表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/69

4-2. 五年生のクラス替え


宮廻の髪型について触れていなかったので、ここで改めて描写しました。

2話も後ほど髪型の情報を入れて改稿しておきます。




 四年生の時には滅多に足を踏み入れなかった四階の廊下を歩くと、なんだか新鮮な気持ちがする。ソワソワする気持ち、と言ってもいいかもしれない。

 前世で二年間もこの階を使ったのに不思議なものである。

 ワックスがかけ直されたのか、少し廊下には刺激臭が立ち込めていた。気持ち床もツルツルな感じがあって、新学期なんだなという気持ちがする。

 前世だと研究室に所属してからは長期休みというのは、通常の授業がない期間でしかなかったからな、帰郷くらいは出来たけどさ。

 小学生生活というのは季節感があっていいな、失った何かを取り戻せる感じがある。


 土肥と共に五年一組の教室に入ると、暁斗がいた。

 普段から多少関わりのあるような距離感の男子らと一緒にワイワイと騒いでいる。


「おーおー。悟、来たか!」

「よ、暁斗」


 そう、暁斗も同じクラスなのだ。

 前世でもそうだったから予期はしていたけれど、やっぱり紙面の同じクラスのところに名前を見たときには、安堵と共に嬉しかった。

 また一年間一緒だと思うと、それだけでテンションが上ってくる。

 暁斗も同じ気持ちのようで、俺の顔を見た瞬間に嬉しそうな顔になって椅子から飛び上がるように立ち上がった。そんなふうに態度に出してくれると俺もやっぱり嬉しくて、更にテンションが上がる。

 抱きついてしまいたいくらいだけど、中身が大人なせいか思い留まり、片手ハイタッチだけで済ませた。ぱあん、と乾いたいい音が教室に響き渡る。

 いやほんと、前世みたいに宮廻との喧嘩が発端となっていつの間にか疎遠にならなくてよかった、と思う。


「土肥さんも一緒なんだね。悟と一緒に定規バトルしようね」

「あ、うん。お手柔らかにお願いします」


 土肥が若干どう答えて良いのかわからない、といった様子で戸惑いながら返答する。

 多分これは暁斗じゃなくて、周りのあんまり話したことのない男子に気後れしてるんだろうな。


「土肥は定規バトル、暁斗の次くらいに上手いんだよ」

「え?マジ!?」「強くね?」「暁斗に勝てんの?」


 俺の発言で様子を伺うように土肥を見ていた男子たちが、一気に食いついてくる。

 いや、何かフォローを入れようと思ったけど、逆効果だったみたいだ。土肥はびくん、と体を震わせて縮こまってしまった。すまん……。


「あの、その……」


 なんとか言おうとしているが、完全に盛り上がってる男子に気圧されている。

 責任を感じて何か言わなければ、と思った瞬間に廊下から大声の掛け合いが聞こえてきた。


「いやー、最高のクラス替えだったね!」「見た瞬間びっくりしたよ」「センセたちも分かってんじゃんね?」「全員一緒とか奇跡でしょ」


 騒がしい声はどんどん近付いてきて、そして教室の入口までたどり着いた。


「寄木!暁斗!やったね!」


 ウキウキを隠せない顔で飛び込んできたのは、宮廻あやめだった。身体中からエネルギーが発散されているように飛び跳ねていて、ツインテールがぴょんぴょん揺れている。


「ウチら四人、また同じクラスじゃん?」


 宮廻の後ろから、ニンマリとした表情で樫崎姫乃がにょっと体を出してくる。髪はアイロンでも使ったのか、ふんわりと巻いてあって小五にしてちょっとギャル系を感じさせる。


「よ!宮廻、樫崎」

「いぇーい!」


 暁斗が立ち上がって二人と片手ハイタッチをしていく。暁斗のやつ、俺とのハイタッチが気に入ったんだろうな、そう思うとちょっと面白い。

 俺も暁斗に続いて、まず樫崎とハイタッチすべく振りかぶる。俺と樫崎の手が交錯した瞬間、グシャっという鈍い音がした。


「いてえ!」


 こいつ、ハイタッチする腕にガチガチに力を入れやがった!

 そのせいで衝撃が逃げずに、腕がじいんと痺れてくる。


「え、めちゃくちゃ痛くない?!」


 樫崎がバカみたいな声をあげた。

 俺を驚かせようとしたのだろうけど、まあ、そりゃそうなるよな。

 苦痛で顔をしかめて腕を抑えて呻いてる姿はゾンビ映画みたいで、笑ってしまいたくなる。ははっ。てか笑ってしまった。

 いやあ樫崎って、こんな感じに基本的にバカなんだよな……。


「もう、姫乃。なにやってんのよ」

「あやめ、寄木がウチの腕破壊したあ……」

「いや、こいつが自爆したんだよ」

「まあ姫乃ってなんというか、バカだからね……」

「そうだな……」

「ば、バカって言うなし!痛っ」


 怒ろうとして振り上げたら腕が痛んだらしい、樫崎がまた変な声をあげた。驚かせようとした俺より、随分ダメージを食らってるようでウケる。

 

「もーほんとに、姫乃は。ほれ、寄木!」

「おう」


 宮廻が樫崎を呆れ面で眺めながら片手をあげたので、パァンと片手ハイタッチをする。

 樫崎と違ってちゃんと力を抜いているので、樫崎との後遺症が少し痛んだだけで普通にハイタッチできた。

 ただハイタッチはそこで終わらなかった。

 宮廻は俺の手をそのまま軽く掴んで、離してくれない。指と指が絡み合う。


「宮廻?」


 俺の問いかけに答えず、宮廻は俺の手を軽く引いて俺を引き寄せる。

 そして、耳元に唇を近付け、


「これで今年も一緒だ。このままあたし達ずっと一緒だったらいいね」


 と小声で呟いてきた。

 嬉しいし、俺も同じ気持ちだけど、なんだか妙に気恥ずかしくてなにも返せなくなる。

 ニコっと屈託なく笑っている宮廻に、何か言おうと口を開こうとした瞬間後ろで歓声が上がった。


「「いぇーい!」」


 振り返ると、クラスにいたみんなが思い思いにハイタッチをしていた。

 あれだ、小学生特有のいきなりブームが来るやつだ。俺たちのやり取りを見て、我も我もと考えたのだろう。

 全員がぐちゃぐちゃに、誰彼かまわずハイタッチを交わしている。

 さっきまで暁斗と話してた男子が俺たちのところに来て「いぇーい!」と手を挙げてきたので、俺と宮廻も手を挙げ返してハイタッチをする。

 俺と宮廻は一瞬だけ目線を交錯させてふふっと笑い、そのままハイタッチの輪に加わっていく。

 入り乱れながらハイタッチをする俺たちの姿、日本史のええじゃないか運動に若干似てなくもないな……。

 ポツポツと下駄箱から教室に上がってくる奴らも、最初は入り口で「あれ?なにこいつら……」というような顔をするんだけど、即座に誰かにハイタッチを求められ、すぐに何かを理解して教室の狂騒の仲間入りをしていく。

 そうやって、教室の騒乱はどんどん増していく。


「ほれ、土肥!」


 教室の端っこで輪に加わらず、こっそり息を潜めていた土肥を見つけたので、そっと近付いて手を挙げてみる。


「……い、いぇーい!」


 最初は見つかった、という顔でちょっとビビっていた感じだったけど、結局照れが八割くらいの「いぇーい」で土肥はハイタッチに応じてくれた。


「土肥さん、あたしともやろ。ハイタッチ!」


 土肥がハイタッチに応じたのを見たのだろう、宮廻もやってきた。土肥は少しだけ緊張した面持ちになったけど、えいっと宮廻の手にぺちん、と手を当てた。


「いえーい!土肥さん、かわいくない?よし、こっちでみんなともやろっか」


 宮廻が土肥の脇の下に手を入れて、だっこというか持ち上げるというか、そんな感じで輪の方に連れて行く。

 土肥は暁斗が「お、土肥さん」と言いながらハイタッチした所までは見ることができたけど、その後は人波に飲まれて消えてしまった。さらば。


「何をやってるのかな?」


 いつの間に来たのか、羽鳥が教室のドアで中の狂騒を眺めてクールに佇んでいた不思議そうな顔をしていた。


「うーん、ハイタッチ会?」


 前世でアイドルがやっていると聞いたファンイベントの名前を口にしたけれども、この時代にあるのだろうか?


「ふうん。じゃあ、寄木、ハイタッチ」

「いえー」


 ハイタッチをするときまで羽鳥はクールだった。パシッって感じじゃなくて、ぱちん、って感じだったし。


「なんか意外に楽しいね」

「だろ?」


 羽鳥の後ろからもどんどん人が教室に入ってきて、そしてみんなが狂騒に身を投じていく。

 なんか、良いクラスかもな。こんな感じにみんなで盛り上がれるのって。

 結局、謎のハイタッチブームは、担任が教室に到着するまでひたすら続いた。





いつもお読みいただき、ありがとうございます。


どうしてか分からないけれど、謎に盛り上がる瞬間ってありますよね。

そういうお話でした。



次回はまた、明日か明後日に投稿します。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 控え目にハイタッチする土肥ちゃんがぐうかわでした。 [一言] 更新頻度高くて毎日楽しみです!頑張ってください!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ