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9-3. 学級新聞を作ろう・羽鳥純恋&土肥玲花

 


「んじゃあ、まずとりあえず名前から決めようぜ。ゴリ山から指定とかされてる?」

「ううん。されてないかな」

「じゃあさっさと決めようぜ。土肥、なんか案ある?」

「えと、私?うんと、ごのいち新聞とか……」


 いきなり話を振られてあたふたした感じの土肥が、自信なさげに答えてくる。

 そりゃお前、副委員長なんだから案も聞くだろ……。

 俺は助っ人なので、出来るだけ司会役に徹して二人の案を取りまとめる役でいようと思ってるしな。


「うん。基本通りって感じのわかりやすさがある。シンプルでいいな」

「あ、よかった……」


 俺が感想を漏らすと、土肥が嬉しそうに笑った。


「羽鳥は?」

「51タイムズとか考えてたかな」

「おお、英語か。雰囲気があってオシャレでいいな」

「ふふっ。ありがと寄木……昨日、英語の辞書で調べたんだ。で、寄木の案は?」


 羽鳥が俺に振ってくるけど、俺助っ人だしなあ。


「え、俺?クラス委員の二人で決めなよ。どっちもいい案だと思うし」


 ぶっちゃけ学級新聞相手にそんな名前にこだわる必要もないだろうし、というのは心のなかに秘めておく。


「えと、じゃあ羽鳥さんの案でいいと思う。なんか英語ってカッコいいから……。」

「本当?ありがとう。じゃあ土肥さん、そうさせてもらうね」


 羽鳥が嬉しそうに、メモ帳に『名前:51タイムズ』と書いていく。


「あの、前から思ってたんだけど、羽鳥さんの持ち物って大人っぽいよね」


 羽鳥が手にしているのは、文房具屋の子供向けじゃない文具コーナーにありそうなシンプルな見た目のメモ帳だった。

 書き込んでいるのも、製図用みたいなシュっとしたシャーペンで、鉛筆は一旦転がされている。

 確かに言われてみると、小学生が使っていなさそうなやつである。

 あ、そういえばメモ帳とシャーペン両方ともこれ、ルジュールに売ってるやつだな。どこかで見覚えがあると思ったんだよ。

 しかし、最近は羽鳥を送る時に寄ることが常態化したので、かなり店内のものに詳しくなった気がする。


「そうかな。私は土肥さんの文房具もかわいくていいと思うよ」

「えと、そう?」


 土肥が手にしているシャーペンはノックする部分が熊の頭になっているやつで、筒部分にもカラフルな絵がついている。


「あれ、その熊ってギャングのやつ?」


 イラストに描かれている銃を持つ熊の姿に見覚えがあった。

 前にファンシーショップのストロベリー・ストロベリーで見たキャラじゃないか?


「うん、ギャンぐま太郎くんだよ。寄木くん、覚えてくれてたんだ」


 土肥が嬉しそうな顔になって、熊の頭を撫でる。


「そりゃな」


 あれだけインパクトのあるキャラを忘れられるはずがない。

 子供向けの癖に、マフィアとかギャングが出てくるって何だよって思ったしな。


「ギャンぐま太郎?」

「うん」


 羽鳥が怪訝そうな顔で土肥のシャーペンを眺めている。

 いや、そういう反応になるよな。

 なんなんだこれは、という顔になった羽鳥に土肥が説明を始める。


「えとね、ギャンぐま太郎くんはギャングの親分のくまさんで、ライバルにマフィあるぱか郎くんがいるんだよ。二人は子供の頃からライバルで、お互いの組織を潰そうと争ってるの」

「そうなんだ?」


 羽鳥がふんふんと頷く。なんか、未知なるものへの好奇心が刺激されてるっぽい。

 うーん、もしかしたら宇宙食と同じようなジャンルに捉えているのかな。

 なんたって、科学博物館でプレートテクトニクスの展示を見てた時と同じような表情だからな。

 ちなみに宇宙飛行士の映像を見ているときは、なんかもうテンションが高くて目が爛々としていた。


「えと、この消しゴムにあるぱか郎くんが……」


 そう言って土肥はデニム地のペンケースから、アルパカがブランデーグラスを傾けている消しゴムを取り出してくる。

 しかし、今気づいたけど土肥のペンケースの中身、多いな。


「土肥のペンケース、めっちゃ文房具入ってるな」

「えっと、そうかな?」

「そうだろ」

「羽鳥さんもそう思う?」

「うん。私も多めだとは思うかな」


 土肥が助けを求めるように羽鳥に目配せをするけど、救援の手は差し伸べられなかった。

 いやだってさ、ペンが二十本近く入ってるんだぜ?

 まあこれは俺のせいかもしれない。

 俺や暁斗と定規バトルをするようになってから、土肥はアルミ缶のペンケースからデニム地の大きいやつに変えてきたんだよ。

 んで大きくなったペンケースに定規を何個も用意して、暁斗に勝てるように色々試行錯誤しているんだよね。

 暁斗の方も土肥に一度負けてからは定規を幾つか買い足してきて、試合前に二人共がどの文房具を使うか悩むのがお約束みたいになってきている。

 ちょっと前までは土肥が開発した分度器×二個作戦が強かったんだけど、それに対して暁斗が新たに買ってきた大きめの長定規で全部を一気に吹っ飛ばす作戦を編み出して、最近はその大きな長定規×二個が主流になってきた感じがある。

 軍拡競争かよ。


「土肥、これは何のキャラ?」


 ペンケースから覗いていたペンの、スライムと猫か犬かを合体させたようなキャラクターが気になって聞いてしまった。


「えっと、少女漫画のマスコットキャラで……」

「あ、それはかわいいね」


 羽鳥も覗き込んできて、『それは』の『は』というところに、さっきのギャングとマフィアへの評価が伺えて、ちょっと笑ってしまう。


「あっ。そういえば、新聞……」


 土肥が突然素っ頓狂な声を上げて、真っ白な紙を指差した。

 そういえば、学級新聞を作るためにここにいるんだった。完全に忘れてしまってたな。

 土肥が出していた文房具をペンケースにあたふたと戻していく。 

 さっき決めた新聞の名前くらいしか決まってないじゃん。小学校の放課後は短いから、早くやらなきゃいけないのにやっちまったぜ。

 俺達は姿勢を正して、真剣に机に向かいはじめた。




いつもお読みいただき、有難うございます。


持ち物の話をしたいなと思って書きました。


九話は次回か次次回で終わりです。

十話は土肥の家に宮廻と寄木が行く話です。




次回はまた明日か明後日に投稿します。

ただ、新型コロナの影響で少し職域が変わる可能性があり、これから一月ほど投稿が不安定になる可能性があります。ご了承ください。

いつも応援してくださっているのに、申し訳ないです。


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