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4-3. 五年生のクラス替え

 

 やってきた担任は前世と一緒だった。逆行前の俺と同じくらいの年格好に見える女性、横江先生である。

 この先生にはあんまり印象がないんだよな。そんなに悪い先生じゃなかった気はするんだけど。

 五年生は塾に行き始めて人生における小学校の比重が減ったのもあるし、六年生の時に塩酸を嗅がせクラス中にダメージを与えた担任のインパクトがデカかったのもあって、本当に思い出せない。

 しかし、小六であの担任にまた当たるのは嫌だな……。来年を思うとちょっとだけ憂鬱になる。

 ちなみに我々のハイタッチ祭は、横江先生が教室に入るギリギリ前に終わった。

 目ざとい奴がちょこちょこ廊下を確認していてくれたので、そいつからの「先生たちが四階に上がってきた!」という報告があった瞬間にみんなマッハで席に着いたからだ。

 教室に入ってきた横江先生は、黒板に貼ってある出席番号順に振り分けられた座席表通りに大人しく座っている我々を見て、ちょっと驚きながらも感心してる様子だったけど、ごめんそれはまやかしなんだ……。


「まあ、五年生になると大人なんですね。去年が二年生だったので、差にびっくりです」


 とまで言われてしまって、申し訳ないし、恥ずかしい。

 まあ、切り替えが早いのは美点ということで、許してもらえないだろうか……。



 始業式は体育館で行うので、出席を取るや否や俺たちはズラズラと並んで廊下を歩いていく。

 先生に大人と言われた手前か、本当に皆ちょっと大人になったのか、四年生の修了式よりもどことなく落ち着きがある気がする。ああ、でも修了式は春休みに突入寸前テンションなので、変わって当たり前かもしれない。

 そんな落ち着きの中で、俺は隣になった宮廻とお互いの脇腹をつつき合って笑わせようと必死になっていた。周りの中身十歳のたちより子供の中身三十歳って……と自分でも思うけど、楽しいから仕方ない。


 宮廻をつつきながら自己弁護をしていたら、いつの間にか体育館へ着いた。

 ちなみに、俺は耐えきったけど宮廻は二回くらい笑いだしてた。こいつ、ちょっと脇腹弱いんだよな。

 整列して地面に体育座りをすると、すぐに式が始まる。

 まずは校歌斉唱である。

 前世だとどちらかと言えば俺は校歌斉唱を一生懸命にやるタイプで、真面目に歌わないやつのほうがかっこ悪くね?なんて思ってる人間だった。

 だが、今一生懸命に歌うのはちょっと無理だ。

 うちの小学校の校歌、ザ小学生向けって感じの歌詞なんだよ。喩えて言えば、童謡みたいというか。そんなのを中身三十歳のおっさんが大声で歌うって無理ですよ。キツすぎる。

 流石に口パクはダメだと思うので、小声は出しているけどさ……。根が真面目だな、俺……。

 そういえば歌で思い出したけど、確か五年生のときには合唱コンクールに参加したような記憶がある。

 どんなのを歌ったかは覚えていないけど、もし課題曲に教育番組で流れてる子供向けのポップなやつとかが選ばれでもしたら発狂してしまうかもしれない。

 頼むから、普通にいい感じのバラードであってくれ……。


 羞恥心を掻き立てられた校歌斉唱のあとは、校長の話だった。

 三十歳のおっさんになってから改めて聞いてみると、身につまされることがあったり、発言の中に喋ってる人間の後悔などが滲んでいるのを感じて、前世とは別の面白さがある。

 校長が話し始めて二、三分というところで、隣の宮廻がそろそろ飽きたのか変顔をして笑わせようとしてきた。

 さっきつつき合いで負けたからって次はそれかよ。

 いや、豚鼻はちょっと笑っちゃうけど、癖になってマジで豚鼻になるぞ。お前、後悔するなよ。

 やられっぱなしではシャクなので、俺もこっそり白目を剥いてみて応戦してみようとしたけど、宮廻は既に俺の方を見てなかった。酷くないか?

 周りを見回すと、宮廻以外にも我慢しきれなくなったのか、ムズムズ動いている人間が結構いた。いやまあ、小学生ってこんなもんか。半分も聞いてたら御の字って感じなのかもしれない。

 意外だったのは、ムズムズ動いている人間の割合が高学年になるにつれて増えてたことだ。

 どうしてだろうと思ったけれど、低学年って多分怒られるのが怖いんだろうな。学校にもまだ慣れきっていないし、教師との体格差も大きいし。

 ちょっとだけ、真面目に話しているのに聞かれてなくて校長も可哀想だなと思う。ああでも、でもこの校長って前世で塩酸嗅がせ事件をもみ消したやつだったな。

 そう考えるとまあ別にいいかと思えたし、話している内容もさっきまで多少の含蓄があるなと思えていたのが、途端にふーんって感じに思えてしまう。

 やっぱり世の中、何を言っているかより誰が言っているかなんだな、と痛感する。


 校長の講話はそこまで長く感じなかった。大学のよくわからない教養科目の授業で、長話に変に慣れてしまったからかもしれない。

 その次は新任の教師紹介だった。

 新らしく赴任してきた先生が前に集まって、一人一人どんどん紹介されていく。修了式のときに五人の先生が退任や転出したけれど、新たに来た先生は六人だった。

 紹介された先生は、マイクの方に進み出る。ちょこっと何かを話さなければならないみたいだ。

 別の小学校から来た中堅やベテランの先生は慣れたもので手短に要領よく挨拶をするけど、大学出たての新人先生はちょっと滑ってしまったり、上手く言えずにつっかえてしまったりとあんまり上手にやれていない。

 その度に若干の失笑が生まれ、気の毒な気持ちになる。


 俺も新人歓迎会とかゼミの配属飲みとかでの自己紹介はあまり得意じゃなかったからな。他人事に思えずにちょっと心臓が痛い。ていうか、見ていたくない。

 いやはや、こんな閉鎖空間で人が失敗する姿を強制的に見させられるとか、何の罰ゲームだよ。でもまあ、挨拶がないとダメな理由はわかるからなあ。

 それに、教師って人前でしゃべるのが仕事だしね。

 最後の一人も新人だったんだけど、その先生が一番口下手だった。周りの空気も弛緩しているし、生徒もちょっとニヤけていてかなり可哀想だった。

 その先生がなんとかやり終えた瞬間に、俺は反射的に大きく拍手をしてしまった。つられて周りも拍手を始める。先生も恥ずかしそうだったのが、ちょっとだけ嬉しそうな顔になって、良かったと思った。若干、コイツ何やってるの?って顔をされたけど……。


 新任教師の紹介の後は、担任紹介だった。

 先程と同じく、名前を呼ばれたらマイクで一言二言喋る感じっぽい。

 他の学年の担任が誰であるかなんて、俺らにはあんまり関係ないんだよな。小学校の教師とか、自分の担任とそれ以外って感じだし。担任以外だと音楽の先生と家庭科の先生、それと学年行事でちょいちょい関わる隣のクラスの担任くらいが特別で、他は本当に関わりとかないからな。あ、クラブと委員会の顧問も関わりがあるか。でもそれくらいだよな。

 というわけでぼーっとして軽く聞き流していると、低学年から始まった担任紹介はいつの間にか五年生の番になっていた。

 流石に自分の担任の出番を聞き流すのはなあ、と思ってマイクの方を見ると、横江先生の隣に、スポーツ刈りで背は若干低いものの服の上からも見て分かるくらいに筋肉がついた四十代くらいの男が立っていた。


「え、ゴリ山?!」

「マジじゃん!」


 びっくりして声を上げてしまった。俺の声で顔を上げた宮廻も驚きを隠せない様子だ。

 うげえ、隣のクラスの担任、ゴリ山かよ。

 マンション屋上を勝手に秘密基地化していたのが見つかった先輩たちを、廊下に並べて一人一人しばいていったのがこのゴリ山こと森山である。

 繁華街でヤクザに絡まれた時に投げ飛ばして帰ったとか、お礼参りに来たヤンキーな卒業生五人をボコボコにしたなんて武勇伝を持つ、この学校で一番危ない教師だ。

 しかし、お礼参りなんて概念、まだこの時代にあったのが驚きだよ……。お礼参りというのはムカつく教師を卒業後に襲いに行くというイベントであるが、俺が大人になった頃には消え去っていた文化だったのだが……。

 前世では別学年の担任だったはずなのに、なんで隣のクラスの担任なんだよ。学年行事で絶対一緒になるし、廊下で会う頻度も増えるじゃん……。

 自分たちの担任じゃなくて良かったという気持ちと、隣のクラスの担任ですら嫌だという気持ちがせめぎ合う。

 皆も同じことを思っているのだろう、クラス中の顔が渋い。

 一気にテンションが落ちるのを感じながらも、態度で目をつけられないよう、俺たちはゴリ山の挨拶を必死に真面目なふりをして聞くのだった。




いつもお読みいただき、ありがとうございます。


今回はちょっと説明回気味でしたね。

次回でクラス替えは終わりです。委員長や委員会決めをやります。


それと教師へのお礼参りという文化、もしかすると読者にも知らない方がいるかもな、と思いながら書いていました。

なので、一応注釈のように解説を入れてみました。しかし、皆知っているものなんでしょうか、お礼参り。



前回の更新3500文字に対し、15件ほど誤字修正をして頂きました。大量の誤字、お恥ずかしい限りです。

誤字報告をしてくださる方々にいつも助けていただいております。ありがとうございます。




次回は明日投稿します。


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― 新着の感想 ―
[一言] 昔は、体罰当たり前理不尽当たり前って感じのアホみたいな教師は幾らでも居たからなぁ。
[一言] お礼参りの言葉自体は知っていますが、本当にそんなことを、しかも小学生がしてたの?というのが正直な印象ですね。 そういえば、盗んだバイクで走りだす時代でしたっけ……。
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