7-4. 動物園に遠足!
昼食も終わり、俺たちは再び動物園散策を始めていた。
あれだけ揚げ物を食ったのに、胃のあたりが全く痛くないのは凄い。若さだな。
いやはや、逆行前だと脂っこいものを食べるためには、翌日の予定を確認してからじゃないと難しかったのに。小学生って流石だと思う。
結局最後に残ったトンカツと唐揚げは暁斗が全部食ったんだけど、あいつも多分腹痛とかにならないだろうしな。
午前中はずーっと適当に散策してワイキャイ盛り上がってただけなので、午後はしっかりスケッチしないといけないだろう。
いやほんと、午前中は色々遊んでばっかで絵なんか一切進まなかったんだよな。
ウサギとふれあいコーナーが一番時間を使った。宮廻と樫崎が最初に突撃していって「ウサギさんは普段から見慣れてるから、すぐ次に行っても私は大丈夫だよ?」とか回る時間を心配しながら殊勝に言ってた土肥も、結局係のお姉さんに膝の上にウサギを乗せられてずっとご満悦だったしな。
しかし、土肥が樫崎と宮廻の二人にウサギの抱き方や撫ぜ方を教えている姿は面白かった。樫崎の方は土肥にコツを教わったらすぐにガンガン物怖じなく触ってたけど、宮廻はちょっとビビり気味だったから土肥が手とり足とり教えていて、なんか不思議な感じだったな。
ちなみに俺はその間、暁斗と隣接する夜行性動物の館に入り浸ってた。
明かりがないから動物がどこにいるか探すのも一苦労で、木の陰に隠れていたナマケモノを発見したときはマジで嬉しかったんだよな。めっちゃ二人でニンマリしてしまった。
オランウータンの檻では樫崎が限界まで顔を近づけた瞬間に、ボーっと寝転んでいたオランウータンがいきなり跳ね起きて金網まで突進してきたんだよな。
それでビビった樫崎は腰抜かして尻もちをついて俺たちは大爆笑してしまった。暁斗がずっとやめときなよって言ってたのに、本当にアホである。
オランウータンくんも微睡んでいるところに近付いたから怒ったんだろうな。申し訳ない。
そういうわけで、俺と宮廻と土肥の三人はスケッチする対象を求めて園内を練り歩いていた。
暁斗と樫崎は一足先に描く動物を決めたので、そこでもうスケッチを始めている。ちなみに二人が選んだ動物はシロクマだった。
全身真っ白だから、あとで色塗る時に大変じゃないか?と思ったけどまあいいか。
「土肥さんはトラかライオンだっけ?」
「えと、うん」
「じゃあ、あたしもそうしようかな。寄木もどう?」
「うん。じゃあ俺も」
一人で描くのもなんだし、一緒にやる方がいいだろう。
特に描きたい動物もなかったし、このまま探し回って無理やりひねり出すより、さっさと描き始めた方が時間に余裕ができるだろうし。
「わ、起きてる」
土肥が少し驚き気味で声をあげた。午前中に来た時はライオン達は全員昼寝の時間だったのか眠たそうに寝転がっていたのだが、今は起き上がって堂々とノシノシ歩いている。
オスが一頭とメスが三頭という組み合わせが闊歩するライオンコーナーは、掘り下げられていて上から覗ける形だ。
寝てたら感じなかったけど、起きてみると迫力があるな。強そうだ。立ち姿も王者の風格があってカッコいい。
オスのライオンは特徴も鬣のおかげではっきりしてるし色もわかりやすくていいな。絵を描くには最適という感じである。
しかし、子供の俺より普通にでかいし、絶対襲われたら勝てねよなこいつ。いやまあ大人の俺でも多分勝てなかったと思うけど。理系の研修室籠りっぱなしで体動かさないサラリーマンなんて、一瞬でやられてしまいそうだ。てか人間で勝てるやつの方が珍しいよな、いるのか?
襲われた瞬間に、なんとか横に回って寝技に持ち込めば……。
「わ、オスのライオンさんのたてがみ、ふわふわしてる。かわいい」
「え?」
ライオンと戦う想像をしていたせいで、土肥の発言に思わず変な反応をしてしまった。
「えと、寄木くん、ライオンさんも嫌い?」
もって何だよ。いや、ペンギンは確かに苦手ではあったんだけどさ。
じーっと見つめてくる土肥の目線は不安そうで、もしかすると「自分が選んだライオンが不満だったのかも」とか思ってるのかもしれない。
なんか言わないと、と思うけどうまく言葉が出てこない。
「寄木はライオンのことカッコいいとか思ってるんじゃない?」
「ああうん。強そうだなと思ってた所だったから、かわいいって言われてビックリしただけで」
「そっか。確かにライオンさんってカッコよくもあるよね」
俺が詰まった瞬間にフォローを入れてくれた宮廻の発言に乗って返事をすると、土肥は安心したようにほっとため息をついた。
やっぱり自分が選んだ動物に対して不満を持たれているかも、とか思っていたのだろうな。
んなこと思わないって。
気を取り直して三人で絵筆を取る。
座って描けるような場所がなかったので、立ちながら三人並んでライオンをひたすら描いていく。
ふと気付けば周りには意外に同級生の姿が少ない。居たとしても、絵は描かずに歩いている奴が多めだ。もう提出が終わったのか、画板すら持ってないやつもチラホラ見かけることもある。
思えば午前中に俺たちがワイキャイしながら回っている時に、周りの連中はみんなせっせと描いてたな……。
あれか、俺たちはアリとキリギリスのキリギリスか。もしくは、夏休みの最終日に宿題をやる時の心地である。
俺、基本的には宿題早く終わらせるタイプなんだけど、図工とか絵は最後まで残しちゃう人間だったんだよな。それで最終日間際にあわてて材料とか買って、焦って作ったよくわからないものを提出することが多かったな……。
路上にかかった大時計を見ると、既に集合時刻まで後一時間になっていてビビる。戻るまでを考えると、四十五分くらいしか余裕がないんじゃないだろうか。
やべえ、必死にやらないともしかしたら間に合わない?
アリとキリギリスだのとアレコレ考えているせいで進みが遅いのだと気付いた俺は、一心不乱に筆を動かすことにした。
「ふぅ」
八割型書けたところで、ため息をついた。
時計を見ると集合時刻まであと三十分というタイミングになっていた。
まあこの進み具合なら大丈夫だろう。なんとか間に合ってよかった。
気が緩んで集中力が切れたので、ちょっと気分転換に土肥と宮廻の絵を見ることにする。
「ほぉ……」
二人共、予想外に絵が上手だった。
宮廻はどちらかと言うと写実的で、しっかりした絵な感じ。土肥はちょっと可愛くデフォルメされた感じだけど、どちらとも俺の絵よりは随分上手い。
まあこう、女子って基本的に男子より絵が上手いもんだもんな、仕方ないと自分を慰める。でも、宮廻が絵も上手いのは意外だったな。
「どったの、寄木」
「いや、二人共上手いなと思って」
「そう?ありがと」
なんででも無いという感じで宮廻はさらりと流すけど、土肥は恥ずかしくなったのか、若干画板を隠すように体を動かした。
どうせ出来た作品は教室に飾られるんだから、今隠しても意味なくないか?
「どんなのか見せて?」
宮廻が、そんな土肥の絵を覗き込もうとする。
ちょっとだけ恥ずかしそうに震えた後、土肥はおずおずと宮廻に画板を差し出した。
「ホントだ、上手いじゃん。かわいいね」
「あ、ありがとう。宮廻さん」
「あやめでいいよ。んで、あたしも玲花って呼んでいい?」
宮廻が土肥にニコリと笑いかけながら言う。
「う、うん。いいよ……あ、あやめちゃん」
土肥がめっちゃくちゃ恥ずかしそうに、顔を赤らめながら俯きつつ返事をした。
「ありがとね、玲花」
そういいながら、宮廻は俺の方へちょっと寄って耳に唇を寄せてささやく。
「玲花って、めっちゃ可愛くない?」
わかる。マジで小動物みたいな感じで、見ててほんわりとするよな。
俺は静かに頷いた。
この後、さっきのやり取りで照れたのか手が止まった土肥と、隣で始まった餌やりコーナーにつられてフラフラと行ってしまった宮廻と、気が抜けて仕上げが遅れてしまった俺の三人は、集合時刻に二分遅刻してしまい、ゴリ山こと森山先生に雷を落とされた。
いや、担任の横江先生じゃなくてお前なのかよ!
今日ずっと自分のクラスばっかりで俺たちには関わってこなかったじゃん!
いや、申し訳ないとは思うけどさ!時間守らないのは悪いとも思うよ!けど、俺の胸ぐら掴まなくてもいいじゃん!それ、体罰だって!未来だと問題になるからな!それ!
土肥は胸ぐらを掴まれた俺を見て半泣きになってて、ちょっと申し訳なかった。
俺たちと一緒に回ってなければ、さっさと絵を描くタイプだと思うしなあ。ただ、土肥のその顔を見てゴリ山もそれ以上は怒る気がしなくなったのか、土肥は「行ってよし」とさっさと開放された。
宮廻も普通にすみません、としれっとした顔で謝ったら、ゴリ山に「次回は気をつけろよ」と注意されて開放された。要領がいいな、ズルいぞお前。
俺といえば開放される宮廻を見ながら心の中で『これを反省して、今年の夏休みの図工や絵はさっさと始まった時期に片付けよう。キリギリスはよくない』とか考えていたら、
「お前、話を聞かんか!反省せい!」
と頭にゲンコツを一発もらってしまった。いてえ!
いや、反省して次回は気をつけようと思ってたんだが!
悪いとは思うよ、遅刻したわけだしさ!
勿論そんなことは口に出せず、俺はひたすら痛む頭を両手で抑えながら涙目で帰りのバスに乗り込んだのであった……。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
これで遠足回は終わりです。
次の更新は5000ptキリ番として番外編をアップしたいと思っています。
レビューをまた頂きました、嬉しいです。
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次回はまた、明日か明後日に投稿します。




