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俺とあいつと時々25  作者: かわせみ
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今の俺

俺は、何も持ってなかった

希望も夢も、目標も




「君は、本当に使えないね。他の同期を見てみろ。君より成績がいいんだぞ?少しは見習いたまえ。」


「はい…本当に、申し訳ありません…」


毎日、畳み掛けるように俺の営業成績にケチをつけてくる。入社3年目に突入したものの、とりあえず俺は何も考えないようにしつつ、上司の前で頭を下げていた。


「君の、その言葉は聞き飽きているんだよ。何度言ったら分かるんだね。君が皆の足を引っ張っているんだ。少しは自覚しているのか?ん?」


「はい…、仰る通りです…。大変申し訳ありません。」


「本当に申し訳ないと思ってるなら、少しは成績を伸ばしたまえ。この1年、何も成長してないじゃないか。」



たしかに、上司の言う通り、俺は成長してなかったのかもしれない。入社当時は、中の上、今となっては下の下だ。

何をやっても秀でたものがない。いわゆる平均より少し上だった俺は、今ではこの上司のストレスの吐口となっている。


ただ、この上司も上司だ。部下の手柄を自分のものにして、ここまで出世したらしい。この1年、まともに仕事をしているところを見た記憶はない。


人に言う前に、自分で手柄をきちんと出してから言うべきではないのか。

申し訳ない感を出しながらも、俺は心の中で悪態をついていた。



「いいかい?君の業績がこのまま上がらないようなら、こっちもフォローしきれないからな。せいぜい頑張ってくれ。いいな?」


「はい…、分かりました…。申し訳ありません…。」


「ならいい。ほら、とっとと仕事に戻れ。私も忙しいんだよ。」


「はい…、失礼します。」



やっと終わった。そう思って時計を横目に見ると、まだ14:00。

今回の説教は、1時間程だったらしい。長い時には、定時後に飲み会に連れて行かれて2〜3時間文句を言われた挙句、会計は割り勘になる。それに比べれば、全然マシだ。



「川島、気を落とすなよ。部長の言葉なんてあてにならないからさ。」


「あ、あぁ…、ありがとう…。」



自席に戻ると隣の席の水上が、ぼそっと声をかけてくる。俺と同じで、業績はあまり良くはない。思いやりはある同期だが、俺はこいつの方が大丈夫かと思う。


入社当時は、キラキラしていた目が今では濁りきっており、顔を見るだけで疲労が溜まりきってるのが分かる。

まさに死んだ魚の目、そのものである。






「じゃ、後は頼んだよ。お前は、皆よりできない分、残って頑張らないといけないんだからな。月曜までには必ず仕上げておけよ?」


「はい…。」



少しキツく言った後、機嫌がよさそうにスマホを操作しながら、上司は帰宅していった。定時ぴったりである。

一方、俺はというと、モニターの前に積まれた書類とファイルが、机いっぱいに広がっている。その端でこじんまりと佇んでいる缶コーヒーが唯一の救いな気がする。



「はぁ…」



思わずため息が出た。これを月曜までに仕上げなければいけない。しかも、もともと俺の仕事ではない。急に退職した先輩社員の引き継ぎ作業だ。

そんなため息を聞いてか、水上が声をかけてきた。



「か、川島?もし、しんどかったら、その仕事、手伝うぞ?」


「あ、あぁ…、大丈夫。それに、お前、帰り遅くなったら嫁さん悲しむだろ。」


「え、ま、まだ嫁ではないよ。結婚してもないし…。」


「だとしても、長い付き合いで、毎日晩飯作って待っててくれるんだろ?」


「うん……、まぁね…」


少し照れ臭そうに話す水上は、幸せそうだ。

俺には、飯を作ってくれる彼女や嫁さんもいなければ、帰りを待つ家族もいない。実に羨ましい限りだ。



「なら、大丈夫だよ。適当に片付けて、とっとと帰るよ。」


「そう….。ならいいんだけど…。あまり無理はするなよ?最近、終電多いんだろ?」


「まー、多いけどそんなに家と会社が離れてるわけでもないからな。最悪、タクシーでも拾って帰るよ。だから、お前は早く家に帰れ。」


「う、うん…。ありがとう…。」



水上は、そう言って自席に戻って作業を始めた。あいつもそんなに仕事量が少ないわけではない。家族の為、身を粉にして働き、パートナーとの時間を必死に作っている。俺としては、出来るだけ早く家に帰ってもらいたい。


そんなことを思いつつ、最後の1口のコーヒーを飲み干し、俺のパソコンと書類の睨めっこが始まった。

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