4-4. 五年生のクラス替え
行きのいい意味で落ち着いたテンションとは違う、落胆混じりの静かな歩みで俺たちは教室に戻ってきた。いや、隣のクラスの担任がゴリ山かあ……。
唯一の救いとしては、ゴリ山が担任になった隣のクラスの連中の顔がマジで死んでたことくらいだな。
いつもは自信満々の小野瀬が、意気消沈という顔になっていたのは土肥のこともあって良い印象がなかっただけに痛快だった。
下がったテンションで席に座って横江先生の戻りを待っていると、羽鳥が席までやってきた。
「ねえ、寄木。委員会は何をやるつもりなの?」
「うーん考えてない。去年と一緒で図書委員とかかも」
図書委員は毎年やっていたし、やることも貸出の受付だから楽なので割と気に入っている。
「そっか。なら一緒にクラス委員やらない?私クラス委員長に立候補するから、寄木も副委員長にさ」
「ん、いいよ。俺が副委員長ね」
「よかった」
親しい人間と同じ方が楽しいだろうから、俺は即座に頷いた。所属する委員会の良し悪しなんて、結局誰とやるかで決まるからな。仲がいいやつがいれば楽しいし、そうじゃなければ面倒くさい。
小学生の委員会なんて大した仕事なぞないんだから、どれを選んでも作業量や拘束時間は変わらないしね。
まあ、クラス委員はちょっと面倒ではあるんだけどね。クラスの取りまとめをしたり、委員長会議に出なければいけないし。
でも羽鳥と一緒なら大丈夫だろう。
「あ、寄木くん、副委員長やるの?」
「うん。そのつもり。土肥は飼育委員?」
羽鳥が席に帰っていったタイミングで次は土肥が席にやってきた。
しかし、そこそこ席が離れていたのに、よく聞こえたものだと思う。耳ざといな。
「そっか……。や、うん!」
俺の返事に土肥は悲しげにうつむくが、一瞬でなにか決意したよう表情を変え拳をぐっと握って頷いた。
何があったのかわからないけれど、とにかく表情がコロコロと変わって忙しない。
「じゃあ、みなさん席についてください」
土肥に何があったのか聞こうと思った瞬間に、横江先生が教室に戻ってきた。
「どのクラブ活動に入るかはまた来週決めるとして、今から委員会を決めようと思います。もう去年からやっているのでわかっているとは思いますが、みなさんにはクラス委員か、その他の委員会かになってもらいます。……じゃあ、まずクラス委員長を決めましょうか。立候補したい人は?」
「はい」
「あ、はいっ!」
凛々しい声とともに羽鳥の手がすっと挙がった。続けて、土肥がわたわたと手を挙げる。
え、土肥お前クラス委員長やるの?できるの?飼育委員じゃなかったの?飼育委員似合ってたじゃん。
「お、二人も居るんですね。珍しい。だいたい推薦とかになるんですけどね。じゃあ投票で決めましょう。そうですね、立候補者二人は前に出て、演説してもらいましょうか」
横江先生の呼びかけに対し、羽鳥は堂々と、土肥は緊張してますっていう顔で前へと進んでいく。
そして、そのまま教卓へ一歩踏み出して羽鳥が語り始めた。
「こんにちは、羽鳥純恋です。私たちも高学年になりました。それに恥じない、後輩の見本になれるようなクラスにしていけたらと思います。去年もクラス委員長を務めていましたので、経験も豊富です。どうか投票をお願いします」
さすが羽鳥の一言だった。堂々としていたし、声の通りも良かった。内容もこれ五年生?と思ってしまうくらいにはしっかりしていると思う。軽い拍手が起きたし、横江先生も「おーっ」と感心した様子だしな。
しかし、小学校のクラス委員の立候補演説でそんな真面目な話をするもんなんだな……。
「じゃあ次は……」
「はいっ」
羽鳥と入れ替わりで土肥が教卓へと登っていく。
「えっと、土肥玲花です。今まで委員長をしたことはありませんが、ええっと、一生懸命頑張ります。投票よろしくお願いしましゅ!」
あ、最後に噛みやがった。土肥らしいと言えば土肥らしい気がするが、ちょっと可哀想ではある。
噛んだことへの笑いは起きなかった、みんな普段物静かな土肥が見せた気迫に圧倒されてしまったのかもしれない。けっこう迫力があったからな。教室がしんっと静まる。
反応のなさを憂いたのか、土肥が泣きだしそうな顔になる。
「土肥さん良かったよ」
宮廻がそう言いながら拍手をした、それを契機に「よく頑張った」「偉いぞ」の声があがる。というか、俺と暁斗が言ったんだけど。
俺たちの声で土肥は若干持ち直したようで、なんとか頭を下げて教卓から下がる。
「じゃあ、投票をしましょうか。みんな机にうつ伏せになって目をつむってください。羽鳥さんと土肥さんは黒板の方を向いてください」
言われた通りに投票待機の体勢を取るけど、懐かしすぎて変な笑いが出てくる。腕で目を圧迫するのが、ちょっとだけ痛い。
しかし、どっちに投票しようか。そりゃ羽鳥のほうがちゃんと仕事はできるしクラスも纏められるとは思う。でも、土肥のクラス委員長になって頑張りたい、という気持ちや熱意も伝わってくるんだよな。だから選べない。
というか、どっちかに投票しようと考えた瞬間に、もう一方が悲しむ姿が想像できちゃって無理なんだよ。
「じゃあ、まず羽鳥さんがいいと思う人は手を挙げてください」
軽い衣擦れの音が聞こえて、すぐに静かになる。一分弱して、
「ありがとうございます。次は土肥さんがいいと思う人」
とまた横江先生の声がかかった。再び、衣擦れの音だけが静謐な空間に響く。時々、誰かの深い呼吸の音が聞こえてくるだけの静寂。
土肥の計測も同じく一分弱ほどかかった。羽鳥の方が有利だと思っていたから、土肥の計測にも時間がかかったのは意外だった。もしかして、接戦なのだろうか。いや、計測時間で票計算されないように、という先生の気遣いかもしれない。
ちなみに、俺は結局どちらも選ぶことが出来なかった。手は一度も挙げず、投票なしである。
「はい、顔を上げてください」
顔を上げると、結構な時間目をつむっていたために、ちょっとだけ視界が明るすぎた。視界が白い。
「では、投票の結果、羽鳥さんがクラス委員長に選ばれました」
おー、という声が上がり拍手が響く。ま、そりゃ羽鳥だろうなとは思う。頼りがいがあるし、仕方ない。
「で、土肥さんがクラスのために頑張りたい気持ちは先生にも伝わってきました。なので、土肥さんはそのままクラス副委員長になってもらおうかなと思います。みなさんもいいですか?」
「はーい」「土肥ちゃんおめでとう!」
急な展開に土肥は目を白黒させる。助けを求めるように俺の方を見てきたので、
「頑張れよ、土肥!」
と応援すると、土肥はがっくりと項垂れた。あれ、どうしたんだろう。
俺、言う台詞をなんか間違えたんだろうか。
まあいいや、羽鳥なら土肥とも上手くやっていけるだろうし、安心である。
その羽鳥も、なんだかよくわからない顔で俺を見てきていたけど、一緒にやる約束を守れなかったのは俺のせいじゃないから許してほしい。
その後は時々じゃんけんで枠を争うことになるくらいで、特に波乱もなく委員会決めは終わった。
一応、俺も希望した委員会に入ることが出来て満足である。
そんなこんなで、俺の小学五年生生活の初日は概ね平穏に過ぎていったのであった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回でクラス替え編は終わりです。寄木や他の皆の委員会の話はおいおい出てきます。
寝る前に書き上がったので、深夜ですが投稿しました。
次回更新は登場人物紹介の予定です。今晩投稿します。
どういう風に紹介するか悩んでいますが、夜までには形になると思います。




