閑話4(前). 母の日に手料理を・羽鳥純恋
閑話ですが二話構成の予定です。
遊園地と学級新聞の間の話になります。
宮廻と遊園地に行って一週間ちょっと。俺の誕生日から数日後。
「羽鳥。ウチに来るの、明日と明後日どっちがいい?」
俺は羽鳥を人気のない五階の廊下に呼び出して、次に来訪する日を尋ねていた。
前にも言ったが、羽鳥が時々ウチで一緒に飯を食っているのを知られると色々面倒くさいのが予想されるので、俺たちだけの秘密にしている。
そのためにこうやってコソコソ密会しなけれればならないのだが、ちょっとだけ面倒くさい。
逆行前の時代だとスマホにメッセージを送るだけで済むのにな。テクノロジーの進歩のありがたみと、それが今存在しない不便さを感じる。
ちなみに今回は土肥と宮廻が二人でお手洗いに行ったタイミングで、羽鳥に目配せをして付いてきてもらった。
そう、最近土肥は俺の事を連れションに誘わなくなったのだ。基本的には宮廻、時たま樫崎と一緒にトイレに行くようになってくれたので、俺は本当に嬉しい。
何度も言うけど、女子と男子で一緒にトイレって本当に奇異の目で見られるからね。よかったよかった。
ただほんのちょっとだけ、何故か寂しさを感じたりもするけども。
「明後日の金曜日でいいかな?」
「わかった」
羽鳥は即座に返答をして、そして頬に人差し指を当て何故かちょっとだけ考え込むような表情になる。
あれか、どっちとも都合があまり良くないのかな。二択の選択肢として聞かれたから答えたけど、出来れば別の日がいいとか。
母さんの仕事の都合上いつ招けるか分かるのが遅くて、申し訳ないけど羽鳥に確認するのは直前になっちゃうんだよね。母さんが打ち合わせの日とかは、ちょっと夕飯が遅くなったりするし。
他の日がいいなら言ってくれたら、と口を開こうとした瞬間に羽鳥が先に言葉を発した。
「ねえ、寄木って母の日に何をあげるつもり?」
「え、母の日?」
俺の間の抜けた返答に、羽鳥は少し渋い顔になって俺の顔を見つめる。
「今週の日曜日だよ?」
「あ、そうだっけ……」
いやはや、世事に疎くて申し訳ない。
確かに一度大人になった後で親の有り難みを感じているのに、何かしないとなあ……。
「じゃあ今一緒に考えようよ!ちなみに、去年は何かしたのかな」
俺が沈んだ顔をしていたのか、羽鳥がことさら元気そうに問うてくる。
ちょっと困った。
去年と言われても、中身のアラサー男な俺からしたら二十年以上前の話だからな……。何をあげたとか覚えてないぞ。
というか、母の日の存在を忘れていたのもそのせいだよな。
だって社会人になったら母の日とか思い出す機会とかないもんな、いやまあ子供ができて貰う側として意識する奴も同世代にはいるんだろうけどさ……やめよう、この話は……。
とにかく、小学校の時は何かしらのプレゼントを渡していた気がする。えっと何だったっけな……。あ、そうだ。
「確か、口紅をあげた気がする」
「なるほどね……。ねえ、寄木……」
「うん」
羽鳥がモジモジとした様子で何かを言いあぐねる。
いつもハキハキしているのに珍しい。
「前にママに手料理を作りたいって言ったの覚えてる?」
「初めてウチに来た日だよな」
二人でオリオン座を眺めたあの夜だよな。そりゃ覚えてるよ。
あれから一ヶ月ちょっと経って、最近はオリオン座も出ている時間がとても短くなった。羽鳥によるとそろそろ夏の星座と交代して見えなくなるらしい。
「うん。でね、母の日のプレゼントを手料理にしようかなと思ってて」
「お、そりゃいいな」
「それで、私のママだけじゃなくて、寄木のママにもお礼がしたいから……。いつもお世話になってるからね。日曜日より早くなっちゃうけれど、金曜日に寄木の家で寄木と二人で母の日の料理を作れたら嬉しいんだけれど、ダメかな?」
「ええと、俺ん家で俺と一緒に作るってことだろ。俺はいいけど……羽鳥のお母さんはどうするの?ウチに来て貰うの?」
「うん、それなんだよね。ママは金曜は忙しくて早く家を出ちゃうんだ。だから、料理を冷めても美味しいものにして、家に持って帰ろうって思ってるかな。一応、寄木の家で作ったのを隠すために、金曜日の家庭科の調理実習で作ったってことにするつもり」
なかなか用意周到に考えているものだな。感心してしまう。さっきの悩ましい様子はこれを考えていたのだろうか。
「なるほどね」
「いつものお礼だから、材料費は私が出すね」
「え、俺の母の日でもあるんだから、俺も出さなきゃダメでしょ。ていうか、材料費って四人分だと結構かかると思うけど、大丈夫?」
「あ、そうだね。じゃあ寄木も少し出してくれたら。お金はね、ルジュールのくじ引きで三千円分の商品券をこの間貰ったんだ」
「おお」
いやはや、また当たったのか。凄いな。
俺はくじ引きで良いものが当たったことが無いから、この短時間で二度も当てている羽鳥が素直に羨ましい。
まあ羽鳥がよく利用して、引く機会が多いのもあるんだろうけどさ。
「じゃあ、今日母さんにその旨を伝えておくよ。料理は何にするつもり?」
「うん。お願いします。いくつか考えはあるけど、まだ決められてないかな。寄木も金曜日までに考えてきてくれたら嬉しいな」
「わかった」
「じゃあ先に戻るね」
二人同時に戻ると何か勘ぐられるかもしれないので、羽鳥が先に帰っていく。
それより遅れること数分、チャイムが鳴り始めると同時に俺は教室に戻った。
いつもお読みいただき、有難うございます。
お家で料理の閑話です。
閑話は今まで一纏めにしていましたが、体調と文字数の問題で途中までで切る形で投稿させてもらいました。
不格好で申し訳ないです。(体調は明日には治っていると思いますのでご心配なく)
次回はまた明日か明後日に投稿します。
ただ、新型コロナの影響で少し職域が変わる可能性があり、これから一月ほど投稿が不安定になる可能性があります。ご了承ください。
いつも応援してくださっているのに、申し訳ないです。




