第十八話 真相
「実は君たちにも伝えていない、知っているのは私とカフトリム王だけなのだが、もう一組の使節団が、今日、同時にこの都市を来訪する予定だったんだ」
この場に居るのは、応接間に通されたツェルヤを除く、シェエラ、ケレン、ガザル、エトロの四人。その四人の背に、戦慄が走る。
「ツェルヤ君の父君、ゴブリン王ネブザルアダンとカフトリム王の極秘会談がこのターミナル施設内で、開かれる予定だったんだ。その絶対漏洩するはずの無い秘密が、王弟に漏れていたんだ。彼の派遣した部隊が、そのゴブリン王の使節団に向かっているらしい」
今になってその秘事を、四人に打ち明けたのは、もはや自分の才覚の限界を知り、四人の知恵を借りざるを得ない状況だからか。
「ゴブリン王に連絡を取って、潜行部隊に追い着かれる前に、カフトリム王の一団に合流させれば」
「いや、現在地から見て、それは間に合わない。カフトリム王に追い着く前に、潜行部隊に追い着かれる」
「ならば、カフトリム王使節団と平和の壁の人々にも連絡して、彼らの方からもゴブリンの使節団へ向かわせれば。合流さえ、させてしまえば、手出し出来ないのは確かなのだから」
エトロの意見は、もっともだった。現在とれる対策の中では、それが唯一の最善策だろう。
「しかし、それは……」
「人間の壁を作ってもらっている人たちに、ツェルヤがハーフゴブリンでカフトリム王の孫だと言う事実を、告げる訳には行かないってか」
「――――」
「ゴブリン王を助けに行けば、戦闘に巻き込まれる可能性がある。理由も告げずに助けに向かってくれとは頼めない。だが、ツェルヤの父親を助けてくれ、と、言えば、彼らは全力でかけつけてくれるだろう」
港務局長は、ガザルの目を直視できなかった。
「いや、真相は全て逆なのか」
「――――っ」
「アンタがこの事態を、ゴブリン王が襲撃される事態を、幾ら情報が漏洩しない絶対の自信があったにせよ、想定していなかったはずが無い。むしろ、今この状況こそがアンタの狙い通りだったんじゃないのか。どんなお国の事情が有るのか知らないが」
狼狽していた態度すら演技だったかのように、シェエラの父、港務局長は落ち着きを取り戻している。
「ゴブリンたちを人間と同等の対外勢力だと、カデシュ、カルケミシュ、のみならず周辺諸国郡に認めさせるために、今回、この事態を意図して招いた。カルケミシュの王の孫がハーフゴブリンだと、非難を浴びずに宣言させる機会を作るために、ゴブリン王が襲われる状況を、それを助ける人々がいる状況を創り出す必要があったんだ。それでも私の主張は間違ってはいないと思うよ」
揺るがない港務局長に対し、ガザルも怯まない。
「やり方が間違ってるんだよ。正しい事をしているつもりなら、その主張をハッキリと公言すればよかったんだ。秘密主義と謀略で、なし崩し的に認めさせようッてやり方は、返って人心に不信を植え付けるぞ。ましてや、ツェルヤを利用し、平和の壁に命懸けで参加してくれた人々まで欺いて」
冷静に怒りをぶつけるガザル。だが、それに割く時間を惜しむエトロが、両者に割って入った。
「港務局長、これ以上、隠している事はもう無いのか。ガザルさん、既にここまで状況が動いている以上、港務局長の策略に乗るしかない。カフトリム王の使節団と平和の壁の人々への連絡は、港務局長の娘という社会的地位にある、シェエラに頼もう。
ケレンさんも付き添ってもらいたい。ゴブリン王の使節団へは、私が向かう。一刻も早く、両者を合流させて、王弟の派遣した部隊からツェルヤさんの父君を救い出そう。その際、カフトリム王使節団と平和の壁の人々に、助けに向かわせるゴブリン王がツェルヤさんの実父で、カフトリム王がツェルヤさんの祖父だと、説明しても構わないな」
「それこそが港務局長の望んだ状況だからな」
「ええ、お願いします」
自分の正しさを確信した態度で、港務局長が頭を下げて依頼する。
各々が自分の役割を果たすべく動き出すその一瞬、エトロさんがガザル氏に目配せを送ったのを、シェエラは視界の端に捕らえた。
ガザル先生もその場を動く。
彼の役割はそう言えば聞いていなかったが、ツェルヤさんの為にここに居残るのが当然だと、シェエラは思っていたのだが。
(今度こそ、父を出し抜く、チームプレーだ)
ガザル先生と森の人の連携を想像し、シェエラは期待を湧かす。
今日はもう一度、投稿します。よろしくお願いします。