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11-4. 奏者と指揮者・宮廻あやめ&羽鳥純恋

 


「え、そんな理由であの曲選んだの?ゴリ山って馬鹿?」

「森山先生が学級新聞に異様にやる気出してたのってそういうことだったんだ……作業は楽しかったけど……」


 音楽室に戻った俺がさっき見かけたことを言うと、宮廻は呆れ顔に、羽鳥は渋い顔になる。

 言ってから思ったけど、人のプライバシーだし吹聴しないほうが良かったのかもしれない。そんな気がする。


「他のやつには言わないでくれよ」

「そりゃそうでしょ」

「うん。言わないかな」


 二人ともすぐに約束してくれたので、一安心である。よかった。


「ていうか言えないでしょ、こんなの」

「そうだね」


 羽鳥と宮廻は二人でウンウン頷きながら、はぁと揃って溜息をつく。


「でも、恋愛で冷静じゃないのはわかるけどさあ……」

「だね。逆効果なんじゃないかな。森山先生のためにも言ってあげたいね、努力の方向を間違えているかもしれませんよって」

「無理無理、恋愛モードになった人間って基本的に話聞かないじゃない。しかもゴリ山って頑固だし」

「でも、教えてあげないと可哀想じゃないかな」

「聞くはずないし、教える義理もないよ。……羽鳥さんって優しいね」


 宮廻は瞳を揺らして少し俯きがちになる。口があたしと違って、いう風に動いた……気がする。

 どうにも何か言いたくなった俺だけど、本当に宮廻が何を言ったのかがわからないので結局何も言えなかった。


「そうかな」

「うん」


 神妙な顔をした宮廻は、首を大きく縦に動かした。

 まあ、学級新聞をさせるのはさておき、あんな歌を小学生に歌わせることでドキドキさせようとしている奴に同情するのは優しいとは思う。

 ていうか、冷静に考えると公私混同じゃね?

 好きな女にアピールするために生徒を出汁にしてんじゃん、ゴリ山。

 そう考えると割とドン引きだな。歌詞も歌詞だし。


「というか、普通に考えたらあんな歌詞の曲を合唱に選んだら、キモがられると思うけど分からないもんなのかな」


 純粋に思ったので口にすると、宮廻が即座に突っ込んでくる。


「恋愛モードで脳内物質が変わってるんだから無理でしょ」

「ああ、恋をするとドーパミンが増えるんだよな」

「そうそう。寄木よく知ってるね」


 まあ前世での専門分野に近いからなあ。ていうか、むしろ宮廻が脳内物質という言葉を知ってたのが意外だよ。

 恋をすると世界が変わって見えるというのは思い違いでもなんでもなく、脳内物質の比率が変わるので本当のことなんだよな。

 本当に今までとは違って見えるらしいけど、俺は恋愛をしたことがないのでよく分からない。

 俺もそういう風に、世界が変わって見える時が来るのだろうか。


「人間関係は理屈じゃないからね。色々仕方ないのかなって思うかな。恋愛でも、友情でもだけど」


 ちょっと悩ましげに羽鳥が呟くので、宮廻が羽鳥の顔を覗き込んでちょっとゆっくり目に言葉を紡いで反駁する。


「うん。羽鳥さんの言いたいことはわかるよ。でも、あたしはゴリ山については仕方ないって言いたくないな。恋愛するのは自由だけど……それで人に迷惑をかけたらダメだと思うから」

「ほーん」

「あっ、寄木。姫乃のあれは迷惑とか思わなかったからね!」


 俺が気の抜けた相槌を打つと、宮廻が慌てて付け加えてくる。

 わかってるよ。お前が樫崎にマイナスな気持ちを持ってないってのは。

 俺がわかってるとばかりにうんうんと頷くと、宮廻は安心したようにホッとため息をつく。

 しかし、宮廻がそんな恋愛観を持ってるとは思わなかった。さっきの相槌が抜けた感じだったのもそのせいだ。

 恋愛なんて自由でしょって感じに、好き勝手やりそうなイメージなのに意外だな。


「あ、そういえば樫崎さんと日野くんは付き合い始めたんだっけ」

「え、よく知ってたな」


 樫崎と暁斗はあまり触れ回らないようにするつもりだと言ってたのにな。


「うん。二人で恋人繋ぎしてデートしてる時に見たって子がいて。その子から聞いたかな」

「あ、そうなんだ」

「でも、その子以外からは二人の話を聞かないし、広まってないとは思うよ」

「なるほどなあ」

「じゃあ、その子と羽鳥さんしか知らないのかもね。でも、羽鳥さんって顔広くて、皆に好かれて信頼されてるよね」

「そんなことないよ」


 宮廻の言葉を羽鳥がまた軽く苦笑して流す。

 羽鳥を賞賛する宮廻の顔は、どこかさっきの「あたしと違って」と見えるように唇が動いてた時に似ていた。


「ていうかさ、恋人繋ぎって、何?」

「「え、知らないの?」」


 俺がボソッと零した言葉に、二人が異口同音に返してきてびっくりする。


「え、そんな知らなきゃいけないことなのか?」


 俺が驚きを露わに聞いてみると、二人は顔を見合わせながら口を開く。


「いや、そうでもないかな」

「確かに、寄木が知ってる方が不思議かもね」

「お前な……」

「ごめんごめん」


 にっと笑いながら宮廻がバカにしてきた。くそ!

 謝りながら笑ってやがるし!


「実際やってみるのが早いかな。寄木。手だして」


 羽鳥の言うままに反射的に手を出すと、羽鳥は俺の掌に掌を重ねた。俺のほうが一回り手が小さいのがなんだか恥ずかしい。

 まあ、羽鳥は俺より十センチほど背が高い事を考えると、当たり前なのかもしれないが。


「ここから、指と指の間にお互い指を入れてギュッと握るのが、恋人繋ぎかな」

「なるほど……」


 羽鳥が俺の指の間に指を差し込んできて軽く擦る。

 ここから更に握る形を想像する。あ、あれか!

 言われてみたらそういう繋ぎ方をしてる人間を見た記憶がある気がする。

 これ転ける時とかすぐに離せないから危険だとだと思うんだけど。ああ、お互いに命を預けてますとか、運命共同体ですとかそういう意味なのか?


「なるほどなあ。変な手の繋ぎ方があるもんだな」


 羽鳥と手を合わせながら謎の繋ぎ方に想いを馳せていると、不意にピアノの音がした。

 そちらを見ると、いつの間にか宮廻が座っていて、どこかで聞いたことのあるようなクラシックを奏で始めている。

 そんな宮廻の姿を見て羽鳥も立ち上がる。


「あ、練習しなきゃだね。私からお願いしたのに、ごめんなさい。宮廻さん、横江先生の選んだ方をもう一回練習したいけど、いいかな」

「……うん。いいよ」


 宮廻がピアノを弾き始める。

 そんな感じでその後は三十分ほど練習したけど、結局ゴリ山の選んだ曲は一回もやらなかった。まあそりゃそうだ。



 *****



「えと、失礼します」


 そろそろ下校時間が近づいてきたタイミングで、密やかな声と共に土肥が部屋へとひっそり入ってきた。


「お、土肥。よくここがわかったな」


 俺達より先に教室を出ていたはずだから、何処にいるかわからなかっただろうに。

 あれか、虱潰しに探したのかな。


「あやめちゃんがランドセルにメモ残してくれてたから。ありがとね、あやめちゃん」

「うん」


 そう言いながらとてとてと俺のもとへ駆け寄ってきた土肥は、宮廻の意外にちょっとかわいい感じな文字で書かれたメモを俺に見せてくる。

『玲花へ。寄木は音楽室であたしと羽鳥さん合唱の練習中です。そっちが先に終わったら来てね』

 へえ、気が利くじゃん。あれ、でも音楽室に上がるまえにそんなの書いてたっけ?


「え、いつ書いたんだよ」

「さっきペンケース取りに行った時」

「ああなるほど」


 というか、冷静に考えると土肥と一緒に帰ってる俺がメモを書くべきだった気がする。


「じゃ、帰ろっか。羽鳥さんもそれでいい?」


 ちょうど曲も終わったところだったので、宮廻がピアノの蓋を閉めながら言う。


「うん。ありがとうね、宮廻さん」

「あたしも練習できてよかったから……ねえ玲花、課題曲の歌詞見た?」

「え、見てないよ?」

「そっかー」


 土肥のランドセルに顎を乗せながら、宮廻がぐでーっと伸びる。

 おい、重そうだろ!やめてやれよ!


「玲花、ごーっ!」


 そして宮廻が土肥のランドセルをグイグイ押して走らせる。


「わーっ、は、早いっ!!!」

「いっけー!」

「おい、宮廻うるさいと怒られるぞ」

「ここは音楽室だから防音しっかりしてるもーん」


 二人羽織をした土肥と宮廻は、俺の注意にも耳を貸しさえもせず、音楽室を走り回る。

 ふと横を見ると、羽鳥がその様子をじいっと見つめていた。


「ちょっと危ないよな。止めてくるよ」

「いや、止めなくていいんじゃないかな」


 俺が体を張って止めるか仕方ないなと思っていたら、羽鳥が意外にもそのまま続けるように言ったので驚く。


「え、いいのか?」


 てっきり騒いでる二人を見て、注意しなきゃと思っているものだと。


「うん。楽しそうだからね。宮廻さんもピアノやってる人だし、楽器を壊したりしないと思うな」

「ま、まあそうかもな」


 羽鳥が言った瞬間に、二人羽織が大きな太鼓と木琴の間をニアミスしながらすり抜けていた。いや、大丈夫じゃなくないか?


「正直言うとね。ああいう感じにはしゃいだことがないから、ちょっとだけ羨ましいかな」

「確かに、羽鳥にはそういうイメージないな」

「だろうね」


 羽鳥が俺にニコっと笑いかけてくる。


「んじゃあさ、俺達も混ざるか」

「いいのかな?」


 羽鳥は余裕な感じで、クールに笑う。


「そりゃいいだろ。じゃ行くぞ。うおおおおおおおおお」

「やーーー」


 叫びながら、二人で遊んでいるところに俺達も突入する。羽鳥は叫び慣れてないのか、ちょっとだけ声に照れがあってそれが面白かった。

 結局、俺達は帰りの予鈴が鳴るまで走り回った。

 なんとか楽器は壊さなかったものの、最後の最後で壁に立てかけてある授業で使うパイプ椅子にぶつかってドミノ倒しにしてしまい、それを慌てて元に戻したのはちょっと大変だったな。

 まあ、楽しかったからいいけど。




いつもお読みいただき、有難うございます。


これにて十一話は終わりです。

次は閑話の予定です。

先日皆様の応援のお陰で総合評価が7500ptに到達しました。ありがとうございます!

その御礼に閑話で書いてほしい話を募集します。活動報告にて募っておりますので、よければお書きください。


体調が思わしくないこともあり、次回は金曜あたりに投稿します。復調すれば明日明後日に更新できるかもしれません。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 4人揃いましたね。純恋に嫉妬するあやめ、良かったです。 [一言] 続きをとても楽しみにしています!
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