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11-3. 奏者と指揮者・宮廻あやめ&羽鳥純恋


歌詞はオリジナルです。


 


「羽鳥さん、まず指揮って何をするものなのかわかる?」


 音楽室に入って早速ピアノの前に座った宮廻が、鍵盤の蓋を開けながら言う。


「えっと、リズムを取るんだよね」

「うん、そう。何より大事なのは、歌う人とピアノを合わせるってことだね」

「なるほど」


 羽鳥が真剣な顔で頷く。


「カラオケでリズムより早く歌っちゃったり、遅く歌っちゃったりする人いるでしょ。あれを視覚で防ぐためなの」

「なるほどね。私はカラオケあんまり行かないけど、意味はわかったかな」

「で、これが本題なんだけど、どっちがどっちに合わせるかってのが大事なんだよね」


 宮廻が真面目くさった声音で話しつつ、置いた楽譜に目をやりながら旋律を確認していく。


「え?」

「普通はそりゃ指揮者にリズムを合わせるよ。でも羽鳥さんは指揮初めてでしょ?」

「そうだね」

「ああ、なるほどなあ」


 言いたいことが分かったので頷いてしまった。

 宮廻がわかったならあんたが言えというような顔で見てきたので、そのまま言葉を継いでいく。


「初心者の羽鳥に合わせてリズムが早くなったり遅くなったりすると大変ってことだろ」

「そう」

「うん。そういうことだよね。じゃあ宮廻さんに合わせるのでいいのかな」

「羽鳥さんは……それでいいの?」


 宮廻が言葉をゆっくりと発する。


「うん。私はそれでいいよ」

「わかった。じゃあリズムの説明をするね、ちょっと羽鳥さんこっち来て」


 羽鳥の飄々とした感じの返しに対して、宮廻は重く頷いて自分の方へと羽鳥を呼んで説明を始める。

 四拍子だから指揮棒の振り方が……という感じの事を話しているのが漏れ聞こえてくるが俺は音楽の素養がないので正直よくわからない。

 なので、先程配られたプリントを見ることにする。

 前世でもそうだったけど、一学年ごとに二曲の課題曲があるんだよな。なので、隣のクラスも同じ歌をやるので若干優劣が気になったりしてしまったりする。

 アップテンポな方が前世と同じものなので、横江先生が選んだものだろう。

 もう一曲のタイトルには見覚えがないので、こちらはゴリ山が選んだやつっぽい。

 とりあえず前世で歌ったアップテンポな方をじっくりと見ながら口遊んでみる。


「行ける時には行く、それを若さと笑うなかれ」


 なんかちょっと過去逆行をした身でこの歌いだしを思うと、含蓄があるな……。

 でもまあ、何をすればよかったかも、いつが行ける時なのかもわからなかったからまあ詮無いことだな。

 恋愛とか一回もチャンスを感じたことがなかったしな。

 戻ってきてからも特に人間的に成長している感じもないので、このまま同じように恋愛チャンスなしに人生が進んでいきそうな気がする。

 もうちょっと俺も女子に好かれるようなキャラ付けとかをした方がいいのかな……。

 ちょっと悲しい気分になりつつ歌詞を懐かしんでいると、宮廻が声をかけてきた。


「寄木、その曲歌えたんだ」

「なんか知ってる曲だったからな」」


 とりあえず無難な感じに返しておく。最近は逆行したことを疑われないように上手く返答できるようになってきて、そこに関してはちょっとだけ成長を感じる。


「じゃあさ、羽鳥さんへの説明が終わったから合わせて歌ってよ」

「おう」

「じゃあいくね」


 羽鳥が指揮棒を振り始めて、宮廻が音を奏ではじめる。

 宮廻は三歳からやっていると言うだけあって、初見だろうにミスもなく弾きこなしていく。

 スタイルがいいのに加えて堂々としているからか、羽鳥も初めての指揮とは思えないくらいに上手くやっている。

 

「いいじゃん!んじゃあ、もう一曲の方もやろうよ」


 一曲が終わった瞬間に、宮廻が上機嫌で宣った。


「え、俺歌詞がわかんないけど」

「さっき知ってるからってすぐ歌えたし余裕でしょ。いくよ」


 宮廻が問答無用でピアノを弾き始めたので、俺は慌てて歌詞を見始める。

 えーっとなになに。

『君は僕の光さ。君のことを考えると僕はいつも眠れなくなる。好きだって言えたらいいのに、言えるはずがないよね。顔を合わせるだけでも恥ずかしいのに。君の隣だと心臓の音がいつもうるさい、もしかしたら聞こえているかな。僕の恋の音』……?

 いやいや、こんなん合唱でやる歌詞じゃねーだろ!なんだよこれ!

 ていうかさ、ゴリ山こんな歌選んだのかよ。キャラじゃね―だろ!何やってるんだよお前!


「寄木、歌って」

「え、この歌詞を?」


 歌いだしを超えても俺の声が聞こえなかったのが不満なのだろう、宮廻が少し怒り気味だ。

 でも、歌えないだろ、こんなの!


「そんな歌詞だっけ?いいから歌ってよ」


 宮廻が更に怒りを込めて言うので、仕方なく俺は口にする。


「好きって言えたらいいのに、言えるはずがないよね……」


 ぐぁーんという音がしてピアノの旋律が止まり、羽鳥も「え?」という顔で俺のことを見つめている。

 宮廻お前なあ、お前が歌えって言ったくせに伴奏やめるなよ!

 俺だってほら、こんな恥ずかしい歌詞歌いたくなかったんだけど?

 ピアノの鍵盤に顔を突っ伏してやがるし。絶対笑ってるだろ、これ。ていうか、さっきのぐぁーん音は宮廻の顔が鍵盤押しつぶした音かよ!いいのか?


「わ、本当にそんな歌詞なんだね……」

「だろ、合唱で歌わせる歌詞じゃないよな」

「うん。……指揮で良かったって思ったかな」


 羽鳥が配布された歌詞カードを見ながら、顔をひきつらせながら言う。

 いや、これはないよなあ。ていうか、安全圏で良かったってことじゃねえか、歌う方の身にもなってくれよ。

 まあ羽鳥も壇上でこれを聞かされるんだから、恥ずかしいのには変わりないからな!

 宮廻はまだ笑っているのか、顔を上げない。時々体が震えるのに呼応して音がするのがちょっとだけ面白い。

 羽鳥はそんな宮廻の様子と歌詞カードを交互に眺めている。

 とりあえずなんか居づらい雰囲気になったので、俺はトイレに行くことにした。

 音楽室を出ると、トイレの中からさっき宮廻が弾いていた旋律が聞こえてくる。恐る恐る近づくと、ゴリ山が小便器に向かいながらブツブツと呟いている。


「横江先生はあの曲の歌詞を見て俺のセンスを感じてドキドキしてくれただろうか……学級新聞を始めたり、生徒に指揮者をさせるリーダーシップを見せて頼れる先輩や学年主任として好感度アップを……」


 ああなるほど、そういう……。なんかお前、張り切ってると思ったよ……。

 もしかしたら動物園でゲンコツを俺に落としたのも、横江先生の前だったからなんじゃねえか?いやまあ、体罰は前世からか……。

 しかし、そんなことであんな歌を合唱曲に決めたのか。ていうか、横江先生もドン引きするんじゃねえの?

 なんかもう体中に疲労感を覚えながら、俺は静かにトイレから後退りして音楽室へ戻っていった……。




いつもお読みいただき、有難うございます。


学校について前世とちょっと違うところは、恋に燃えるゴリ山先生の仕業でした。

これからも色々引っ掻き回してくれると思います。



それと十一話が終わり次第、また閑話をいくつか書こうと思います。

明日あたりに活動報告にて希望を募りますので、良ければお願いします。


次回はまた明日か明後日に投稿します。

ただ、新型コロナの影響で少し職域が変わる可能性があり、これから一月ほど投稿が不安定になる可能性があります。ご了承ください。

いつも応援してくださっているのに、申し訳ないです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ごり山の神アシストにより、あやめの想いに、純恋が気付いた??こと。三つ巴完成まであと少し? [一言] 続きを楽しみにしています!くれぐれもご自愛ください。
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