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11-2. 奏者と指揮者・宮廻あやめ&羽鳥純恋



「あの、教えるってどういう風が良いのか教えてくれると」

「私、音楽に疎いから、一通り教えてくれたら嬉しいかな」

「うん、わかった」


 俺達五年生の教室から六年生の前を通り五階の音楽室に向かう途中、宮廻がちょっと丁寧に話しかけ、羽鳥が軽く返す。


「ていうかさ、指揮って普通先生がやるもんじゃないのか?」


 前世の五年生の時は確かそうだった気がするので、疑問に思ったので聞いてしまう。

 中学からは生徒がやるとか、そういう感じだった気がするけど。


「森山先生が、生徒にやらせてみた方が経験になっていいんじゃないですか、って職員会議で言ったらしいんだよね」

「え、ゴリ山が?」

「うん。それで、今回はお試しってことで生徒に指揮をさせることになった、って聞いたかな」


 あいつ余分なことしかしねえな。学級新聞でも迷惑をかけられていたし、羽鳥も災難だな。


「羽鳥さん、ちなみに誰から聞いたの?」

「音楽の垣内先生から。垣内先生は高学年はまだしもそれより下にやらせるのは無謀って反対だったらしいけど、押し切られたって」

「なるほどね」


 しかしよく聞き出せたな、さすがは優等生の羽鳥である。中高はまだしも、小学生で先生から色々聞き出すのは基本的に至難の業なのに。

 なぜなら小学生ってすぐ誰かに言うしね。なので、小学校教員は生徒の前で絶対に愚痴もこぼしてはならないと、前世の教育学概論の授業で聞いたんだよな。

 いや、中高生相手もダメなんだけど、小学生相手は特に注意しなさいということだった。

 それなのに軽く聞き出せたあたり、先生相手でも信頼が厚いんだなとわかる。

 しかし、なんでゴリ山はそんなやる気なんだ?


「宮廻さん、誰から聞いたかは他の人に言わないでくれたら嬉しいかな」

「おっけー。大丈夫」


 宮廻がいやに真剣な顔と声音で頷く。まあ、こんな話を吹聴したらマズいしなあ。

 職員室の人間関係を崩壊させる火種を蒔くことになっちゃうし。


「宮廻さんはピアノどれくらいやってるの?」

「三歳の時からだから、七年弱……」

「え、三歳からかよ、すげえな」

「……ダメなの?」


 俺が驚きで声を上げると、宮廻はちょっと不貞腐れた顔になって口をとがらす。

 あれ、三歳からピアノって早いと思うけどそうでもないのか?

 ていうか、俺驚いただけじゃん!不貞腐れるの早くないか。

 色々悩み事に対して思うところがあるっぽいのは、前にバレエの話をした時に分かったけどさ。


「いや、そうじゃないけど」

「三歳からって言っても、今は週に一回しかレッスンしてないし上手くないからね!」


 その上、ちょっと睨みながら期待するなと釘を差してくるもんだから、ちょっとだけ納得がいかないものがある。


「ピアノのコンクールとかも出てたりしたのかな?」

「昔は出てたけど……今は全然」

「そうなんだね」


 階段を登りながら羽鳥が宮廻に聞くけど、やっぱりちょっと習い事の話だからか口が重い。


「あ、あたし、ちょっとペン取ってくる。楽譜に書き込みしなきゃいけないかもだし」


 ふと両手を何かを探すようにパタパタさせたあと、宮廻はそう言い残して階段を降りて教室に駆けていった。

 まったく、忙しないやつである。

 俺が苦笑をしていると、羽鳥が俺の顔を覗き込み見ながら口を開いた。


「ねえ、宮廻さんって寄木の前だといつもあんな感じなのかな?」

「え?いつも通りだと思うけど」

「そうなんだ」

「どうしたんだ?」

「いや、うん。なんでもない」

「なんでもなくはないだろ……」


 そういう流され方をされると気になって仕方ないから。

 ちょっと教えてくれよオーラを出してみると、羽鳥がちょっとだけ逡巡した後に口を開いてくれた。


「なんかリラックスしてる感じだと思って。あの、宮廻さんには言っちゃダメだよ」

「わかったけど、そうかあ?」

「まあ、私の勘違いかもしれないけどね」


 苦笑しながら羽鳥が到着した音楽室のドアに駆け寄り引こうとしたけど、動かない。


「あ、開いてない。垣内先生、鍵を開けてくれてるって言ってたけど……じゃあ私、職員室に行って鍵を貰ってくるね」


 羽鳥も職員室に戻り、俺一人が取り残された。

 宮廻がリラックスか。いや、俺だけじゃなくて樫崎とか暁斗と一緒の時もそうだと思うんだけどな。

 まあなんでもいいや。

 そんな感じでぼーっとしていると、しばらくして階段から足音が聞こえてくる。足音でどっちかはわかる、宮廻だ。途中で一段とばしで登ってたからな。

 

「あれ、羽鳥さんは?」

「鍵取りに行った」

「そう」

「うん」

「ねえ寄木、羽鳥さんと結構仲良いんだね」

「え、まあそうかもな。前からちょこちょこ話してたしな」


 仲が良いのを否定しようとは思わないけど、家で飯を食っていることがバレるのは困るので曖昧な返答になってしまった。


「そっか」

「何でそう思ったんだ?」

「さっきの職員会議とか垣内先生の話で」

「え、それで?」

「そうだけど」


 それから宮廻は羽鳥が鍵を職員室から持って帰るまで、なにか考えるような表情になり口を開かなかった。

 いやはや、珍しいこともあるものである。





いつもお読みいただき、有難うございます。


ちょっと微妙な距離感な人間関係はこの作品を書いてて初めてなので、書いてて気分転換みたいで楽しいですね。

気分転換でいえば、最近この作品の息抜きで五万字程度予定の貴族令嬢物を書いています。

ある程度完成したらアップするので、是非お読みください。



次回はまた明日か明後日に投稿します。

ただ、新型コロナの影響で少し職域が変わる可能性があり、これから一月ほど投稿が不安定になる可能性があります。ご了承ください。


いつも応援してくださっているのに、申し訳ないです。



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― 新着の感想 ―
[一言] おや、宮廻ちゃんと羽鳥ちゃんの様子が・・・。 合奏とは懐かしい。音楽会はうちは指揮者どうだったか・・・自分ピアノ担当したばっかりに地獄の練習が幕を開けたのを覚えてます。ちょっと触った事ある程…
[一言] 女子はさすがに鋭いですね 主人公が鈍感なだけかもしれないけど
[良い点] あやめと純恋が、お互いがライバルであることに気付きつつある??純恋の内心は不明ですが。この恋かそれ未満の好意なのか、微妙な段階が微笑ましいです。
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