表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/69

8-3. 追っかけて、遊園地・宮廻あやめ


「え、二人は付き合ってるってこと?」


 俺の疑問に、宮廻は首を横に振る。ふるふるとツインテールが揺れて面白い。


「ううん、違うけど」


 違うのかよ!


「じゃ、じゃあどういうことなんだよ」


 自分の声が露骨に動揺しているのがわかる。中身が三十路おじさんだというのに、こんな感じになってしまって恥ずかしいことこの上ない。

 でも、デートってことは付き合ってるんじゃないのかよ。


「もう見られちゃったから言うけど、姫乃は暁斗のことが好きで、友達からステップアップするために遊園地に誘ったの。他の奴には言わないでよ」

「そ、そうなのか……ステップアップ……」


 なんかもう、言葉をおうむ返しをするしか出来なかった。

 友達から……ステップアップ?

 それをデートって呼ぶのか。確かに、前世でも付き合ってはないけどちょっと良い仲って感じの男女二人のお出かけをデートって呼んだような気もする。


 俺には縁遠くてあんまり詳しくなかったけど、そういう使い方は確かに言われてみるとあったはずだ。

 そっか、そういうのもデートっていうのか。

 でも小学生がそんな発想をするんだ、まじかよ。は、早くないか?

 ていうかそもそも樫崎のやつ、暁斗のこと好きだったのかよ。全然そんなそぶりなんて無かったのに。


「寄木はその顔だと、やっぱり気付いてなかったんだ」

「そりゃそうだよ」

「てか、なんで宮廻は知ってるんだよ」

「四年生の三学期くらいから、姫乃の様子的にそうなんじゃないかなと思ってて。で、ウチに姫乃が遊びに来た時に聞いたら、やっぱりそうだったから。それ以来色々と相談に乗ってる」

「……なるほど」


 え、そんな様子あったか?

 よく気付いたな、宮廻のやつ……。得意げな顔でもしてるかな、と思ったけどそういう雰囲気はあんまりなかった。

 樫崎なんて、ずーっとアホみたいなことしてるだけにしか見えなかったけどなあ。


 まあ、俺が逆行したのがその様子が変化した後だったから、気付けなかったのも仕方ないような気もする。

 前世の俺が全く気づかなかった、ということについては棚に置いとくとして。


「寄木ってそういう恋愛のあれこれに疎いもんね」

「いや、そうか?」

「そう思うけど」


 いやに自信満々に言い切られたので、俺としては頷くしかできない。

 まあ、樫崎が暁斗を好きなことに気付いてなかった以上、言われても仕方ないのかもしれない。


「あたし寄木に謝らなきゃいけないことがあるんだよね。ごめん」

「え?」


 宮廻がいきなり頭を下げてきた。突然のことで動揺してしまう。何について謝っているかすらわからないし。どうしたどうした。


「寄木さ、最近あんまり姫乃と暁斗が遊んでないなって言ってたじゃん。あれ、姫乃と暁斗が二人で遊んでたからでさ、でもあたし、そのこと黙ってた」

「あ、そうだったのか」

「姫乃のお願いだったけどさ、寄木を騙してるみたいなのが嫌で、姫乃にも今日のデートが終わったら寄木にも事情伝えるよって言ったんだけど……。でもごめん」

「ああ……なるほどな」


 最近四人揃って遊ぶ機会があまりないと思ったら、そういうことだったのか。

 昨日の「寄木のことが嫌いなわけじゃないから」の意味がわかって一安心するけど、それ以上に驚きが大きかった。

 宮廻によると、修了式の時に俺と宮廻の二人で秘密基地へ行ったのも、昨日隣町の公園に足を運んだのも、暁斗と樫崎の二人が遊んでいる所に出くわさないように場所を選んだかららしい。


 確かに隣町と閉鎖された繊維工場なら、バッタリと出会って「四人で遊ぼうぜ」となる可能性は少ないだろう。行き先を樫崎に伝えていればあちらも避けるしな。

 しかし、どちらとも大人数で遊ぶ時用の場所なのに、二人で行くのは何故だろうとか思っていたけどようやく氷解した心地である。


「だから、ごめん」


 もう一度宮廻が呟いた。

 さっきから宮廻はずっと頭を下げっぱなしで、ツインテールを作るために綺麗に分けられた頭頂部だけしか見れない。

 なんか、それがちょっと心苦しかった。


「俺は宮廻と二人で遊んでて楽しかったからいいよ。宮廻も俺と遊んで楽しかっただろ」

「そりゃね。ありがとね、寄木」


 ちょっとだけ照れた顔になった宮廻が鼻の下を人差し指で一擦りする。少年じみたその動作が異様に似合っていて、ちょっとかっこいいなと思った。

 しかし、実際宮廻と遊ぶのは楽しいから、別にいいと思った。宮廻も悪意があって騙してたとか嘘をついていたわけじゃないしな。

 樫崎だって、あいつバカだから暁斗と二人きりで距離を詰めたくてやったんだろうし。

 しかし、二人がデートなのはわかった。だが……。


「あれ?なんで、宮廻は樫崎と暁斗を追いかけるような真似をしてるんだ?」


 今気付いたけど、宮廻は会話をしながらも並んで歩く二人を一定距離を取りつつ追いかけているのだ。

 ご丁寧に角を曲がるときは、角の先で二人が止まっていないかを警戒して、顔だけ出して確認する念の入れようである。

 多分二人の行き先は駅だろう。ここらへんから遊園地に向かうなら駅から電車に乗るしか無いので、間違いなくそうなはずだ。


「姫乃に不安だから見守って欲しいって言われてるのよね」


 ちょっとだけ疲れを滲ませながら宮廻が言う。

 なるほど、見届人として頼まれたと。


「あいつ、なんか普段は強気で能天気なのに、急に弱気になるとこあるよな」

「まね。そういうところ、かわいいと思うけどね」


 ふっと鼻から息を吐きながら宮廻が笑う。

 宮廻から樫崎のことが好きっていう感じが伝わってきて、なんともほんわりとした気持ちになる。


「ついでだし、寄木も一緒に行く?遊園地」

「ん?」

「だって、あたし一人で行って二人がアトラクション乗ってるとこ見てるだけとか辛いもん」

「確かに。ていうか、なんでそれなのに見守るなんて約束したんだよ」

「だって、あの姫乃がすごく真剣な顔で頼んでくるから……」


 宮廻は少し離れて先を行く樫崎をジト目で眺めて唇を尖らせる。


「ああな」


 普段から自由気ままな樫崎に、そんな感じで迫られたら断りにくいのはちょっとわかる。


「今、いくら持ってたかな」


 財布を広げてみると千円札が三枚と、加えて小銭がジャラジャラという感じの中身だった。

 土肥に誕生プレゼントは買ったものの、まだ前世の俺が貯めてた金が残っているからな。小学生にしたらけっこうある。

 まあ、これくらいあれば多分遊園地で一日遊ぶくらいなら大丈夫かな。

 遊園地こと七日山ワンダーパークは、入場料はたしか子供五百円とかで、アトラクションが三百円くらいだったはずだから、行き帰りの電車賃を考えてもなんとかなるだろう。

 ちなみに、うちの街には遊園地なぞ七日山しかないので、みんな七日山ワンダーパークなんて長ったらしい名前で呼ぶことはなく、ただただ遊園地と呼ぶのが基本だったりする。


 とっとくべきお金はあったっけな。

 頭の中でそろばんを弾こうと思ったけど、そもそも今月特にお金を使う予定がないことに気がついた。

 小学生には昼の定食屋とか、電車代とか、夜のラーメン代とか、夜道のコンビニ飯とかの毎日必要な経費ってものがないもんなあ。

 どうせ後何日かでお小遣いと競馬の金が渡されるんだから、今日全部使い切っても大丈夫だろう。

 そう考えて、行けると言おうとしたタイミングで、宮廻に機先を制された。


「あ、お金はあたしが払うから大丈夫」


 宮廻は自分の胸をドンっと叩いて任せなさいといった表情である。


「え、なんでさ。財布の中に四千円くらいあるから大丈夫だと思うんだけど」

「お詫び。姫乃に頼まれたとはいえ、寄木に黙ってたのちょっと心苦しかったし。あたしのためだと思って受け取ってよ」


 急に宮廻がまたしおらしい態度になったので、若干びっくりしてしまう。

 もう気にしてないから良いのに、と思ったけど本人が罪滅ぼしみたいな感じに思ってるっぽいし、素直に受け取るか。


「じゃあ、入場料だけ頼むぜ」

「わかった。じゃあ行くでいい?あたしと行くの嫌じゃないでしょ」


 宮廻が今度は余裕綽々という顔になって、ふふんと笑いながら聞いてくる。いきなり自信満々だなあ、こいつ。感情の振れ幅が大きいぞ。

 まあ嫌じゃないけどさ。


「ああ、行く」

「よし、決まりね」


 宮廻はへへっ一笑いして、俺の背中をぐいっと腕で押しはじめた。

 俺もやられるばかりは癪なので、同じく背中を押す。体重が変に合わさって二人で転けかける。危ねえ。

 つんのめった俺を見て、自分も転けかけたくせに宮廻はツインテールを揺らしながらゲラゲラ笑っている。

 ちょっとムカついたので、目線をよそへやると暁斗と樫崎の背中が見えた。

 しかし、デートかあ。


「ていうか四年生とか五年生で、もう好きな人がいる奴もいるんだな」


 ふと思った言葉が口に出てしまった。

 びっくりだよ。俺が前世の四年生の時はとにかく遊んでるのが楽しかったし、五年生の時は塾で勉強しているのが楽しかったし。

 恋愛なんて考えたことなかったのになあ。すごいや。


「え?それ本気で言ってる?」

「なんで?」

「やっぱ寄木ってあんた、恋愛ごとに疎いよね……」

「そうか?うーんでも、うちのクラスに恋愛モードって感じになってるやつ、いなくね?」

「……そうだね」


 何故か宮廻がめちゃくちゃ冷たい目で俺を見てきていた。え?何かおかしいか?

 え、クラスにそんな誰かに恋してますとかそんな感じの奴、いたっけ?


「まあいいや、行こ。そろそろ見失いそうだし」


 言われてみれば、さっきから暁斗と樫崎が視界から消えていた。多分、角でも曲がったのだろう。

 宮廻に再び背中を押され、俺は早歩きになって二人を追いかけた。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。


次回はまた、明日か明後日に投稿します。



昨日休んだ分、一日に三話投稿頑張ってみました。

よければお褒めの言葉や感想、ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。

感想や評価が励みとなっております。皆様の応援に感謝です。

そして、今後ともご贔屓によろしくおねがいします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 寄木ー!横!横! と全力で言いたい
[一言] この作品に気づいてすぐ読みきってしまいました。 とても面白いと思いますし、先生の作品に対する頑張りが見えて嬉しい限りです。 次の更新も楽しみして待ってます。 頑張って下さい。
[一言] うん・・・うん、居ないよね、恋愛モードになってる子(白目 まああれだよね、精神年食ってても、経験した事ない事は分からないよね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ