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第一話 魔力適性検査

二話からが本編です……もう少し設定にお付き合いください……

――天才だなんて言われてもちょっとしたミスでこれ。魔法の才能はあっても生きる才能はなかったんだなぁ……。


 どこで間違ったのか、いまさらではあるがしみじみとそう思いつつ、背中から命そのものが抜け出ていくのを感じていた。

 そうしてすべてを吐き出した彼は静かに瞼を閉じた。

享年十五歳。数百年に一人の天才といわれていた一人の天才魔法使いがその明るい人生に早すぎる幕を下ろした。

               

☆☆☆


 西暦は二千九十三年。魔力の発見により世界の在り方が大きく変化し、いったんの落ち着きを見せ始めていた。

 日本は階級制というものを取り入れていた。


 階級制というのはその名の通り国民に階級的立場を与え、その位置で国から受けられる待遇が変化するといったものである。待遇の違い、とはいってもそう大きいものではない。

 奴隷といったもは存在せず、国の政治には依然と、同じように国民すべてが関わることができる。与えられる優遇措置はお金と仕事だ。魔力が扱える人間はそれ相応の能力が携わっているため、必然的に魔法を使えるもののみが就くことのできる仕事となる。技術職と似たようなものだ(その母数は圧倒的に少ない)。

 

 結果として貧富の差は拡大したのだが、魔法職が増え、対外的に力を増せば増すほど国は潤ったため、今まで暮らしに困窮していた人々は反比例して減っていった。その事実に国民は大いに満足してはいる。

 

 しかしながら欲というのは求めると際限がなくなる。暮らしは上向きになっても魔法を扱える上級国民にやはりというか、皆が憧れを持っていた。


 魔法位、と呼ばれる階級になるためには家族の誰かが魔法学校に通い、その高等部を卒業する必要がある。現在日本に存在する魔法学校は東京にある国立魔法使(Wizard)い育成(Nurture)学校(School)通称WNS(ウィズ)のみである(ここでの魔法使いは魔法使いを包括したMagicianではなく「魔法を扱う賢き者」といった意味のWizardである。Wizardに「魔法使い」といった意味はないのだが)。


 そのため、多くの家庭では幼少期から魔法の出てくるファンタジーな絵本を読み聞かせ、小学生に上がる前の年に魔法適正検査を自分らの子供に受けさせるようにしている。


 そして日本の端にある、とある田舎の家庭も例にもれず、自分たちの息子に魔法の適性検査を受けさせていた。魔法使いなんて、などと口で言って心に保険をかけても期待をしてしまうものはしてしまう。その夫婦はそわそわしながら一人息子を近くにある魔力適性検査場に連れて行った。


 適性検査自体は非常に簡単なもので、魔力が流れると刻印された魔力回路が光る装置に魔力を流すだけである。魔力の扱いがわからない、なんてことは論外で魔力の扱いに才能のある人間であれば扱い方を知ら(・・・・・・)なくても扱える(・・・・・・・)。扱い方を知らなければ使えない、その程度の人間では才能なしとみなすのが魔力適性検査だ。毎年数十万といった人数が検査を受けに来るのだ、このような判断になるのは当たり前といえるだろう。


 装置前まで案内された彼は手をかざし、言われた通り魔力を流そうと試みる。六歳の彼は年齢的にここが運命の分かれ道であった。この年齢を過ぎると現実を受け入れる心が芽生え始める。魔力が扱えないと考えてしまうと、心のどこかで自分には扱えないといった想いが生まれてしまう。それは魔力を信じる心に濁りを生じさせてしまうことと同義であり、魔法使いへの道は閉ざされる。


「ど、どうだ……?」


 手をかざしたままで何の動きもない状況に痺れを切らした父親が息子へと声をかけた。


「う、うーんと……」


 本人的にはなんとか触れたことも見たこともない魔力を流そうと必死なのだが何も起きる気配はない。幼いながらも両親の期待というものを彼は分かっている。その期待に応えようと、頑張ってはいるのだが現実はそうは甘くはなかった。


「ご、ごめんなさい……お、お父さん……お母さん……」


「……いいんだよ、()()お疲れ様」


 今にも泣きだしそうな顔で謝る息子に一瞬浮かべてしまった落胆の表情を微笑みに変えて、夫婦は優しく息子を抱きしめた。


「あんたのせいじゃないさね、お母さんたちもあんたになーんにも教えられなかったんだから」


 自分たちが魔力を扱えなかったのが原因だと、何も教えてあげられなかったのが悪かったとそういって麗空と呼ばれた少年の母親は彼を慰めた。


「でも……でも……」


 しかし、こんなにも優しい両親の期待を裏切ってしまったという現実はまだたったの六歳の少年には少しばかり重かった。


「それでは、これで検査を終了します。お疲れさまでした」


 そんな家族の様子を見ながら検査担当の女性は事務的にそう告げた。なんとも心のない対応にも思えるが彼女からすればこんな光景は何度も見てきたものだ。いまさら同情などといったことはしない。


「ありがとうございました」


 そんな彼女にお礼を一言いい、その家族は検査場を後にして帰路へとついた。



 帰り道、努めて作った笑顔で行われる会話は、その表情に反して重苦しかった。理由は分かっている。まったく手のかからなかった素直な息子に、期待をかけすぎてしまったことを夫婦は後悔していた。少し考えれば、自分たちの息子はその期待に応えようと必死になりすぎることぐらいすぐに思い至ったはずである。そんなことも考えられなくなるほど、魔法使いというのは現代社会において特別な存在であった。


 重くなっていく空気に負けるように、彼らの間で交わされる言葉は少しずつ沈んでいった。


 夫婦の中に申し訳ないという気持ちばかりが巣くい、ついには一言も発することのなくなった自分たちの子に心の中で謝り続ける。


 ごめんなさい、ごめんなさい、と。


 横目に様子をうかがいながら幾度となく謝罪を繰り返すうちにふと、もう一人の我が子を思い出した。下を向いてとぼとぼと歩く姿に彼の二つ下の妹の姿を重ねて、同じ過ちは繰り返すまいと、父、母ともに誓った。そうして平凡でもどんな家庭よりも幸せに暮らすのだと、心に決めた。

 しかし、散漫になった注意につけ込むかのように突然の不幸はその身を寄せる。


 赤信号に立ち止まって、考え事に割いていた意識は鈍い衝突音によって引き戻された。

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