8-6. 追っかけて、遊園地・宮廻あやめ
ちょっと試しにタイトルを変えてしまいました。ギョッとしたならごめんなさい。
お試しなので戻すかもしれません。
「よ、よう暁斗、かし……いっ」
「偶然だね」
露骨に何か隠してますってふうな返事をしてしまった俺の尻を抓りながら、宮廻が純粋無垢って感じの笑顔を作って応対する。
「いやあホント偶然だなあ」
「あやめ、寄木……」
暁斗はニコニコしてめちゃくちゃ嬉しそうだけど、樫崎の方は完全にもう意気消沈でそのギャップに笑えてくる。いや、笑ったら多分樫崎にシバかれるけど。
でも俺達を恨まないでくれよ。宮廻に見回りを頼んだのはお前だしな。俺は同伴者というか、着いてきただけだけどさ。
「あ、えっと、じゃ、ウチらはこれで……」
「せっかく会えたんだし、四人で回らね?」
「じゃ、そうしよっか。寄木もそれでいい?」
「ああ、うん」
樫崎がなんとか二対二を維持しようとしたけど、暁斗が提案してきたことですべてが終わった。
宮廻も観念したのかめちゃくちゃ爽やかに俺に振ってきて、反射的に俺も頷いてしまう。
「よっし、じゃあ四人でコーヒーカップ乗ろうぜ?な、樫崎」
「あ、うん。おっけー」
暁斗の提案に、樫崎が力なく頷いた。
*****
それから俺達は遊園地をめちゃくちゃ遊び倒した。
コーヒーカップでは四人がかりでさっき以上に回し続けたから、マジでヤバいくらいに回転速度が出て、カップごとどっかにぶっ飛んでしまうかと思った。
ジェットコースターはやっぱり暁斗が乗れなかったのでパスして、メリーゴーランドでは誰が一番突飛な乗り方が出来るかって勝負をして盛り上がった。
俺と暁斗は周囲の目もありさっさと普通に乗る方向性にシフトしたけれど、宮廻と樫崎が二人でヒートアップして危険な体勢のチキンレースを始め、結局係員のお兄さんに注意されてしまっていた。俺と暁斗は、メリーゴーランドから降りるまで、出来るだけあいつらとは知り合いじゃないフリをしていた。
だって、メリーゴーランドの馬の上で逆立ちを始めようとしてる奴と、友達と思われると恥ずかしいし……。
いやしかし、樫崎と宮廻はこのままだと十年後にSNSとかでバカやって通報されたり炎上するんじゃね?ちょっとだけ自分の友人の将来が心配になる。いやまあ、小学生ってこんなもんか……こんなもんだよな……?
お化け屋敷では樫崎がめっちゃビビりで、なにか物音がするごとに近くにいるやつに抱きつくから、オバケよりそっちの方が数倍怖かった。
でーん!という効果音がしただけで俺に飛び付きやがって、マジでずっこけかけたからな、俺!
ゴーカート乗り場ではお互いにカートをぶつけ合い、暁斗も乗れた海賊船では大声ではしゃぎまわった。
そしてコーヒーカップにもう一度戻ってきたんだけど、三回目ともなると顔が知られ始めたのか、俺達が乗ろうとしただけで「おおっ」という声すら上がって面白かった。
俺達にライバル心を持ったのか、中学生くらいの男子三人組が必死にハンドルを回して張り合ってきたのもなんか熱かった。
結局彼らはビビったのか酔ったのか、途中で回す手を止めていたけどね。一方で、俺達は最後まで緩めることなく加速し続けた。
俺達の回転数が上がるごとに観衆からの歓声のボルテージが上昇していって、それに応えたって部分もあると思うんだよな。最終的に、今日イチの速度が出せたと思う。
大満足のコーヒーカップを終えて、ワイワイしながら降りたタイミングでは観衆に拍手すらされてしまった。いやはや俺達、試合を終えたプロスポーツ選手か何かかよ。
その拍手に俺と暁斗はちょっと恥ずかしそうな顔になってたけど、樫崎と宮廻は堂々と手を振って愛想を振りまいてた。いやはや、凄いな。
て感じで遊園地を満喫してた俺達だけど、さすがに疲れた。マジで本気で回し続けたからな、ハンドル。これがアラサーなら、明日には筋肉痛で動けねえぞ。
というわけで、俺達はちょうど通りかかった屋台ゾーンで、クレープ休憩を挟むことにした。ちなみに俺は王道のキャラメルチョコバナナである。
「いや、楽しいな暁斗」
ベンチに深く座ってキャラメルチョコバナナを一口齧った俺は、横に腰掛けたフルーツのクレープを頬張ったせいで口元に生クリームがべったりの、ちょっと間抜け面な暁斗に話しかける。
樫崎と宮廻はクレープだけじゃなくてアイスも食べるとのことで、どこぞへと駆けていってまだ戻っていない。
「だな……やっぱ四人で遊ぶのは楽しいよ」
「ん?」
なんとなく暁斗の声色に重みを感じて、俺はもたれていた背中をベンチから離して真剣に暁斗を見つめる。
ていうか、真面目な顔をしているくせに、口の周りがクリームだらけなのは雰囲気が損なわれるからやめてほしい。
俺が口元を指し示すと、暁斗はちょっとだけ恥ずかしげに舌でぺろりと舐めて拭う。
そして、一瞬目をつむってから俺の目をじっと見つめて、そしてポツポツと話し始める。
「樫崎との二人きりも楽しいけどさ、今は四人で遊んでいたいんだよ、俺」
「暁斗、気付いてたのか」
「まあね……」
暁斗は頷く。俺としては感じられなかった樫崎の好意も、向けられている相手としてはわかることがあったのか。
ていうか俺も多分、誰かから自分に好意を向けられたら気付くだろうしなあ。
そして、端から見ると分かるのは宮廻みたいなカンの鋭い奴で、俺みたいな普通のやつは周りから見てもわからないのが普通な気がする。
しかし、話の内容が小学校にして青春って感じで、なんとなく甘酸っぱい気分になってきた。
「……じゃあ樫崎に告られても、断るの?」
言葉にしてみると、なぜか俺の心臓がめちゃくちゃ締め付けられて痛い。
人生で初めての友人との恋バナで緊張しているのも理由の一つだろうし、暁斗に告白をして断られた樫崎の事を考えたのも理由にあるだろう。樫崎、泣いたりするのかな……。あのバカっぽい樫崎が顔を歪めているのを想像すると、更に胸が痛くなった。
「……小学校卒業するまでは誰とも付き合う気がないから待って、って言おうかなって」
「なるほど」
「樫崎の好意を受け流すようで悪い気がするけどさ」
「まあそれは、なんというか……仕方ないとは思うぜ」
そりゃ付き合うならお互いに好意がないと、だしなあ。でも、ちょっとやっぱり樫崎のことを思うと、胸の痛みが収まらない。
「多分中学になったら、俺達一緒に遊べないじゃん。悟は受験勉強するんだろ?で、みやま……」
「え、俺受験するって話、暁斗にしてたっけ?」
前世では五年生になってから受験をしようと思い立ったはずだけど、あれ?
「うん、年末くらいに言ってたぜ」
俺の記憶違いか。そんな前に言ってたんだな。しかしそうかあ、受験か……。
前世では中高一貫校に行って楽しかったけど、今は色々迷うことがあって実は受験をするか決めかねているところがあるんだよな。
これも早晩、悩んで決断しなければいけないんだろうけど……ってそんな事より暁斗の話だ。
「ごめん、話の腰を折っちまった。で、えっと」
「ああ。大丈夫だぜ。中学に入ったら俺達も自由に遊べないと思うからさ、だから小学校卒業までは遊べるときは四人で遊んでいたいって思うんだよ。だから、もし告白されたらそう伝えるつもり。樫崎の気持ちは嬉しいけど、ちょっと待ってくれ、って」
「なるほどな。……あれ、てことは、樫崎のことは嫌いじゃないのな?」
真剣そのものの顔で言うので、俺も神妙な顔で頷くしか出来ない。今の話しぶりと、嬉しいってことは……。
俺の疑問に、暁斗がなんとなく淡く感じる笑顔で返事をする。
「まあね。樫崎と付き合ったら、楽しいと思うし。可愛いとも思うぜ。だから、樫崎には待ってもらって、んで卒業の時に俺から告白しようかなって……」
「そっか」
へ。暁斗って樫崎のこと、そんなふうに思ってたんだ。なんか意外で、あっさりとした言葉しか返せなかった。
ただ、さっきまでの樫崎の泣き顔を想像してから胸に残っていた圧迫感が急に消えた。
完全な拒絶じゃなくて、卒業までと言うなら泣くことはない、と思う。まあ、あいつ、バカだからどう受け取るかわからないけど。
宮廻はこのことも知っているんだろうか。ふと思う。
「ま、俺が言いたいのはさ、卒業まで一緒に楽しもうぜってこと。よろしくな悟」
「おうよ」
「じゃあ、ほれ」
複雑な感情を滲ませた笑顔をしつつ、暁斗はハイタッチを要求してくる。
お互いに腕を振りかぶって、手を叩き合う。ぱあん、という音が乾いた青空によく響いた。暁斗がけっこう勢いをつけていたので、前に樫崎とやった時ほどじゃないけど、わりと痛い。
「いっ!」
俺が痛みに我慢しきれずに声を漏らすと、ちょっとだけ口元にクリームが残ったせいで締まらない顔で暁斗はニヤリと笑った。
いつもお読みいただき、有難うございます。
次回で8話は終わりです。
8話はちょっと長めの7回構成になりましたが、お許しください。
感想などを頂けますと、嬉しく存じます。
次回はまた明日か明後日に投稿します。
申し訳ないのですが、その次の投稿はFGOの新章次第で一日程度遅れるかもしれません。これまたお許しください。




