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6-3. ファンシーショップで誕生日を・土肥玲花

 

「みて寄木くん、うにょうにょしてる」

「おお!」


 ちょっと大きめの雑貨が並んでいるゾーンで、土肥がちょこちょこと駆けだした。そして中空のガラス球の中で、光が中央からガラスの外壁に向かってニョロニョロと伸びて蠢くやつを指して喜びはじめる。

 おお、懐かしい。いわゆるプラズマボールだな。

 前世では子供時代に何度も見たことがある。それに大学のサイエンス・デイなる科学啓蒙イベントへ教授に引っ張り出され、来客への説明係をさせられた時の展示物にプラズマボールもあったので概要を覚えた。たしかあの時は教授が大学側の責任者の一人で、ゼミ生の俺たちが駆り出されたんだったな。


「不思議だね。まるで電気みたい」


 土肥はオモチャを前にした子犬のような顔で、ボーリング球より一回り小さいくらいの大きさがあるプラズマボールに顔を近づけて覗き込む。


「うん。実際に電気だからな」

「ええ、そうなの?!」


 大声をあげて土肥がプラズマボールから飛び退いた。さっきまで興味津々だったはずの顔が、完全にビビったそれになっている。謎の生き物を発見して後ずさる子犬って感じだ。


「そうだよ。中に希ガスっていうのが入ってて、そこに電気を流すと光るんだよ」

「ええっと……」

「うーん、雷と同じと思えばいいよ。空気のなかに電気が流れて光る現象という意味では同じだから」

「ふうん?」


 土肥が半分くらいわかった、みたいな顔をして顔をコテンと傾けた。

 いや、理系男子だったせいで色々言いたくなっちゃって語ったけど、小学五年生相手にそんな説明をしてもだよなあ……。多分、授業では電気に関してはまだ豆電球くらいしかやってないのに、言われても困るよな。すまん、土肥。

 冷静に思い出すとサイエンス・デイでも最初はしっかりと説明していたところ、聴衆たちに「こいつ意味分かんねえな」という顔をされて、慌てて噛み砕いた説明に変えたなんてこともあったな……。なのに、またやってしまった。


「土肥ここ触ってみ?」


 自分の失態を反省しつつ、話題を変えるためにプラズマボールの適当な場所を指し示してみる。


「あ、うん……」


 土肥は恐る恐るといった様子でプラズマボールへと伸ばしていく。人差し指をちょこっと伸ばして、ふるふると少しずつ近付けていく動きはとても遅い。秒速二センチメートルくらいのペース、蟻の歩み並だ。

 電気と言ったから、触ると痺れるのを恐れているのだろうか。


「えと、ぴりっとしない?」

「しないしない」


 やっぱりそうだった。痺れる物に触らせるなんて、そんな意地悪なことしないよ。

 土肥は一瞬だけ俺の顔を不安そうに見て、それからえいっとばかりに勢いをつけてプラズマボールに指を触れる。


「ほら、土肥。痺れないだろ?綺麗だろ?」

「んん……、わあ、すごい!うにょうにょが集まってる」


 どうやらビビって眼を瞑っていたらしくワンテンポ遅れて反応した土肥は、自分の指に光の筋が集まってきたのを見て実に楽しそうな表情になる。

 プラズマボールって触った場所から電気が人体を通っていくので、そこにニョロニョロした光が集まるんだよな。ちなみに、電気は体の表面を流れていくので安全である。

 土肥はちょん、ちょんっと蛙かなにかを触る時みたいに、プラズマボールを触っては離し、離しては触り、という動きを繰り返している。見てて面白い。


「手のひらでボールを包んでも面白いよ」

「うん。……わ、なんかアニメみたい」


 土肥の右手に光が集まって、まるでオーラ持ちや魔法使いみたいに見える。

 ただ、プラズマボールに片手を当てて光を集めている時って、普通は強者みたいな雰囲気が出たりするんだけど、土肥は若干及び腰になっているので手に入れた強い力を持て余して困惑しているキャラクターな感じがするな。巻き込まれ型主人公っぽい。


「これ、面白いね」

「誕生日プレゼント、これにする?」

「え、楽しいけれど……」


 ボールに手を当てながら土肥が言い淀んだ。


「そうだよな」


 俺もなにかの折に手に入ったら嬉しいけど、誕生日プレゼントに頼むことはないだろうしな。

 女の子なら尚更だろう。


「あ、これも面白そう」


 ぱっとプラズマボールから手を離して、土肥が駆け寄ったのはウネウネと動く謎の生き物の雑貨だった。

 見た感じ、蛇とかの細長い生物を模したものっぽい。

 土肥が間近で「わあー」という声をあげると、動きが激しくなった。

 プライスカードを見ると、声に反応して動きます、と書いてあった。なるほどなあ。


「あーあーあー」


 と俺も声をかけてみると、それに合わせてウネッウネッと動いてくれた。ちょっとだけ嬉しい。

 ていうか何の生き物なんだ、これ。鰻に見えなくもないけど。

 もう一度プライスカードに目をやると、商品名にチンアナゴダンサーズと書いてあった。

 ああ、チンアナゴってあれか、海底の砂に穴掘って隠れるアナゴか。これまたニッチな生き物を採用したな……。


「あっちは何があるんだろ」


 俺が動きを見て色々考えている間に、土肥はウネウネ動くチンアナゴを放り出して店の奥へと向かっていく。

 さすが小学生、興味が移るのが早い。

 また何か気になるものを見つけたのか、二、三歩ほどで立ち止まって手に取ろうとしている。

 追いかけていくと、次に土肥の興味を引いたのは、いわゆるスライムのようだった。

 スライムはやはり小学生に人気だからなのだろう。アイス容器みたいな円盤型のプラスチックケースに入れられて、どっさりと大量に積み上げられている。

 そのどっさり積み上がった一帯の前に試供品がいくつか置いてあって、土肥はそれにまた恐る恐る触れようとしている。

 つん、と土肥の人差し指が蛍光グリーンのスライムに触れる。スライムがぷるぷると震えた。


「わあ」


 土肥は味をしめたのか、連続で何度もつついている。ぷるぷる震えたスライムを見る土肥はとても楽しそうだ。


 うにょうにょ、ウネウネ、ぷるぷる。

 しかし、ここまで土肥が気に入ったものを考えると、どうやらそういう感じのウニャウニャとかグニャグニャしたものが好きっぽい。


「土肥ってさ、こうフニャフニャした感じのものが好きなの?」

「え?」

「違うの?」

「うーんと、考えたことなかった……」

「今まで見てきたやつ、全部フニャとかウニョ系のじゃん」

「そうかなあ?」


 ええ、言われてみても自覚がないのか。そうだと思うんだけどな。


「うにょにょにょにょ」


 自説を証明したくて、口で効果音をつけながら土肥の目の前で両指をウニャウニャと動かしてみた。


「え?寄木くん、なにそれ。あははっ」


 土肥がお腹を抱えて笑いだす。

 ほらやっぱ、土肥お前そういうの好きじゃん!

 俺がウニャウニャする度に土肥が笑うので、結局俺は五分くらいずっとウニャウニャをし続けてしまった。

 うにょにょにょにょ。






いつもお読みいただき、ありがとうございます。


うにょにょ好きの土肥でした。


この作品も、投稿開始から本日で一ヶ月が経ちました。

ほぼ毎日投稿が続けられたのも、皆様の応援のお陰です。ありがとうございます。

これからも頑張っていきますので、今後ともよろしくおねがいします。



次回はまた、明日か明後日に投稿します。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あー子供の頃こんなんあったなーという懐かしさが随所にあってとても良いです [一言] 土肥かわ
[良い点] 少女3人といい感じにそれぞれ仲良くなった。このまま中学生になったら、さらには高校生になったらどうなるんだろ。たのしみでしかない。4人目も登場するのかな。
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