7-3. 動物園に遠足!
今回では終わりませんでした。まだ続きます。
「みんな準備はできましたか?」
「はーい」
「では、手を合わせて。いただきます!」
「いただきます」
横江先生の声で昼食が始まった。
隣のクラスも少し離れた場所でそれぞれ持ち寄ったレジャーシートを広げているけれど、向こうの担任のゴリ山こと森山先生が怒っている様子でまだ手を付けることは許されていないようだった。
あ、小野瀬が不満そうな顔をしたのか、ゴリ山に叱責されている。やはり土肥のことがあるので、ちょっとだけ胸がすく思いがする。
いやでも、あのツバを飛ばしながら怒鳴る対象が俺になる可能性があるわけで、単純に喜んでいられないのが嫌だな。
そんなことを思いながら、弁当箱を開く。
「わ、あやめの弁当めっちゃ豪華じゃん」
樫崎がテンション高めに手を叩く。
見てみると本当に豪華でびっくりした。おかずがだけが入ったおせちくらいのサイズの二段重ね弁当箱なんて、運動会に持ってくる奴だと思うんだが。
「そんなに食べきれないって言ったんだけど、持たされちゃったからみんな食べて」
宮廻が少し遠い目をして、ご飯入りの弁当箱だけ手元に残して、五人分のシートを重ねたど真ん中にお重を押しやってくる。
片方のお重には一口トンカツやらエビフライやら唐揚げやらの揚げ物がたくさん入っていて、子供の身としては嬉しいラインナップだな。
もう片方のお重には卵焼きやお浸し、チーズちくわとかの、普通のお弁当って感じのメニューが並んでいる。
「友達と食べるんでしょ沢山作らなきゃ、ってお姉ちゃんが張り切ってくれたのよね」
「おお、あおいさんが」
「みんなも自分の弁当があるからって言ったんだけどね……てわけで遠慮せずに取っていって。てかむしろ食べて。ほれ」
ひょいひょいと宮廻がお重から一口トンカツを取り出して、全員の弁当の上に乗せていった。
渡されたトンカツに、そのままありがたく齧り付く。中の豚肉は子供が嬉しいロースで、脂がじわっと湧き出て非常にジューシーで美味しかった。
このトンカツを作った宮廻の姉であるあおいさんには、宮廻の家に行った時に何度か会ったことがある。
前にも言ったけど、うちの母さんに近いゆるふわ系のお姉さんで、お菓子作りが趣味な人である。お邪魔した時に、わざわざクッキーを焼いて振舞ってくれたことがあった。
今回も、妹に持たせる弁当をわざわざ朝から作ってくれたのか。いいお姉さんだな。いや、量は若干間違ってるとは思うが……。
逆行してからは会ってないけど、懐かしさもあってお会いしたいなと思いはする。しかし中身が三十路男ではあるんだけど、友達のお姉さんってやっぱり年上って感じは拭えなくて『お会いする』っていう風にに敬語を使っちゃう。
まあ、俺が元々あんまり前世でも大人っぽくなかったしな。今でも精神年齢は羽鳥のほうが上って気もするし。だからこそ、クラスに今の所は馴染めているのかもしれない。
ふとその羽鳥はどうしているだろうと気になってあたりを見る。
羽鳥は仲のいい女子グループ四人でご飯を食べていた。
俺の目線に気がついたのか、羽鳥がこちらを向き軽く手を振ってきた。なんかちょっと恥ずかしいけど、無視するのもなんなので俺も小さく振り返す。
ちなみに羽鳥のお弁当は昨晩ウチで晩御飯を食べた時に、ついでに羽鳥が自分で作ったやつである。そのまま持って帰って、粗熱をとって冷蔵庫に入れて今日持ってきたんだと思う。
母さんの手伝いがあったとはいえ、既に自分で弁当を作れるようになってるのは凄いよな。
羽鳥と俺が同じメニューだと変な勘ぐりを受けるかもしれないので、お互いの中身を変えているんだけれども、俺も何か自分で一品作るかと思ってさっと用意した鶏の照り焼きだけは、羽鳥が欲しがったので両方の弁当箱に入っていたりする。
「土肥っちのお弁当、可愛いくない?」
樫崎がまた人の弁当に興味を示した。
「ホントだ。かわいいね」
宮廻も同調するので覗き込んでみると、土肥のお弁当箱は確かに可愛らしかった。
ウインナーはタコさんで、しかもご丁寧に何かわからないけどくりっとした目までついている。人参もハートに型抜きされているし、二羽入っているりんごは勿論ウサギさんだ。
タコさんやウサギさんに刺されているのも、爪楊枝ではなく飾りのついたプラスチックのピックで、これもなんか運動会みたいな感じがある。まあ、小学校って給食だし、お弁当って一大イベントになるのか。しかし、土肥のお母さんも頑張ったな。
ちなみにご飯も白ごはんそのままではなく、海苔で目鼻と髭が作られた猫ちゃんおにぎりとなっている。
「えっと、ありがとう」
「ねえ、土肥っちウサギさん一つもらっていい?」
照れながら頷く土肥に樫崎が聞く。というか、既に手がりんごへ伸びている。二羽しかないのにいいのか?
「あ、うん。いいよ」
「良いっていう前に取るんじゃないの。土肥さん、姫乃からも何か貰ったら?」
宮廻が樫崎の弁当箱を勝手に手にとって、土肥の目の前へと持っていく。
樫崎の弁当箱は茶色かった。色々な肉系の料理が入っていて、樫崎の好みを反映させた感じがありありと見える。
「えとじゃあ、ミートボールもらっていい?」
「いいよ、ほれ。あやめもいる?」
「貰う。じゃあお返しに、エビフライ!ほれ、ほれ」
「四本もいらないんだけど!食べれないし」
「遠慮しないの。土肥さんもほれ、エビフライ」
「あ、ありがとう」
「寄木のその鶏肉美味しそーじゃん。いただきっ」
樫崎が俺の弁当にも手を出してきた。俺謹製の照り焼きを選んだので、お目が高いとちょっと嬉しくなる。そして、取られるだけはなんか嫌なので、樫崎から持っていかれた分は回収することにする。
「じゃあ俺もミートボール貰うな。暁斗も何か食べる?」
「俺も樫崎と同じ鶏肉……これ照り焼きか。貰っていい?樫崎もミートボール貰うぜ」
そう言いながら暁斗は俺の弁当箱から照り焼きを、樫崎のからミートボールをササッと抜き取っていった。さりげなく、貰うだけ貰うことに成功している。ずるいぞ。
ていうかさっきから静かだったけど、よくよく見てみると暁斗は一人で宮廻の二段重ねを一人で黙々と減らしているようだった。
多分、唐揚げと卵焼きは一人で半分くらい食ってるんじゃなかろうか。
よく食うな、こいつ。冷静に思い返すと、暁斗は給食もいつもおかわりをしているんだよな。この間のカレーとか三杯食ってたし。
余談だが、宮廻と樫崎は早食いで、クラスから一番に飛び出して遊びに行くタイプである。
でも暁斗のお陰で、宮廻の持ち込んだ大量のおかずは一つ残らず平らげられそうである。ていうか、宮廻の奴こんな大量のおかずをよく背負ってたな。重かったんじゃないか?
「あ、ミートボールあと一個しか残ってない」
樫崎が自分の弁当箱を見つめて絶叫をあげる。まあ、暁斗と俺と土肥で一個ずつ貰っていったからな。
「もうっ。あんただって土肥さんのウサちゃんの片方持っていったでしょうが。ほら、エビフライあげるから」
「ええーっ、もう要らないーっ」
そんな感じで、俺達の昼飯はにぎやかに過ぎていったのであった
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
前回の後書きで『次回で遠足回は終わると思います。』なぞと書いていたのですが、遠足なのにお弁当回がないのはと思い、一話挿入しました。次回か次次回で遠足は終わります。
次回はまた、明日か明後日に投稿します。




