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2-5.秘密基地の遊び仲間・宮廻あやめ

 


「寄木、これさ」

「うん。隠れよう」

 前世も今日はここに来ていたはずなんだが、こんな事は起きなかったぞ。あれか、もしかして俺が遡行したせいでバタフライ効果で展開が変わった……とか?

 いや、そんな事を考えている場合じゃない!

 まずは隠れなきゃ。でもどこへ?


「寄木、こっち」


 考え込んでいる俺の腕を宮廻が掴んで走り出す。そして、ドラム缶と土管が転がっている一帯へと引っ張っていく。


「ここなら見つからないでしょ……」


 ささやき声で宮廻が言う。謎の侵入者が現れたというのに、いかにも楽しそうな顔をしていて凄いと思う。強心臓すぎないか、こいつ。

 俺たちが転がり込んだのは、横倒しになった直径1メートルくらいありそうな土管だ。

 そこに二人揃って体育座りでじっと息を殺している。

 このあたりは、かくれんぼや缶蹴りやケイドロをしていた時によく使っていた場所だ。名前は特についていなかったと思う。

 初日にみんなで名前をつけて周ったんだけど、大ジャンあたりで飽きたのか普通に遊び始めたんだよな。なのでよく使う場所でも名前がない場所がそこそこあったりする。


 土管とドラム缶が散乱しているせいで通るのが大変で、缶蹴りだとここを探しているとすぐに缶を蹴っ飛ばされちゃうから、他の場所を虱潰しにした後に見にこなきゃいけない場所だった。

 まあ最後に来たところで、ここにはだいたい三人くらい隠れてて、一人が捕まってる間に残り二人が逃げ出して蹴っ飛ばすんだけどさ。

 誰か忘れたけど、一時間くらい続けて鬼になってマジで可哀想だったのを契機に、結局缶蹴りではなく鬼を増やしてケイドロをやるようになったんだよな。

 ケイドロは真面目にやるとなると一人が捕まえたやつの監視で、一人が探すスタイルになるから泥棒がキツいけど、鬼が無理な缶蹴りよりはマシだったね。

 まあとにかく、ここら辺は子供でも苦労して通るようなギリギリな幅ばかりなので、大人は入って来れないと思う。宮廻のナイス判断だ。


 俺たちが土管に隠れたタイミングで、バァンッ、と派手なドアの開閉音が裏口の方から聞こえてきた。


「いやー、時間かからせられましたね。うぜえわ」

「オメーの手際が悪いんじゃねえの」

「うっす」

「ていうか、鍵新しいのつけねえとな」

「明日来る前に買ってきましょうや」

「帰りに買っとけよ。お前ん家の近くにホームセンターあるだろ、明日金渡してやっから」

「うっす」


 足音を立てながら悠長に会話している二人組と対照的に、俺は体が強張ってきた。

 言葉遣いが粗暴で、もしかしたらアウトローな人間かもしれない。見つかったらどうなるんだろう、という考えが頭をよぎる。

 というか、何かしらの関係者だったとしても、絶対に怒られるだろ。廊下に並ばされて腹を殴られるのは嫌すぎるな……。


「暗いな。とりあえず、電気系統を見るか」

「うっす」

「お前も来るんだよ」

「うっす……うわっガラス割れてんじゃないっすか」

「割れ方が人為的だな。しかも割れたのは最近だな。誰か来たのか?」

「近所のクソガキじゃないっすかね」

「そうかもな。おい、ガラスにビビってんじゃねえぞ。早く行くぞ」


 近づいていた足音が遠ざかり、一安心で俺はため息をつく。話の内容的に、多分管理室へ入ったのだろう。

 宮廻を横目で見ると、まだ笑ってやがる。

 いい感じに楽しくなってきたとか思ってるんだろうか。いや、すげえよ……。


「あっ……」


 感心したのも束の間、悲痛な声が真横から聞こえてきた。

 トイレでも行きたくなったか?


「リュックサック、司令室に置いたままだ……」

「ああ!」


 言われてみたら宮廻が背負っていた赤いリュックが見当たらない。

 座る時に箱の上に置いて、そのままなはずだ。


「あれ、名前書いてるんだよね、まずいかも」

「お、俺が取ってくるよ」

「ううん、あたしが行くから」

「ちょっと作戦があるんだよ。だから、信じてここで待っててくれ。二人だと見つかる可能性も高くなるし」

「……わかった。寄木は頭いいし、信じる」


 納得していない表情の宮廻を残し、土管から這い出た俺は忍び足で司令室の方へと歩いていく。

 隠れていた土管ドラム缶ゾーンは二人組が入ってきた裏口からちょうど反対側にある。

 つまり、相手の進行方向で俺は動かなければならない。なので、廃棄された工作機械や家具を伝って、視界に入らないように司令室まで詰めていく。

 二人組は話しぶりからして裏口付近で配電盤とか電気のスイッチをを探しているみたいだけど、たとえ見つかっても今日のところは電気が通ってないんじゃないかな。

 まあ電気を使えるようにする手立てがあるのかもしれないが。どちらにしても、とりあえずはこちらに来ないでくれるのだから、ありがたい。

 これならなんとかリュックを回収できそうだ。

 と、油断したのが悪かったんだろうか。


「あっ」


 司令室に小走りでたどり着いた俺は、あろうことか転がっていた木箱を蹴っ飛ばしてしまった。

 その木箱がサイコロを小突いたように九十度転がって、ボスン、という重たいのか軽いのかよくわからない音が響き渡る。


「あれ、なんすかね?」

「お前見てこいよ」

「ええ、俺っスか?」

「ガラス割った奴かもしれねえだろ。いいから早く行け」

「うっす」


 カツカツという足音が俺の元へと近付いてくる。急いで宮廻のリュックを手に取ったけれど、音が大きくなるのが予想外に早くて離脱できない。あの若い男、喋りはやる気が無いのに歩くのは早いのかよ。ずるくないか?

 とりあえず、俺は手近な箱の後ろに体育座りで隠れることにした。進退窮まったな……。

 しかし、見つかったらどうなるんだろうな。想像しただけで背筋がぞくりとする。


 まあでも、一人で取りに来たのは正しかったな。最悪でも、何かされるのは俺だけで、宮廻は安全だろうから。……いや、手の中に宮廻のリュックがあるじゃん!

 俺が見つかったら、宮廻もマズいじゃないか。

 足音がどんどん大きくなってくる。もう相手も司令室に入っただろう。宮廻のリュックがある以上、逃げなければならなくなった。まあ、秘密基地の地形は知り尽くしているし、体も小さいから障害物をうまく使って逃げよう。

 それに、見つかったとしても、友達のリュックを借りてるだけだって言えばいい。俺には教授に鍛えてもらった胆力があるんだ、シラを切り通してやる。

 若い男はすぐそこまで来ている。上手くタイミングをはかって、すれ違いになるように飛び出そう。いち、にの、


「にゃー!にゃーん」


 さん、と心のなかで言う直前だった。猫の鳴き声がどこぞから聞こえてきた。

 続いてガタガタと細かく揺れる音がする。

 男の足音が止まった。


「みゃあーっ」


 もう一度鳴き声が聞こえてきた。危機の中でも少し心が落ち着いて、鳴き声が成猫ではなく子猫っぽいなと思う。広いコンクリ造りのために、どこが音の出どころかはわからない。


「アニキ、猫っぽいっす!!」


 若い男の足音が遠ざかっていく。


「どこだ?おいニャン公出てこいや」


 手当たりしだいに物を動かす音が聞こえる。ちょこっと顔を出して確認すると、チャラめな格好をした男が、俺に背を向けてガサゴソと猫を探していた。背が高くて背筋がしっかりとしているのは意外だった。

 チャ、チャンスだ。

 足音を立てないように注意を払いながら、俺は全速力で司令室から遠ざかる。なんだか呼吸が苦しい。


「ちいっ、見つかんねえ。アニキ、野良猫の溜まり場になってんすかね?」

「猫ならいいや。戻ってこい。ライトで手元照らしてくれや」

「うっす」


 足音が遠ざかっていく。けれど、恐怖は依然抜けてくれなくて足はいまにももつれそうだ。情けない両足を必死に動かして、俺はなんとか俺は土管とドラム缶が散乱しているコーナーまで逃げ帰る。息を整えてから、宮廻が隠れている土管まで急いで舞い戻る。まだ心臓がバクバクしている。


「あ、あぶねえ……」

「ほんっと、危なかった」


 一言だけ交わして、宮廻と俺は無言で横並びでじっと静かに体育座りをする。一旦危機を脱したとは言え、まだ二人組は残ったままだ。ここで物音を立てて見つかってしまっては元も子もない。

 宮廻がそっと俺の右手を左手で握ってきたので、俺もぎゅっと握り返す。


 そして五分、いや十分ほど経っただろうか。帰るぞ、という怒りっぽそうな声が聞こえてきて、少し遅れて車の発進音が聞こえてきた。


 念の為、耳を済ませてもう何分か静かに様子見をしていたけれど、物音も話し声も聞こえてこない。二人組は本当に帰ったようだ。しかし、誰だったのだろうか、彼らは……。

  二人組は明日も来ると言っていた。今後また、同じように鉢合わせることになるかもしれない。が、とりあえず今のところは、なんとか切り抜けたことを安堵しよう……。





いつも応援ありがとうございます!

次回で宮廻編は完結です。明日もしくは明後日投稿します。



新作も今日の夜に一話が完結です。今作ともどもよろしくおねがいします。



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