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峡谷の街 風河の都市  作者: 雨白 滝春
第二部
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第十一話 疑惑

 その頃(二十七日)、シェエラたちは依然、新首都に止まり、状況把握に努めていた。


 シェエラはイサクに、オクスの側近を務めるという三公の一人、ゼカリヤとの通信を、思い止まるよう説得していた。


「刺客が送られて来たという事は、すでにオクスさんの周囲に、ガザル先生の行動と目的が知られているという事。で、あればゼカリヤという人も、ガザル先生の行動に対しては、傍観者か、より積極的な黒幕の一人かも知れません。


 少なくとも、ガザル先生に協力的な意思を持っているなら、現時点で援護していなければおかしいはずです。それが無い以上、味方と考えるべきでは無いと思います」


 それに対しイサクは、意外にもアッサリと受け入れた。


「ゼカリヤも黒幕の一人か。確かに今の状況じゃ、オクスの側近でガザルに協力的な動きを取ってるヤツはいねえな。アイツに最後に会ったのは一年前だが、その時のアイツ、ゼカリヤは反戦論を唱えていた。この一年の間にその考えを改めたのか、それともそもそもの反戦論が、嘘だったのかもな」


 友情という観念より、現実の事実に基づいて考えれば、そう認めざるを得ない。それを受け入れられる、イサクという人物には信用が置けると、シェエラのみならず、エトロも認めた。


「内心ではガザルさんを援助したいが、周囲の状況から行動に移せないだけなのかも知れない」


「かばってくれるのはありがたいんだ、ゼカリヤがそんな奴なら、味方だとしても当てには出来ないだろ。それに俺の知るゼカリヤは、味方なら必ず手を差し伸べる、敵なら必ず手を打ってくる。今の状況から考えれば、ヤツは恐らく敵に回っているな」


「まさか、昨日の間抜けな刺客たちの雇い主が、そのゼカリヤってやつでは」


「その可能性もあるな」


 ケレンの疑問に、いささか言いづらそうにイサクが答えた。


「ひとつ、俺に試みさせてもらいたい手段が有る。任せてくれないか」


 イサクが、深刻な表情でい皆に提案する。妙に似合わない態度ではあった。




「ゼカリヤを介さずに、直にオクスへの面会許可を取れるとは――」


「直接、無線でオクスと通信した訳じゃあ、無いけどな」


 しかもイサクは、自分達一行と先行するガザルに、それぞれ護衛を付けるよう、オクスに要望したのだった。


 何者かから刺客が放たれたことは伏せて、戦地を行くことから不測の事態を免れる為、と本当の理由を濁して、である。


 今、オクスの側近に、オクスの意志に反する行動を取る、裏切り者がいるなどと知らせるのは、誰にとっても得策では無い、との判断からだ。


 シェエラ達には、直ぐに護衛隊員を合流させられるが、ガザルに護衛を付けるには、相当な手間と時間が必要と、釘を刺された。


「イサクさんって、本当は何者なんですか」


「悪い男さ」


 アホな返事に、それ以上追及する気が失せた一同。


「その護衛に私たちが裏切られる可能性は?」


「オクスは、出来る人物だ。オクス直々の命令より側近の命令を優先するような護衛を付けるはずが無い。そしてオクス自身が、俺たちを護衛に暗殺させる理由は、全く見当たらない。何よりここに、ツェルヤがいる」


「ギーキッキ、ギーキキ」


「都市国家カルケミシュとゴブリン王、工業大都市カデシュを敵に回すマネは出来ないぜ。ガザルは暗殺できても、ツェルヤは殺せない。昨日の刺客はそれを知らなかったな。今頃、雇い主に叱られてベソをかいているかもな」





 烏戎軍総司令部。


「ガザルに護衛を付けるな、と?」


「はっ。かえってヤジズの民兵の標的になるかと。それに」


「ガザル程の者なら、自力でここまでたどり着ける、か」


「御意」


「確かに、足手まといを付ける必要は無い。ふむ、この件、しばらく置くとしよう」


「御意、では…………」


 一人、玉座に残されたオクスは、眉間にシワを寄せ思案する。


(護衛を付けるよう提案したのが俺と思わせ、ガザルを追う一団からの要望とは伏せたが、司空はそれに触れなかった。その一団をヤツが知らないか、それとも俺に隠したか。護衛を付けるなと繋がるとすれば、司空は何かを企てている……。探りを入れておく必要があるか)





 二十七日、夜。ガザル二度目の宿泊。


 明日の昼までには、内海沿岸の烏戎国港湾都市にたどり着く。段々と、次第次第に、戦火の匂いが強まって行く。


 気分のいい雰囲気では無い。


 素朴なウジュ人は、ただ真面目に、実直に、闘うことが使命だと、与えられた仕事をこなそうとしている。猛々しさや、血生臭い様子は見受けられない。


 彼らはただ、朝昼晩に食事をとる。

 日が沈めば疲れを取るために眠る。

 そして生きる糧を得るために戦う。


 生きて生活するための、生理的な活動の一つとして、戦闘を行い、その事に疑問を持たない。最強の軍事民族、蛮族ウジュー国の正体がそれだ。


 彼らに平和を享受させ、文化と文明に教化し、その野性を、特に何とも思わずに無造作に殺し合う習性を、奪わなければならない。


 オクスの目指すものはそれであり、その目標への手段が誤っている事を、気づかせなければならない。


 戦線から戻った負傷兵の苦痛のうめきに覆われた、宿泊所の中で、二日目の夜を過ごした。

今日もう一話、投稿します。よろしくお願いします。

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