6-4. ファンシーショップで誕生日を・土肥玲花
入店してから三十分ほどで、ストロベリー・ストロベリーも大体見終えることができた。
残るはアクセサリーコーナーだけとなったが、ここは長引きそうだ。女の子はアクセサリーとか絶対好きだもんなあ。
「ね、寄木くん。これ似合うかな?」
土肥が向日葵の花がついたヘアピンを髪に当てて聞いてくる。
「うん。似合ってる」
「本当?!」
思ったとおりに答えたら、土肥はめちゃくちゃ嬉しそうな顔になる。
どっちかと言えば物静かな方な土肥が、明るいイメージのある向日葵をつけているというのはギャップになっていいと思う。
「えっと、じゃあこれは?」
次はリボンの付いたカチューシャを頭につけて問うてきた。
「似合ってるよ」
土肥の雰囲気を、リボンの可愛らしさが増幅させていい感じだと思う。
「……じゃあ、これは?」
ゴージャスな色とりどりのコサージュの髪飾りを側頭部に乗せて、土肥はこっちににじり寄ってきた。
「おう、似合ってるぞ」
ちょっと派手でともすればギャルっぽい感じのコサージュだけど、土肥の静謐なイメージがそれを中和して嫌味にならずに落ち着いていい。
「むぅ……」
似合っていると言ったのに、土肥はなぜか不機嫌になってふくれ面で俺の事をジトッと見つめてきた。
え?俺何かやった?
「土肥、どした?」
「寄木くん、似合うしか言わないもん」
「実際全部似合ってるから仕方なくね?それぞれイメージが違うけど、土肥にマッチしてたぞ。綺麗めだったり明るかったり、印象は違うけどさ」
「あう。そ、それならいいんだよ?」
「ん?おう」
土肥はいきなり顔をちょっと赤くして俯いた。ええ?一体、何に怒ってたんだ?
うーん、よくわからん……。
とにかく土肥がちょっと静かになってしまったので、俺はアクセサリーのコーナーを改めて軽く見回す。
ヘアピンにヘアゴム、ヘアコームにコサージュそしてカチューシャと色々とカラフルに取り揃えられていて、デパートとかにあるお菓子の詰め放題コーナーを思いおこしてしまう。
このコーナーに来てから土肥は手に取るものも増えたし、色々試着をしながら真剣に見ているようなので、多分プレゼントはこのコーナーから選ぶことになると思う。
やっぱり、アクセサリーか。
「えと、寄木くんはどれがよかった?」
「……むしろ、土肥はどれがよかったんだよ」
土肥へのプレゼントなんだから、土肥が一番喜ぶもの、一番欲しいものがいいと思うんだけどな。
「寄木くんからのプレゼントだから、寄木くんに選んでほしくて」
「なるほど、そういう考えもあるのか」
確かに、プレゼントってその人の趣味で似合うものを選んで渡すから面白い、と言われたらそうだな。
うーんでも俺は前世でも女の子にプレゼントを渡したことなんて一度もないし、やっぱセンスもあんまりないと思う。
自分の服だって、平日はスーツだし休日は動きやすい服ばかりを着ていたからファションに疎いしな。
という感じなので、俺に色々期待してほしくない。いやほんと、女の子に似合うものとかマジで分からねえもん。
……自分で言ってて悲しくなってきたな……。
「うーん、まあとりあえず全部見ていこうぜ。でお互いに気になるものがあったら見せようか」
見ていてピンときたものを土肥に見せて反応がよければそれを買えばいいし、土肥がめちゃくちゃ欲しそうにしているものがあればそれを買えばいい。
我ながらナイスアイデアではないだろうか。
切り替えるように俺は、ポンっと手を一叩きしてじっとアクセサリーコーナーを眺める。土肥も俺の真横で物色を再開する。
ちょっと気になった揚羽蝶を模したヘアゴムを俺はふと手に取り、すぐ横で色々カラフルな石がついたヘアピンを真剣に眺めている土肥の頭に触れないギリギリで合わせてみる。
似合う。けどこれが完璧ってわけじゃない気も同時にする。
難しいな!
土肥がなまじ顔が整っているので、何でも似合うんだよな。
「むう」
土肥の方もスマッシュヒットは出ていないようで、時々謎の小動物じみた唸り声が聞こえてくるくらいで、一向に候補が出てこない。
それを見つけたのは髪の装飾品コーナーを過ぎて、身に付けるアクセサリーのコーナーに差し掛かったタイミングだった。
「おっ」「あっ」
同タイミングで声をあげて、腕を伸ばした。そして、手が空中で触れる。どうやら同じものを手に取ろうとしていたらしい。
「お、これか?」
「うん。寄木くんも同じの見てたんだ」
「いいよな、これ」
俺が手にとって土肥に手渡す。
土肥と俺が目をつけたのは、シルバーアクセサリーの指輪だった。
天使の羽根の意匠が巡らされていて、なんとなく土肥のイメージに似合うと思ったんだよな。
めちゃくちゃ凝っている彫金がなされているわけじゃないし、むしろ子供向けショップぽくシンプルな図柄なんだけど、それが逆にいい味になっている。
両手でちまっと持ったリングを、くるくると土肥は色んな角度から見ている。
その顔はとても真剣で、話しかけることが躊躇われた。一通り眺め終わった後、土肥はリングを自分の右手人差し指に通す。
ちょっとだけサイズが合わないことを懸念していたが、ファンシーショップだけあって子供向けのサイズになっていたらしい。ぴったりと収まった。
指に鈍く輝くシルバーリングは予想通り似合っていて、俺はやっぱりなと頷いた。土肥もまんざらではなさそうな表情だ。
「あ……」
ただ、何があったのか。息を吐き出すようなため息とともに土肥は急に落ち込んだ顔になって、リングをそっと元あった場所に戻してしまった。
「どうした?」
「えっと……」
「うん」
煮え切らない顔で土肥は言葉を返さないので、続けるように促してみる。
「あのね、お値段が……」
土肥が戻した場所からリングをもう一度手に取って、値札を眺めてみる。
「1900円か」
「そうなの」
考えてみれば土肥がさっきから俺に似合うかどうか聞いてきたアクセサリーはたいてい五百円前後で、高くても絶対に千円にはいかなかった。
冷静に考えると小学生のお小遣いなんて五百円から千円。貰ってるやつでも二千円くらいだろう。
そう思えば、土肥がため息をついて戻す気持ちは理解できた。欲しいとしても、友達にプレゼントでお願いできる金額じゃない。
まあ、一応シルバーアクセサリーだもんな。前世の露天で見たときもだいたいそれくらいの金額だったと思う。細部まで作り込まれた本格的なのだと一桁あがったりするし、ブランド品なら二桁変わってもおかしくないんだろうけどさ。
「土肥はこれが一番気に入った?」
「えと……」
土肥が俯きながら言葉を濁す。
「気に入ったかどうかだけ、教えて?」
「……うん。一番気に入った」
「じゃ、これ買おうか」
「ええっ?」
「ほれ、行くぞ」
そう言ってレジまで持っていく。
店員のお姉さんに手渡すと「プレゼント用ですか?」と聞かれたので「そうです」と答えた。
俺の返事に「いいですね」とお姉さんは土肥に笑いかける。土肥は顔を真っ赤にして俯いている。
お姉さんはそれ以上は何も言わず、ニコニコしながら粛々と会計そしてラッピングを済ませてくれた。
そのまま俺が受け取る。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
お姉さんの声に見送られて、俺たちはストロベリー・ストロベリーを出る。
店から出たタイミングで、土肥の手元に包みをそっと乗せる。
「あの、寄木くん」
「大丈夫、ちょうど最近運良くお金貰えたから」
最近母さんから渡された俺の今月のお小遣いは六百円だったのだが、それとは別に前に競馬で当てた金から月に三千円ほどを渡してもらうことにしたのだ。
前世との整合性を取ったり学んだ事を忘れないために必要なもの、例えば教材とかな、を買う資金として考えていたけど、まあいいだろう。
英語や数学が急に大学生レベルに出来るようになったことを言い訳する用の教材は、また買えばいいし。英語のなら母さんの部屋から拝借してもいいしな。何で色々露見するかわからないから、早めにアリバイ作りはしておきたいけど、そこまで火急を要しはしないだろう。
元はあぶく銭だし、誕生日を誰にも祝われないと悲しんでいた土肥が喜ぶならまずはそれでいいや。
「……ありがとね。寄木くん。あの、開けていい?」
「良いよ」
行きと同じく周りをめちゃくちゃ気にしながら降りたタイミングで、土肥が上目遣いに聞いてきた。
頷いた俺を確認した土肥は、指輪をプレゼント用のシールを慎重に剥がしていく。
「土肥ってプレゼントでもらった袋まで大事に取っておく派?」
「ううん。違うけど……あ、でも。これはそうしようかな」
そんなに気に入ってもらって、何よりである。
シールを完璧に剥がした土肥は、ほっそりとした指を袋に入れてそっと指輪を取り出す。
そのまま取り落してコロコロと車道に転がっていったら怖いので、土肥と車道の間に立っていつでも拾えるように臨戦態勢にしておく。
「わあ」
「綺麗だな」
土肥のちいさな掌に乗せられた指輪はそんなに高いわけじゃないのに、やっぱりなんとなく雰囲気がある。買ってよかったと素直に思えた。
「えっと、着けていい?」
「うん。どうぞ」
その場で出すのに良いよと言ったんだから、後は好きに使えばいいのに。真面目というか、なんというか。
土肥は指輪をどの指につけるかちょっと逡巡した後に、右手の人差し指にすっと通した。
やっぱり土肥に似合ってる。自然と俺の顔もほころぶ。そのまま土肥は指輪を目の前に揚げて、じっくりと眺めている。
「似合ってんじゃん」
「……ありがとう」
照れながら土肥はちょこんと頷いた。
いやはや、良かった。
「寄木くんの誕生日って五月の八日だよね?」
「お、よく知ってたな」
「えと、何がほしい?」
「うーん。何も考えてないな」
いきなり言われてもすっと出てこない。仕方ないよな。
「じゃあ、またここに一緒に買いに来ようね」
「おう。でも、無理しなくていいからな。今回の俺は偶然あぶく銭があっただけだから。お小遣いに無理のない範囲で」
「……うん。あ、寄木くんのお小遣いっていくらなの?」
「えっと、六百円だな」
「てことは、お小遣いの三倍なんだね……三倍……」
「うん?そうだけど」
土肥がいきなり顔を赤らめてふるふると震えだした。どうしたんだ、こいつ。
まあいいや。よくわからないし、放っておこう。
一通り震えた後、土肥がじっと俺の目を見つめながら口を開いた。
「寄木くん、ありがとね」
「おう。おめでとう、土肥」
改まって言われるとちょっとだけ恥ずかしくて、ほんの少しぶっきらぼうに言ってしまった。
「うん、ありがとう」
土肥が頬に着けたばかりの指輪ごと右手をあてて、にっこりと微笑んだ。
やっぱり、誕生日はそういう顔じゃないといけないよな。
「あ、でも帰り道で先生に見つかると面倒だから、今のうちに外しておけよ。学校にも着けてくるなよ」
「えあっ、うん……」
不意に思い出したことを伝えると、土肥は慌てて指輪を外してプレゼント用の袋に丁寧に入れて、ランドセルのなかに大事そうにしまった。
ただ、土肥は袋をランドセルに入れる時に、ちょっとだけ慌てたのか取り落しそうになってしまったので、それを見て俺は笑ってしまう。
「あっははっはは」
「もう、寄木くん!」
土肥が怒ってしまった。ぷんぷんと怒っている感じの顔ですらどことなく子犬めいた可愛らしさがあって、また笑いそうになってしまう。
「悪い。誕生日おめでとう」
誤魔化すように俺が誕生日を祝う言葉を紡ぐと、むぅとしていた土肥は怒りをどこにぶつけて良いのかわからなくなったのか、変な顔になる。
「うん。土肥、おめでとう」
調子に乗って俺は重ねて再度おめでとうを繰り返した。土肥はちょっとだけ微妙な笑顔になったけど、もう怒っていなさそうだ。ふう、なんとか誤魔化せたぜ。
まあ、何度もおめでとうと言われるとありがたみが薄れるかもしれないけどさ、実際に祝う気持ちが心のなかに溢れているから許してくれよ。
誕生日おめでとう、土肥。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
これにて土肥の誕生日のお話は終わりです。
よろしければ感想等いただけると幸いです。
次回はまた、明日か明後日に投稿します。




