2-1.秘密基地の遊び仲間・宮廻あやめ
皆さんの応援のお陰でランキングに名前が載っていてびっくりしました。ありがとうございます。
おかげさまでテンションが上ってバリバリと書けるようになり、予定より早く2-1が完成しました。というわけで投稿します。
今回のお話は前回と変わって、前世で仲が良かったお友達との回です。
土肥玲花は、今回は登場はしません。(回想でめちゃくちゃ出てきますが)
ここから新しい女の子が出てきて、4-1から土肥を含んだ全員が登場するお話になっていく予定です。なので、土肥好きの方はそれまで少しばかりお待ち下さい。
荷物を置いて制服から遊び行きの服に着替えた俺は、玄関を飛び出て走り始める。
しかし今日は四年生の修了式だったから、色々持って帰るものが多くて下校に難儀した。
学年が変わるから教室に置きっぱにできないってことに気付いたのが、まさかの今日だったからな。
いや、小学生の思考にまだ慣れてないから仕方なくないか……?
ていうか、母さんも教えてくれてもいいじゃんって心の中で思ってしまったよ。前世の俺がそういうのキッチリしてるタイプだったから、言わなかったんだろうけどね。じゃあ恨むべきは前世のキッチリしてた俺か、許さん。
図工セットやら絵の具セットやらの嵩張るくものを、朝焦って用意した大きな鞄に一纏めで突っ込んだ時は、正直これくらい余裕だろと思ってた。
けど、持ってみるとマジでキツかった。体が小さくなっていることを完全に考慮できてなかったからなあ。
特に書道セットが本気で重かった。考えてみれば硯とか墨とか入ってるわけで、そりゃ当然重いわけですよ。
あと図工で作った謎の紙粘土オブジェも嵩張って面倒臭かった……前世の俺こんなん作るなよ……。
両手に荷物を提げた上に、背中のランドセルもパンパンだったから、帰り道の俺は左右にフラフラと揺れまくっててさぞ危うく見えただろう。
いやはや、子供と大人の体格差ってかなり大きいんだなあ……。大人なら片手で持てるかもしれないし。
家に帰って荷物を降ろした瞬間の開放感よ。一気に体が軽くなったね。羽根が生えたみたいだった。
あとそういえば、三学期の最後って修了式って言うんだな、終業式じゃないことにびっくりした。
カレンダーを見たところ、学年末だけ言い方が違うらしい。
前世からずーっと年間通して終業式と呼ぶと思ってたし、もしかして三学期だけ修了式に呼び名が変わる別世界に異世界転生したんじゃないかなんて思っちゃった。
しかし小学生に戻ってからは、走ってるだけでも楽しいんだよね。足を動かしてるだけで、勝手に愉快な気持ちが湧き上がってくるから凄いと思う。
出会い頭の事故に遭わないようカーブミラーを逐一見ながら、懐かしい道をひた走る。いやはや、小学生の時はミラーなんて気にしたこと無かったけど、よく事故らなかったな……。改めて、小学生の無鉄砲さや考えなしさに恐れ入る。
いくつか曲がり角を曲がって、河川敷の堤防のてっぺんにある道に登る。ここは歩道しかないから、ようやく周りを注意しなくても大丈夫になった。安心感と共に思考が回りだす。
過去に遡行してから一週間が経った。
俺の把握してる限りでは、土肥はあれから一度も小野瀬たちにちょっかいをかけられてはいない。
ただ、それが土肥いじめを小野瀬たちが諦めたからなのかはわからない。
俺は土肥が一人にならないように、休憩時間は出来るだけ一緒に過ごしているし、下校の際にも家の近くまで送っている。だから、そもそも俺なしで土肥と小野瀬が顔を合わせる時がないんだよな。
ちなみに、休憩時間の外遊びだと土肥は遊びに参加せずに見てるだけだ。サッカーやバスケって、女子はたいてい怖がるものだから仕方ない。
外遊びで思い出したけど、一昨日の昼休みの時間にドッジをしようと誰かが言ったら、クラスの半分くらいでやることになって驚いた。
四年生になって、クラスの半分が一緒に遊ぶなんてことがあると思わなかったよ。
普段外に出ないインドア系な男子もドッジと聞いた瞬間にやる気満々になってたし、ドッジボールならやりたいって言って外に出てきた女子も結構いた。小学生のドッジ好きを垣間見た一瞬だった。流石だよ、ドッジ。
普段物静かなやつがめちゃくちゃハッスルしているのは見ていてなんか良いなあと思えたし、今度またみんな誘ってやりたいなとも思ったな。
まあ土肥はドッジも苦手ぽくて参加しなかったけどね。縁石にちょこんと座って観戦して、俺がナイスプレーをした時にぺちぺちと拍手してくれていた。
ただ、あれから暁斗と三人で時々やっている定規バトルなら、土肥は嬉々としてプレイしてる。俺も最近は練習を重ねた成果か、十回に一回くらいは土肥と暁斗に勝てるようになってきた。地味に割と嬉しい。
しかし、最近よく一緒にいる土肥だが、基本的に無口ではあるけど話をしていて落ち着くし、一緒にいても辛くないから良かった。
ただ、土肥がトイレに行くの時に連れションに誘われるのだけは困るけど……。
いやまあ、俺が間近に居れない場所が一番危険というのはわかるんだよ。それに、小野瀬たちにトイレに行けないように囲まれていたわけだから一人で行くのを怖がるのもわかる。
それでも、男女で連れションってのはちょっと厳しいだろ。
前にも言ったけど、うちの学校のトイレは男子トイレと女子トイレが同じ部屋をパーテーションで区切っただけだし、そのパーテーションも薄いので音が聞こえてくる。
なので土肥に連れションに誘われた時は、俺は何も聞こえないようにトイレの外で少し離れて待ってるけど、それでもなお居た堪れないからな。
俺の腕をちまっと摘んで引っ張ってくる土肥の顔があまりに真剣だから逆らえずにいるけど、変な癖がついたり変な噂が立ったら大変なのは土肥の方だと思うから早めになんとかしたい。けど、言えない。
はあ、どーすりゃいいんだろうな。まあ今日は終業式で、明日からは春休みだ。とりあえずは新学期まで一旦棚上げにできるからまた後で考えればいいか。
「おー、寄木!」
そんなふうに悩みを頭の中でぐるぐるさせて最終的に棚上げしていたら、下の草むらから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
にゅっと顔を河川敷へ向けると、仁王立ちした私服姿の女子が俺に手を振っていた。ロング丈のTシャツかニットにデニム地のスカート、目はちょっと吊り目気味で元気いっぱいという表情。いつも馬鹿面ばかりだけど、実はそこそこ整っている……。今日遊ぶ約束をしていた、宮廻あやめだった。
「あれ?宮廻、なんでここに?」
声を張り上げて俺も返事をする。
待ち合わせ場所はここではなかったはずだ。どうしたんだろ。
「橋の下漁ってた」
「あー、なるほど。ハンティングしてたのか」
ハンティングというのは、橋の下に不法投棄されてる色んなものを拾い集める遊びだ。
某考古学者映画のテーマとかを歌いながら草むらや鉄骨の間を掻き分け探すだけのシンプルなもので、安直だけどトレジャーハンティングからハンティングって呼ばれてた。
見つかるものはせいぜい古びたハンガーとか壊れたラジオとかのゴミばかりで、まともなものが見つかることはめったに無い。ていうか無い。
けど、探検ごっこや宝探しごっこはそれだけで面白いわけで、割とみんながやりたがる遊びだった気がする。
「じゃあそっち行くから」
腹から声を出して会話をするのも面倒だから、俺は河川敷に降りることにした。
さっきまで考え事をしていたから目に入っていなかったけれど、河川敷に来るのも超久しぶりだ。
最後に足を踏み入れたのは、おそらく二十年ほど前じゃないだろうか。
ここら辺は川幅も広いからその分河川敷も広くなっていて、体育館の横幅と変わらないくらいだ。なので、子供達の絶好の遊び場になってたんだよな。
その広々とした河川敷をじっと眺める。
一面の草原と、その先にある半ば水に浸かった葦の茂み。川岸にポツポツと生えている灌木と、そしてゆうゆうと流れていく川。
うわ、本当に懐かしい……。胸が締め付けられるような郷愁が襲ってくる。
あの浅瀬のあたりで、大きな魚、おそらくシーバスかボラかだったはず……を、みんなで追い込んで捕まえたのは、いつの夏のことだったか。
確か、暁斗が腕の中で暴れる魚に体勢を崩されて川へ転げ落ちてしまい、びっしょ濡れになったっけ。
ずぶ濡れでクシャミをする暁斗を見た樫崎と宮廻が大爆笑してて、暁斗がめっちゃ不機嫌だった記憶があるなあ……。懐かしい。
段を下るたびに、宮廻の姿が大きくなっていく。
宮廻あやめ。
俺の小学校時代の遊び仲間だ。
二年から四年生の三年間は、宮廻と暁斗それに樫崎の四人でずっと一緒に遊んでいた。
小学生というのはすぐに仲良くなったり喧嘩をするもんで、遊ぶ相手が頻繁に変わるもんだ。
その例に漏れず、俺たちの遊びグループもメンバーはだいたい七人前後から増えたり減ったりって感じだったけど、俺たち四人はずっとつるんでた。
全員が毎回揃うなんてことはなかったけど、秘密基地でも河川敷でも学校でも誰かの家に集まる時でも、大体一緒だった記憶がある。
小学校も低学年を過ぎれば、普通はだいたい男女でグループが段々と別れていく。
基本的に男女で好みが違うし、女子は危険なことや汚い場所を避けるようになってくるし。
もし女子が同じグループに居ても、それはお客さんというか、一歩外側にいてバカをしてる男子を眺めてるみたいな立ち位置にいることが殆どだ。
でも、宮廻はそうじゃなかった。
蜘蛛の巣が張ってたら、嫌がるどころか頭から突っ込んでいく奴だし。俺は汚いとか気持ち悪いよりも先に、餌を取るための罠を壊すことに罪悪感を覚えるから突っ込めなかった気がする。いや、妙にませた子供だったんだな、俺……。
みんなで河川敷で魚を捕まえた時に、真っ先に川の中に駆け込んで川岸に追い込んでいたのも宮廻だった。
スポーツは何やらせても上手かったし、足も速くて喧嘩も強い。俺は宮廻と喧嘩したことはないけど、多分戦ったら負けてたと思う。
男子に遜色ないわんぱくさどころか、学年で一番わんぱくなのが宮廻あやめという奴だった。
ノリも良いし一緒に遊んでて楽しくて、お互いに遠慮することなく何でもあけすけに話せる。そんな気の許せる友達だったと思う。
階段を降りる足が少しだけ重い。
気の許せる相手と遊ぶというのに、実は俺は緊張している。
それは前世での四年生の終業式の日、つまりは今日に、宮廻と喧嘩をしたからだ。
今でも覚えている。
『寄木のバカっ!』
と叫んで、泣きながら体を震わせて帰る宮廻の後ろ姿を。
その時の俺は、初めて見る泣き顔の宮廻に動揺して、俺は何も出来ずに呆けて見送るしかできなかった。それまで、一回も泣くことなんて無かったのに。
喧嘩の原因は覚えていない。
確か、二人で遊んでいて些細なことで言い争いになったんだと思う。
そして、言い争いが段々とヒートアップしてお互いが感情的に言葉をぶつけあい、ついには宮廻がキレながら泣き出した。そんな感じだったはずだ。
そのまま春休みは、宮廻と会うことなく過ぎた。
新学期になってからは、なんとなく俺も話しかけにくかったし、宮廻も俺に近付かなかったから、まず会話すら起きなかったんだ。
俺たちが不仲になったのは周りの連中にもすぐに広がった。他の友達はどっちかが居るときは片方を誘わないようになった。
そうして、俺と宮廻はあんなに毎日一緒に遊んでたのが嘘か夢だったかのように、関わりがなくなってしまった。
最初は俺も、小学生によくあるパターンで、時間が経ったらいつの間にか仲直りできるんじゃないかと思っていたんだけどな。
でも、そうはならなかったんだ。
結局それ以降、俺は卒業するまでに宮廻とまともに一回も話をしていない。
ああ。
だから、俺は中学受験の勉強に勤しんだのか。
宮廻とのことを思い返していたら、ふと気付いてしまった。
仲がいいグループだったのに、宮廻と俺が一緒に遊ばないからグループ全体も活気がなくなってしまった。三人と四人に分かれて遊ぶ、なんてこともあったしな。
……そんなグループを直視するのが嫌で、俺は勉強と塾に逃げたのか。
もちろん勉強が楽しかったのは確かだし、数学や生化学に出会えたことは人生万事塞翁が馬というところなんだろうけど。でもな……。
堤防から河川敷に降る石段を軽快に跳ねながら、俺はじわりと手に汗をかいたのを感じる。
階段の麓に、宮廻が腰に手を当てて俺のことを不敵な笑みで見つめている。
緊張でちょっとだけ体がこわばる。
大丈夫だ。逆行してから宮廻とは何度となく遊んだじゃないか。二人きりは初めてだけど、みんなで遊んだ時は楽しく遊べたんだから……。そう自分に言い聞かせる。
「あっぶない!」
「うあっ!」
考え事をしながら降りていたせいか、緊張で体がいつも通りに動かなかったせいか。
もう少しで河川敷というところで、俺は階段を踏み外した。慌てて階段を足で探るけど見つけられない。そのまま前のめりに体が傾いでいく。
視点が揺らいで、重力に体が引っ張られていく。顔と頭は守らなきゃ、と思って俺は咄嗟に頭部を手と腕で覆った。
活動報告にも書きましたが、明日も更新があります。2-2です。
今週土曜に更新のつもりでしたが、前書きの通り、皆さんのお陰でいっぱい書けました。ありがとうございます。
その他にもいくつか今週作品を投稿すると思います、よろしければそちらも御覧ください。活動予定に大まかな予定を書いています。