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峡谷の街 風河の都市  作者: 雨白 滝春
第二部
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第九話 初交戦

 路地裏をこれ見よがしに歩き回る一行。エルフやハーフゴブリンを全く見かけないこの街で、エトロさんとツェルヤさんは、大層目立っていた。


 中性的で繊細な容姿というのが、ウジュ人の理想美であるらしく、エトロさんは身の危険を感じるほどに注目されていた。


 女性の身でエトロさんに似た所のある、これも中性的な容姿のケレンさんは、実際、危険が及ばないとも限らない。


 そんなこの都市でエルフやハーフゴブリンと関わりのある人物となればガザル先生のみ。故に、彼らを付け狙う者達がいれば、それはガザル先生に着いて詳しく知り、そしてそのガザルさんを付け狙う者達だ。


「尾行者は?」


「八人、先頭のヤツがボスっぽいな。後ろの二人が副頭目、残り五人が手下って所か。武器は騎兵銃一丁、残りは拳銃が二挺、他はナイフ」


「都市内で携行出来ない強火器は、都市外に預けてあるという事か」


「俺たちがガザルの関係者だと知って着いて来ているのは、間違いなさそうだな」


「ガザルさんの烏戎入国を知らされてから派遣されて、今日、この都市に現れたとなると、移動手段は間違いなく高速軽飛行車だ。この先の事を考えるなら、今ここで潰しておきたい」


 二人は振り返り、背後の暗闇に潜む男たちに、声を掛ける。


「ガザルに負けたんで、今度は俺たちを人質にでも取ろうってか? 負け犬ども」


「見え透いた挑発をするあたり、冷静に当たられては勝ち目が無いと踏んだからか。戦力差で負けている事をさらしたな」


(獲物相手に会話に応じる? なるほど、ガザルさんに負けて、戦力差があっても油断など出来ないと学習したばかりか)


(学習したのはリーダー格のこの男だけか。他の連中はその時まだ、この男に合流できていなかったか、居ても学習する頭も無さそうだけどな)


「で、どうだ。たった二人で丸腰の様だが? それで俺達八人に、どう抵抗する気だ」


「大人しく、言われるままにしろ、とでも言いたいか」


 イサクがアマサに強気で応じる。エトロとイサクはアマサが「たった二人で」と述べた時点で、勝利を確信した。


「動くなっ」


 その怒声は、アマサ達からでは無く、その背後から響いた少女の声だった。「動くな」と言われたと理解していながら、彼ら八人は思わず背後を振り返り、一瞬で余裕を失い青ざめる。


 なんと、三人の少女が機関銃を構えて、アマサ達の背後に立ち塞がっていた。


(脅しじゃねえ! こいつら本気で撃ち殺す気だ‼)


「ここは戦時下に在る国だ。直接、重火器を入手するのはそれでも難しいが、カデシュの同胞職人を通じて、部品を調達し、組み立てるだけなら、こういう代物も手に入る」


「ふっ、ふざけるなっ」


「こんな街中で、俺たちを殺せば、貴様らもただじゃ済まねえぞ」


「手下のしつけが成って無いな。お前達の死体から身元が割れれば、困るのはお前達の雇い主だ。それが分かれば俺たちには、弁明の余地が十分に残るからなあ」


 アマサは打開策を必死で捻る。この位置関係で自分たちを撃てば、その背後に居るエトロとイサクも巻き添えになるぞ、と言おうとして、そんなもの目配せ一つ合図すれば、容易に避けられると気づき、打つ手が無くなる。


「俺たちをどうする気だ」


 せめて、エトロたちから要求を突きつけられる前に、自分から状況を理解しようと足掻く。


「お前達が乗って来た、高速軽飛行車の置き場所を教えろ。イサク、聞き出したらすぐに向かって、破壊して来てくれ。嘘だったら戻って来てこの者達を正直にさせるのを、手伝ってもらう」


 今言った通り、エトロたちはアマサ達を始末した方が都合がいいはずなのに、高速軽飛行車を破壊するだけで済ますつもりらしい。


 何か、自分たちに手を下せない、弱みが有るのかと勘繰ったが、彼らの目を見て直ぐに覚る。憐れみの目、殺さないのはただの慈悲だ。


 腹の底から怒りがこみ上げたが、今の状況下では、相手の慈悲にすがっておくことが、最善手だと判断せざるを得ないアマサ。


 大して利口でも無い手下たちが、激高して状況を破綻させる前に、軽飛行車の置き場を、アマサはエトロに伝え、イサクが確かめに向かう。


 恐らくこの地で高速軽飛行車を再入手することは、もはや不可能だろう。それでも生きている限り、反撃の機会は何度でも有るはずだ。


 この屈辱は必ず晴らすと胸に誓い、騎兵銃も拳銃もナイフも、エトロたちに差し出し、それでも万が一、機関銃から逃れられる隙をうかがいつつ、イサクの帰りを待たされる。


 火薬を使い、軽飛行車を修復不能なまでに破壊して来たと、得意に語るイサクが戻り、


「とっとと失せろ、さもないとやっぱりハチの巣だぞ」


 などと、年頃の小娘に脅され、機関銃の射程から慌てて逃げだすアマサ一行。


「案外、騎兵銃と拳銃で、機関銃に勝負を挑むくらいの、無謀を仕出かす連中かもと、警戒もしていたんだが、そこまで愚かでも無かったな」


「先に銃を撃てば、こちらの仲間を一人ぐらいは倒せるが、次の瞬間には自分たちが全滅だからな。駆け引きにもならないさ。無論、この子たちを傷つけさせはしない。ヤツラが微かでも撃つ気配を見せれば、容赦なく機関銃を撃つよう、指示を出す」




 アマサの惨めな敗北の原因は、ガザルの時と今回の場合との、覚悟の違いを見誤っていた事であったか。


 ガザルにとって背負っている物は、自分一人の命でしかない。それを失うまいとしても、その為に他人を傷つけるようなまねは出来ない。


 だが、シェエラ達が背負う物は、自身の命では無く、ガザル先生や仲間たちの命である。それを守るためなら、それを奪おうとする者達と、容赦なくためらいなく戦う覚悟を持ち合わせている。


 自分の命をゲームにしているガザルとは、土台、覚悟が違うのだ。


 しかしあるいはガザルも、シェエラ達が自分を追い駆け、ガザルを救うために死の危険のある旅をしていると知っていれば、この冒険を打ち切り、引き返す迷いを持ったかもしれない。


 それを知らない為にガザルは、見知らぬ多くの人々を、オクスと彼に従う無数の人々を、戦争の惨禍から救おうと、この旅路を続けるのだった。

明日も午前中に投稿します。よろしくお願いします。

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