、シェエラたちは謎の一団に遭遇していた。
円陣を組んで、シェエラ、ケレン、ツェルヤ、エトロ、イサクを守ろうとする護衛役の竜馬騎兵に、ケレンが尋ねる。
「ビロニア高原内にも、ヤジズの市民兵もしくはその支援者が、入り込んでいたのか」
「はい。彼らは無差別テロを行う破壊工作員です。この人数なら、我々の力で突破が可能ですが、覚悟はしていてください」
不安を浮かべているのは、むしろ護衛隊員の方だったかもしれない。シェエラ達には、動揺も緊張も無かった。
「ふ~~ん、ヤジズ人か。ならば話が早い」
この時、シェエラ一行に一つの判断が共有されていると見て取ったイサクが、それを代表して、彼らを包囲する一団に、気安い口調で語り掛けた。
「君たち、ヤジズの抵抗運動家か? 俺たちはこの戦争を停めてウジュ人は即刻ヤジズ領から引き上げるよう、オクスを説得しに来たんだ。悪い事をしに来たんじゃ無いし、君たちに迷惑は掛からないから、そこを通してくれないか」
それまで無言、無表情で脅かそうとしていた謎の一団は、少しだけシェエラたちに興味を懐いたような気配を持ったが、それを断ち切るように一人が懐から投擲爆薬を取り出す。
「噂でガザルってカデシュ人の話を聞いたことはないか? カデシュとカルケミシュの間で、ゴブリン族と人類の和平を取り持った人物。そいつが今、烏戎国とヤジズの和平の為に、内海を渡っていて、俺たちはそのガザルを守るために追い掛けている所さ。君たちも手を貸してくれないか」
謎の一団も驚いたが、護衛役も驚いた。
その護衛役の驚く態度を、イサクの言葉が真実である証拠にも嘘である証拠にも、どちらにも取れるが、ウジュ人を信用していない彼らは真実の証拠と受け取ったらしい。
「その周りのビロニア人の武器を俺たちに預けるなら、手を貸してやる。それが出来なくても見逃してやる」
常識で判断すれば、見逃してもらう以外の選択肢を選ぶはずが無い。たとえシェエラ達が、武器を渡して手を貸してもらう選択肢を選びたくとも、ウジュ人の騎兵隊員が納得するはずが無い。
踏めるはずの無い踏み絵だ。だが、
「彼らが君たちに危害を加える時は、私が真っ先に死んであげる」
ケレンがその涼しい目を清ませて、真顔で護衛役の竜馬騎兵に答えると、
「分かった。この戦争を停めようというあなた達に、ウジュ人として応えよう」
隊長が即答し、他の隊員たちも受け入れ、ヤジズ人の一団に武器を引き渡す。
「あ、ああ。俺たちはヤジズのレジスタンスだ。俺たちのアジトへ案内しよう。すまなかった」
今の一幕を罠だと勘繰る事は、そのあふれ出る誠意を見れば、レジスタンスにも出来なかった。
彼らがシェエラ一行を連れて行った先は、草原の草むらの中に隠された、退避壕の様な地下空洞、いかにも地下組織の秘密のアジトと言った造りのレジスタンス基地だった。
一室だけでなく、地下トンネルで連結させた地下空間の部屋が、幾つも張り巡らされていて、それぞれ別の地上に通じる出入り口から脱出できる仕組みの、かなり規模の大きな秘密基地だ。
シェエラ一行の伴ったウジュ人の護衛隊員に、彼らレジスタンスは、新たに紹介される都度、露骨に敵意をむき出しにして来る。
ここまで案内して来た彼らの仲間に対しても、始めは裏切り者か、騙されているのではないかという疑いの目で迎えられた。
シェエラ達も護衛隊員も、それに対して意地になることなく、理解し憎悪を受け入れる態度を、自分たちの言い分を唱える事無く、一方的に彼らの唱える非を受け入れ、認める態度に徹した。
その態度から、カサにかかって怒声をぶつけるレジスタンスも居たが、より多くは次第に態度を軟化させていった。
「最初に非道を働いたのはヤジズの方だ」
と、それを言ってしまえば全ては終わりだ、とシェエラたちは皆、分かっている。
それに対する報復として、烏戎国はやり過ぎたのだ、と、ウジュ人の非のみを認めた態度は、彼らに、理解し合える余地があることを分からせた。
レジスタンスの中には、ウジュ人に家族を悲惨な形で殺された者もいる。この基地の事が、ウジュ人に知られてしまった、と絶望的な警戒心を向ける者もいる。
それを思えば彼らが、この場で直ぐにシェエラ達を抹殺してしまえと、激高するのも当然なのだ。
シェエラ一行はその憎悪を承知で、戦争を停めようと言うのであるし、護衛役の騎兵隊員もその上でシェエラたちの護衛任務を継続している。
ガザル先生や、その行動を、簡潔に言葉を飾ることなく必要の無いことには一切触れずに説き続ける内、レジスタンス達は、戦争を停めると言うシェエラたちの目的の意味に、耳を傾け始めた。
やがて、彼等も打ち明け始める。カデシュ人の中には、彼らレジスタンスへの協力者がいる、と。
そして最後の壁にぶつかる。
「このビロニア人たちは、ウジュー国の裏切り者ではないか。いずれ状況次第では再び、今度は俺たちを裏切るのだろう」
「この戦争を停めようという少女たちを護衛することは、祖国への裏切りでは無く、総首長からの最優先命令だ。そして今では、この戦争を止めさせることはヤジズ、我が祖国、両国の為に必要な事だと思うのは私たち自身の意志だ。君たちにおもねってのことでは無い」
憎悪も非も認める、だが、プライドを放棄した訳では無い。
同じくプライドの高い戦士であるレジスタンス達は、ついにシェエラ達とウジュ人の護衛隊員を認めた。
「私たちを助けてくれ」
彼らは自分たちのプライドを守るために、シェエラたちに頭を下げた。
「何か、非常事態が起きているんですね」
今日もう一話、投稿します。よろしくお願いします。