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閑話4(後). 母の日に手料理を・羽鳥純恋

 

「お邪魔します」


 金曜日の夕方、一緒に買物に行った帰り。

 荷物で塞がってない方の手で家の鍵を開けると、羽鳥がドアを開いてくれた。礼を言いながら俺はドアをくぐる。


「ありがとうな。まあ、母さんは出かけてるから、俺しかいないんだけど」

「それでも挨拶は大事じゃないかな」


 買い出しをルジュールとスーパーで済ませた俺達は、さっさと手を洗って料理に取り掛かる。

 授業が終わって服を着替えてから買い物へ赴いたので、時間があまりないのだ。煮込みものを作る予定なので、ササッと色々やっていきたいところである。

 ちなみに、買い物にかかったお金は五千円ほどで、現金部分の二千円は俺が払った。羽鳥が現金も出そうとしたけど、流石に商品券で半額以上を払ってもらっているのにそれ以上はもらえないと押し切った。

 母さんは俺と羽鳥が母の日の料理を作ると言ったところ、それなら料理の時間に来週に予定していた出版社との話を終わらせてきたい、とのことで外出中だ。

 しかし、小学五年生の十一歳と十歳の二人に台所を任せて出かけるというのは、世間の人に聞かれたら怒られそうな気がする。いや、この時代ならうるさく言われないか。というか、遡行前でも普通によくあることなのかもしれない。世事に疎いから、全くわからん。


 まあ俺と羽鳥の普段の料理の手際とか色々なものを見て大丈夫だと思って、母さんも見張らずに任せてくれたのだろう。その信頼に応えたい。

 プレゼントを用意するところを見るのは、って発想なのかもしれない。何を作るか、言ってなかったしね。とにかく俺としては家にいて時々様子を見に来るものだと予想していたから、ちょっと驚いたな。

 さておき、羽鳥が昨日図書館でコピーしてきた料理本のメニューを広げている間に、俺は米を研いでいく。

 ちなみに米とかの元々家にあるものは遠慮なく使っている。流石にそこまで全部買うとなるとちょっと厳しいし。

 お互い授業で作ったばかりのエプロン姿なのが、いやに子供らしさを強調してきてちょっとだけシュールだったりする。


 今日のメニューはローストビーフとサラダの付け合せ、バターライス、ビーフストロガノフ。それに、キッシュだ。

 ローストビーフとバターライスは羽鳥の希望である。前に羽鳥のお母さんと外食したときに食べたのが忘れられず、自分で作れるならチャレンジしたいとのことだった。

 そんな理由を聞かされてしまうと、大学近くの洋食屋で一番好きなメニューだったという理由でビーフストロガノフを選んだ俺が、情けないというか恥ずかしいのだけれども、羽鳥が言うよりも前に口にしてしまったので許してほしい。ちなみに大学近くで一番好きな料理は、地下のこじんまりとしたインドカレー屋だ。チーズナン、美味いよね。

 しかし、やっぱり羽鳥の後に言えば良かったな。もうちょっとなにか考えられた気がするし、羽鳥が若干ビーフかぶりを気にしてたような感じだったし。まあ、もう引き返せないから一生懸命に作るだけだが。


 キッシュはもう一品あればと思いながら二人でレシピ本を見ているときに、どちらともなくこれが良いとなって選んだんだよね。

 しかし、決めてから材料やメニューを見てみると、意外に大変な料理でびっくりする。生クリームとか要るんだな。まあルジュールで丁度いい量の生クリームとタルト生地が売っていたから良かったけど。

 時々行くバーのキッシュが好きでよく頼んでいたけれど、けっこう作るのに手間をかけてたんだなと今更ながら思う。ちなみに具材のメインはほうれん草だ。


「羽鳥、えっと」

「これかな」


 キッシュ用の生クリームはどこか聞こうとしたら、返事より先に手渡された。


「ありがと」

「寄木、悪いんだ……」

「ほいさ」

「よく分かったね」


 どうやらキッチンペーパーを欲しがっているぽかったので手渡すと、羽鳥がちょっとだけ驚きを声ににじませる。


「さっき羽鳥だって、何も言わずに生クリームくれたじゃん」

「あ。そうだね」

「何その顔」


 羽鳥が一瞬ぽかんとした顔になったので、ちょっと笑ってしまった。

 自分だって同じことをしたのに自覚がないとは面白い。

 そんな感じで、俺達は母の日の料理の準備を着々と進めていったのであった。



 *****



「ごちそうさま!本当に美味しかったわ!二人ともありがとうね」

「それはよかった」

「喜んでもらえて嬉しいです」


 母さんが満足してくれたようで何よりだった。

 お世辞じゃないのは食べている時の表情もだけども、いつもそこまで大食いというわけではないのに、バターライスとビーフストロガノフをおかわりして、その上ローストビーフもバグバク口にしていたから間違いない、と思う。

 というか、自分で食べても旨かったからな。

 明日分にもなるように多めに作っておいたのに、羽鳥も俺も腹いっぱい食べてしまって全部無くなってしまった。

 いやはや、先に羽鳥家に持って帰る分を取り分けておいてよかったぜ。

 料理本の通りに素直に作ったのと、けっこうお金をかけて良い肉を買ったのが勝因だった気がする。

 インターネットでレシピをいくつも調べて自分好みの物を選び作るのも面白かったけど、本に書いてあるただ一つのレシピを信じて作るのも面白いもんだな。


 食後には母さんが買ってきてくれたデザートのムースを食べて、そして片付けへと移る。

 料理を作ってくれたんだから後片付けはする、と母さんは言ってくれたけど母の日の晩ご飯くらいは最後まで上げ膳でいてくれと言って風呂に入ってもらった。

 器にこびり付いたキッシュの焦げ目と戦いながら一生懸命スポンジで洗っていると、羽鳥がひっそり呟いた。


「なんか、いいな」

「んん、何が?」

「あ、一人言だったから気にしないでいいよ」

「そっか」


 追求するのも違うと思ったので、俺は無言に戻って鍋に残ったビーフストロガノフの鍋を次の標的に定める。


「こうやって、一緒にご飯を作って一緒に食べてが、かな。結局言っちゃったね」


 羽鳥が語尾に恥ずかしさを滲ませながらもう一度呟いてくる。

 なるほどな、と思う。羽鳥のお母さんは一生懸命ずっと働いて羽鳥を女手一つで育てているようだし、ルジュールで弁当やパンを買い込む頻度からして、家で一緒に料理を作って食べるってことはないだろうから。


「羽鳥の料理、喜んでくれると思うよ。旨かったしさ」


 とりあえず思ったことをそのまま口にしたら、ちょっと会話が噛み合ってない返答になってしまう。


「ありがとう、寄木」


 それでも、羽鳥は俺の発言に笑ってくれた。

 羽鳥がお母さんと一緒に料理を作る日があればいいな。近ければいいな。

 そう思いながら、俺はガンコな油を落とそうと必死にバターライスの皿を擦るのであった。





いつもお読みいただき、有難うございます。


閑話ですので短めに。

今回の話についてはツイッターで少し解説というか色々書こうと思うので、興味がある方は見てもらえればと思います。

https://twitter.com/totokuzirabeでやっています。フォローも待ってます!

十一話は宮廻と羽鳥が寄木家に来襲する話です。お楽しみに。


次回はまた明日か明後日に投稿します。

ただ、新型コロナの影響で少し職域が変わる可能性があり、これから一月ほど投稿が不安定になる可能性があります。ご了承ください。

いつも応援してくださっているのに、申し訳ないです。



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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公のオカンが羽鳥推しに成りそうだよね。
[良い点] この閑話は純恋スキーにはたまらない話でした 十一話も期待してます [一言] 純恋かわいい
[良い点] 同棲カップルのような息の合った共同作業、連携プレーで、ほっこりしました。実は純恋が一番相性が良かったり?
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