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峡谷の街 風河の都市  作者: 雨白 滝春
第二部
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第六話 内情

「現在、オクスの側近、政治顧問を務めているのが、ゲルガル人の三公だ」


「ゲルガルですか。確か烏戎国とヤジズの間に挟まれた、内海東岸の国ですよね」


「そう、それ」


「なるほど、烏戎軍がヤジズへ奇襲を敢行で来たのは、ゲルガルの協力があったからか」


 エトロの操縦する飛行車は、シェエラ、ケレン、ツェルヤ、そしてイサクを乗せながら、ビロニア高原へと向かう。その間、イサクがシェエラたちに、ガザルの向かう先の地の、現況を伝える。


「もっとも、その三公ってヤツは、個人的にオクスに重用されているだけで、ゲルガルの都合や政略では無いけどな」


「個人的? その三人がオクスさんの友人か何かだったって事ですか」


「元々はな。今では司徒・司空・太尉って官位で呼ばれている。司徒が行政顧問、司空が政略顧問、大尉が軍政顧問って役割になっている」


「じゃあ、事実上の政権支配者か」


「いや、オクスが政権運営を三公に丸投げってことは無いんだが。あくまで相談役過ぎない。で、三公の一人、本名ゼカリヤってヤツが俺の旧友なんだよ」


「信用出来るんですか、その人?」


「真面目で良いヤツだぜ。俺と違ってな」


(どうも、きな臭いな。そのゼカリヤって人。警戒していた方がいい気がする)


「それで、戦争を停めに行ったガザルさんを妨害し、戦争を止めさせたくない人たちって言うのは」


「恐らくそうなるだろう、ってガザルの予測。今の烏戎の状況から考えて、戦争を停めに入り、そして実際それを実現しうる人物が現れれば、排除しようと考える勢力が必ず動く。俺はその動きに対して、ガザルからバックアップを依頼されているのさ」


「それでイサクさんの事を信用していない森人様まで、イサクさんに協力しようとしているんですね」


「いま、ゼカリヤとは連絡が取れないんだが、ガザルの行動を知れば、必ず援護を働きかけてくれるはずだ。俺たちの第一目標はガザルに追い着くこと。第二目標はゼカリヤとの通信を果たすことだな」


(このイサクさんはともかく、その私達が会ったことも無いゼカリヤって人を、そこまで信用していいのかな、裏目に出れば即、絶体絶命だけど)


 イサクからシェエラたちへの現況説明の間、飛行車の操縦に専念していたエトロが、口を開く。


「予測、憶測で無く、確実な事実は明後日にはビロニア高原の入り口の集落にたどり着く。そこで入国許可を得てようやくガザルさんの行方を追える。ガザルさんが私たちと同行せず、独りで旅立ったのは、イサクの協力を信頼し、私たちに頼らなくてもいいと、判断したからだろう。にもかかわらず、イサクが私たちに手助けを求めたことは、逆に信用できると思う。ゼカリヤという人物の事はともかく」




 ウジュ人は本来、獲物を追いながら天幕で移動しながら暮らす為、定住地となる都市を持たない。それをオクスは新たな国の形を築くため、烏戎国に首都となる新都市を造り始めていた。


 その為、いまの烏戎国では、ガザルまたはエトロの様な都市技術者は、喉から手が出るほど欲しい人材だ。


 オクスがガザルの名を知っていれば、ガザルの思惑はどうあれ、時間と労力を惜しまず、面会には応じるだろう。


 オクスが自分の技術者としての価値からのみ、面会希望に応じたとしても、会えさへすれば説得の余地があるかも知れない、と、ガザルは一縷の望みにかけていた。


 それはまた、余りに無謀かつ大きすぎる期待かも知れなかった。


 戦時下の烏戎国では、自由な交通、他国人の自由な移動が許されず、軽飛行車での移動こそ認められたものの、監視付きで、半ば強制連行の体で建設中の首都へと運ばれた。


 意外にもなかなか品の良い宿泊施設に、宿泊費無料で泊めてもらえることに為ったが、これがガザルの技術者としての評価からかは、分からない。


 建設中の都市は、予想以上に巨大な規模で築かれている。街にはカデシュ人も数多く見かけられた。


 カデシュの誇る工業技術者、建築技術者が、この都市建設にどれほど携わっているのか、オクスの目指すモノの一端がうかがえた。


 逗留一日目に、ガザルはカデシュ人を中心とした、街を行きかう技術者らしい人々に立ち話を装い、聞き込みを仕掛けて情報を集める。


 彼ら職能者のほとんどが、自ら仕事を求めてこの都市に赴いたのではなく、オクスからの指名で、本当に名指しで勧誘され、この新首都建設に参加を決めたと言う。


 有名な工房や高学歴者、著名な技術者はむしろ少なく、これまで無名ながらも堅実な仕事の実績を持つ、手堅い職人が多かった。


 オクスの本当の才能は、軍才よりこのような人材抜擢、適材適所の人事能力とその組織作りにあると思われる。


 逗留二日目には、商業施設や娯楽・遊戯施設を中心に街をのぞいてみた。


 娯楽としては、竜馬による乗馬競技等のスポーツや、それをショービジネス化したものが、広く行きわたっているらしい。


 気軽な交通手段としても、乗竜馬が使われているようで、街路には竜馬専用路側帯が敷かれている。


 カデシュの通貨が直接使え、ショッピングでは、他国なら庶民にはとても手が出せない、高級毛皮コートや高級皮革バッグなどが、破格の安さで幾らでも売られている。


 一番意外だったのは、この国のウジュ人が実に素朴で穏やかな人柄をしており、暴力性がほとんどうかがえない、大人しく正直な人々だったことだ。


 暴力的な印象を秘めていそうなのは、招かれた職能人以外の、他国からの流入者かも知れない。


 と言って、その人たちが特に悪事を働く訳でも無く、ただ、ウジュ人が大人し過ぎる為、未だ身の置き所の定まらない流入者が、荒っぽい印象に見えてしまうだけなのだ。


 現在、戦争中に建設ラッシュの新興都市として考えれば、あり得ない治安の行き届きようと、言えるかもしれない。

明日も午前に投稿します。よろしくお願いします。

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