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3-5.星を眺めるお水の子・羽鳥純恋


後書きにも書いていますが、3000pt到達しました。ありがとうございます。

そして、誤字報告頂いていたことに漸く気付きました。十箇所ほども訂正していただきまして、感謝です。本当にご迷惑おかけしました、お陰様できれいな文章となりました、ありがとうございます!



 結局、白菜を切り刻んでニンニクをすり潰してから、漸く俺は会話に混ざることが出来た。

 羽鳥と母さんはニラを切り終わった後、二人で仲良くご飯を研いでて全くこっちを気にする素振りすらなかった。

 研いでる間、絶対二人とも俺のこと忘れてたからな。まあいいけどさ。俺も、子供じゃないし。


 さて、具材が切り終わったので、お待ちかねの餃子包みタイムである。

 小学校の工作みたいで楽しいんだよな。毎日やれと言われたらちょっと嫌だけど、時々やる分にはニコニコでやれる。

 タネが入ったボウルを囲むように、俺達は食卓に腰掛けた。

 俺と母さんが腕まくりをしたのを見て、羽鳥が同じく袖を二の腕までめくりあげる。


「さあさ、やりましょうか」

「中に入れるのって、どれくらいの量がいいんでしょう?」

「適当に入れたら大丈夫だよ」

「まず私と純恋ちゃんと悟のぶんで三等分しましょうか。で、それを更に四等分にしましょう」

「なるほど、そうしたら調整しやすいですね」


 主婦の知恵は偉大だった。

 確かに、タネを四等分し、それに合わせて皮も四等分しておいてパートごとに調整していけば、最後にめちゃくちゃ余るとかはないだろう。


「なるほどなあ」

「悟は適当言っちゃダメよ」

「うん……」


 ごめんなさい。

 いや、適当でもなんとかなるのはなるじゃんね……。皮かタネがちょっと余るかもしれないけど……。

 気を取り直して、俺は餃子を包んでいく。

 まず最初に皮の周りを半周ちょっと水で濡らし、それから皮の上にスプーンで掬ったタネを乗せて、皮を半分に折ってぴっちりとくっつけて終わり。

 俺は包んだ後に余った皮をグニュグニュさせない派だ。手間が嫌なのと、味が変わらないと思うのもあるけど、何よりくっつけていない方が家庭料理感があるからなんだよね。お店と違った雰囲気が出ると言うか。

 しかし、グニュグニュってとりあえず呼称したけど、なんて言うんだろうな、アレ。

 母さんは普段グニュグニュしない派だけど、羽鳥に「こうすれば模様が付くのよ」と言いながらやって見せている。

 羽鳥は素直だから、母さんに言われたとおりにグニュグニュさせている。一手間増えるだけなのに……。

 俺は二人の様子を気にせずに、普通にぴっちりつけて終わりだ。羽鳥が「あれ?やらないの?」という目で見てくるけどスルーする。これが俺の流儀なんだ。


「ねえ、純恋ちゃん。悟って、学校ではどんな感じ?」

「悟くんは、勉強ができて頭がいいのでみんなに頼られることが多いです。私もよくお世話になっています」

「羽鳥のほうが頼られてるし、俺も世話になってるんだよ。羽鳥は毎年、委員長やってるし。今年は一学期の委員長だったから、クラスで一番みんなに信頼されてる」


 聞いてて恥ずかしくなるようなことを羽鳥が言い出したので、俺は慌てて羽鳥の話に持っていく。

 いや、だってこうお世辞を親もいる場で聞くのって嫌じゃんさ。

 クラス委員長は毎学期ごとに別人がやるというルールなので、最初の一学期に選ばれた羽鳥がクラスで一番みんなに支持されているのは間違いないだろう。


「ま、とにかく羽鳥はクラスで一番頼られてるってことで」

「ううん。そんな事ないと思うよ」

「んな」

「でも、土肥さんは寄木のことを一番頼りにしてるでしょ?」


 羽鳥がからかうように、俺の顔を見つめて首を傾げてくる。


「まあ土肥はね」


 なんとなく圧を感じて視線を反らしたら、俺と羽鳥がああだこうだと話しているのを見た母さんがめちゃくちゃニコニコしているのに気付いた。

 ちょっとだけ恥ずかしさを覚えつつ、まあ母さんとしても嬉しいだろう、と思う。

 学校での俺の様子を見ることは出来ないしな。色々気になっていただろうし。参観日とか完全にみんな余所行きだもんね。

 しかも、田淵のことがあって以来、めったに友達を呼んでこなかったかなおさらだ。

 しかし、餃子なあ。

 完成形を思い浮かべるとよだれが出かけてくる。ビールと一気に押し込むと美味いだろうなあ。

 ビールは昔はあんまり好きじゃなかったけど、最近は良さがわかるようになってきてたんだよな。味覚の変化の結果だろうし、あの良さがわかるまでまた二十年かかるのか。辛めの餃子とサワーとの取り合わせも好きだったし……。


「あ、変わりタネも作ればよかったね」


 想像の中で色々考えていたら、ふと口から出てきた。


「じゃあ、チーズ持ってきましょ」


 そう言って母さんが冷蔵庫から粉チーズを取り出してきた。よくあるボトルのやつだ。

 ボトルを開け、三分の一くらい残っていたタネの全体に母さんはチーズを上からざっぱりとかけていく。全体的に表面が白くなったところで軽く混ぜ、また三等分した。

 三人の作り終わった餃子を見てみるとだいたい同じなので、また三等分すれば皮が余るとかはないだろう。

 しかし、羽鳥は器用だな。初心者でしかも上をグニュグニュしているのに、上をグニュグニュしていない俺と速度が変わらないわけだし。

 いや、俺が遅いだけなのか……。まあ不器用だしな、俺……。


 結局、最後に作り終わったのは俺だった。

 グニュグニュ差があるのに負けるのは若干恥ずかしい。

 ご飯もそろそろ炊きあがる頃合いになったので、手を洗って色々と用意をして後は餃子を焼いて米が炊けるだけというタイミングで電話が鳴った。


「はい、もしもし。寄木です。いつもお世話に……、本当ですか?それは大変ですね。ええ……」


 電話をとった母さんは、そのままリビングを出ていく。どうしたのだろうか。


「寄木のママ、いい人だね」

「うん、俺にはあんまり受け継がれてないけど」

「そんなことないよ」

「餃子作ってみてどうだった?」

「楽しかった。綺麗にできると嬉しいね」


 羽鳥が爽やかに笑った。ある種の創作に近い楽しさがあるからな、餃子包み。


「そうだな、作る喜びというか」

「あ、寄木はなんで余ったところをクニャってしないの?」

「お店で食べる餃子は大抵グニュグニュだから、家だと差を出したくて」

「なるほどね」


 羽鳥がうんうん、とうなずく。

 家庭料理だからという理由は、夜はいつもコンビニ弁当という羽鳥の前で言うには迂闊だったかと思ったけど、返事は明るかった。

 一瞬口にしたことで背筋が冷えた。羽鳥が明るい奴で救われた。


「悟、ちょっと母さん用事できちゃったから、純恋ちゃんとご飯食べてて」

「わかった。俺が焼いていいの?」

「ええ。最近よく料理手伝ってくれてるし、できると思うわ」

「おっけー。お仕事?」

「そう。向こうの送ってきた書類に一部漏れがあったみたいで……今から事務所に確認してくるの。じゃあ行ってくるわ」


 そのまま母さんは玄関へとパタパタ走っていった。コツコツという靴の音、バタンというドアの開閉音、ガチャンという鍵の閉まった音が立て続けに起き、そして一気に静になる。


「じゃあ、焼こうか」


 できれば一緒に食べたかったけど、仕事なら仕方ない。

 軽く油を引いて、フライパンを加熱する。


「うん。寄木のママって何の仕事をしてるの?」

「児童書の翻訳かな」

「え、英語の?」

「そうだね」

「すごいね、寄木ママ!じゃあ英語もペラペラなのかな」

「うん、意外でしょ」


 雑談をしながら餃子をぽいぽいぽいと投入していく。焦げ目が付きかけたであろう頃合いに水を入れて蒸しモードへ突入だ。

 我が家のさし水は片栗粉や小麦粉とかはなしの、単なる水である。

 ジュワーッという音がして、蓋を締める前に漏れた水蒸気混じりの空気がめちゃくちゃ良い匂いを俺たちに届けてくる。

 あとは水がなくなるまで、ちょとだけ放置だ。


「正直に言うと、ちょっとだけ」

「なんかポヤポヤしてるもんね、母さん」

「単に英語ってイメージが持てなかっただけだよ」

「んふっ」


 羽鳥がなんとか母さんを擁護するので笑ってしまった。

 割と話し方が間延びしてるから英語を話せるイメージがないのは明白だし、ポヤポヤって言ってもいいんだぞ?

 まあ、羽鳥は性格がいいから、本当に思ってないのかもしれないけどさ。

 でも、やっぱ俺としてもあの母さんが英語がペラペラなのは未だになんとなくイメージと違う。

 仕事をしているのは俺が学校にいるときだから、姿をあんまり見ないせいもあるだろう。

 中学の時に英語を教えてもらったときも、単語帳をひたすらやりなさいってアドバイスだけだったし。

 しかし、前世で論文を英語化する時には添削して貰ったのにひどい言い草だな。我ながらダメだろ、俺。


「じゃあ、寄木も英語できるの?」

「うーん微妙……羽鳥、お皿取って」

「わかった」


 英語をこれから頑張ろうという羽鳥の前で、前世で学んだお陰でしかない英語を出来るとは言いたくなくて、軽く流してしまった。それに、今までそんな素振りを見せてないのにいきなり喋れるとか言い出すのは不自然だしな。

 大学時代に餃子を作るときは、皿の真上でフライパンを逆さまにしてポンっと乗せる、みたいなことをやっていたけど危ないので今回はなしだ。

 ちなみに、大学時代のその餃子は冷食である。一人暮らしで餃子とか作れるもんじゃないからな。

 スルスルスルっと、羽鳥が隣においてくれた盛り付け皿に餃子を滑らせていく。

 温かいままのフライパンに、第二弾のチーズ入りを投入してささっと焼き上げる。常備菜の小松菜も冷蔵庫から取り出し、ご飯もよそって準備は完了だ。


「「いただきます」」


 二人揃って声を上げて合唱した。

 お互いに、最初は一口目に餃子をチョイスする。


「うん、美味い」


 まあ、当然美味かった。当然というのは、餃子はよほどのことがないと失敗しないと思っているからだ。

 材料は細切れだから味が染みないとかはないし、分量もそんなに間違えない。包んでしまえば後は焼くだしな。

 個人的に俺の中では餃子はお菓子と一緒のジャンルだったりする。

 レシピ通りに材料を混ぜて焼くだけだもん。流石にそれは言い過ぎか。


「あれ、羽鳥?」


 何も言わないから、口に合わないかと思って慌てて羽鳥の顔を見る。


「とっても美味しい」


 羽鳥は満面の笑みで俺に笑いかけてきた。


「それはよかった」


 安堵もつかの間、羽鳥が一口目から次に手を付けようとはせず、じっと動かない。

 何かあったんだろうか。猫舌なのか?


「大丈夫か?」

「うん。あのね……私、夜ご飯に温かいものを食べるのが久しぶりで……いろいろ考えちゃって。あ、もちろん買ったお弁当は温めるんだけど、そういう意味じゃないから」

「ああ」

「それでね、ちょっと胸が一杯になっちゃったかな」


 羽鳥は、そう言って俺に笑いかけてくる。その笑顔に無理がないのが、むしろ様々なことを俺に思わせる。


「そっか」

「大丈夫、餃子はとっても美味しいから、すぐ食べるよ。寄木は冷めないうちに食べて」


 明るくても、やっぱり何も感じていないわけじゃないんだよな。

 今日一日で、今まで超然的に見えていたクールな羽鳥の別の側面が見えた気がする。

 もちろん、羽鳥は良いやつで素直で、頼りがいがあって尊敬ができるんだけど、それだけじゃない羽鳥が見えたと思う。

 そして、俺にそんな一面を見せてくれた羽鳥になにか出来ないか、そう思った。


「羽鳥、またウチに晩御飯を食べに来てよ」

「いいの?」

「だから、そんなに大事に食べなくていいから。明後日とか来ない?暇?母さんも羽鳥のこと気に入ってるしさ」


 ちょっと言い方が乱暴で、そしてちょっと言葉を間違えた気がするけど、多分、大丈夫だろう。


「ありがとう、寄木。うん、明後日お邪魔させてもらうかな」


 二つめの餃子を口に運びながら、羽鳥がとても素敵な笑顔で笑ってくれたから。





こんばんは、お読みくださいまして、どうもありがとうございます。


良い所で終わったので、羽鳥編完結のように見えますが後一話だけ続きます。

引き続きお楽しみくださいませ。



いつも、評価やブックマークや感想ありがとうございます。

お陰様で総合評価が3000ptとなりました。応援に御礼申し上げます。


それでですね、3000ptになったということで、キリ番の閑話を書きたいと思います。

先に用意しているものもあるんですが、どんな閑話が見たいのかという募集もしたいと思います。

活動報告を更新しましたので、そこに希望を書いてください!コメントゼロだと寂しいので、どうかよろしくお願いします!



次回はまた、明日か明後日に投稿します。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ンホーッ!!ホントにいいですなぁ!ホントにホントにホントにホントにいいですなぁ!
[気になる点] 【「じゃあ、寄木も英語できるの?」「うーん微妙……羽鳥、お皿取って」】 研究室で英語とドイツ語使ってたらしいけど子供だから出来るのが不自然だと思い微妙といったのか研究室の設定忘れて微妙…
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