スペース・タンカー
地上から遥か上空。今日も空は晴れ。帆夏は上空出入国ターミナルでの通常勤務をしていた。
ベルトコンベアで貨物が次々と運ばれてくる。ここは、貨物便によって輸送されてきた荷物をX線検査するエリアである。今日は帆夏と結城はここでの警備を担当する。
帆夏はじっと荷物を見ていた。次々と流れて行く。
――ここが最後の砦。
ここが地球にとって宇宙からの最後の盾になっているということを帆夏は再確認させられていた。
――私たちは地球の壁になるんだ。
帆夏は小さい頃の自分を思い出した。
幼い頃から、航空機が好きだった。宇宙時代になり、宇宙から訪問者が次々とやって来る時代。彼女は上空の警備に興味を持った。小さい頃からの夢だったのだ。
――今日も何もないといいけど。
帆夏は今日の無事を願った。しかし、そうはいかなかった。辺りに、轟音が響き渡った。轟音で少し、揺れた様にも感じられた。
――何があったの!?
帆夏は周りを見渡す。しかし、周りには轟音により、騒ぎ出している利用客と対応するスタッフしかいなかった。
――どこが爆発したの!?
すると、無線から連絡が入ってきた。
「空木、白井」
文月の声だった。
「上空の熱圏ぎりぎりでスペース・タンカーが空中爆発した。破片の衝突に注意しろ」
――え!?
帆夏は少し焦った。そして。
「それから!!」
霜月だった。
「破片の軌道上に出入国ターミナルがある。今すぐ、利用客を避難させて」
彼女らはそう言うと、連絡を切った。
帆夏は詳しいことは聞かないことにした。しかし、航のことが気になった。
――ちゃんと避難してくれているだろうか?
「帆夏、避難の誘導を始めよう」
「はい」
二人は、利用客を粒子リフト型エレベーターへ誘導し、避難の手助けを始めた。
上空整備基地。
「加瀬、避難しよう」
「はい」
航たち、整備士も上空から避難し始めた。
上空出入国ターミナル。そこで帆夏は避難の誘導を着々と進めていた。しかし、エレベーターが定員オーバーになった。それは最後の一人、帆夏の直前でだった。
「帆夏、俺が残る。乗れ」
結城が交代を名乗り出る。しかし。
「結城、先に行け。私は大丈夫」
帆夏は断った。
「でも」
「私は大丈夫だ。先に行け」
「分かった」
エレベーターの扉が閉まった。とうとう帆夏が一人、最後になってしまった。
地上。そこには避難して来た人たちでひしめき合っていた。
「結城!!」
結城は航に呼ばれた。珍しく、航が大きな声を上げた。
「何で帆夏がいないの!?」
「定員オーバーで最後になったんだ」
結城は冷静に説明した。しかし。
「だからって、何で置いて来るの!?」
航は取り乱した。
「落ち着け。大丈夫だから!!」
タイムリミットが近づく中、誰も乗っていないエレベーターは上昇する。帆夏は立ち尽くしていた。
――大丈夫。きっと助かる。だって、盾になるって約束した。
――今死んだら、これからは誰が盾になる。
帆夏は取り乱すこともなく、冷静にエレベーターを待っていた。すると、音が鳴り、扉が開いた。エレベーターが到着したのだった。
残り15秒。カウントダウンが始まる。帆夏はエレベーターに乗り込む。そして、エレベーターは降下を始めた。
残り10秒。10、9……。
簡易人工知能によるカウントダウンは続く。帆夏は冷静にディスプレイを見ていた。
そして。ゼロ。
残り10メートルで破片の雨が降り注いだ。エレベーターのコントロールシステムも破損した。それにより、エレベーターが制御不能になり、エレベーターが落下し始めた。
帆夏は衝撃に耐えれるように身をかがめた。そして。
ドゴォォォ。
エレベーターの着地と同時に、轟音が辺りに響いた。
「帆夏!!」
航と結城はその落下して来たエレベーターに駆け寄った。そして、扉をこじ開けた。
血液が流れる。しかし、帆夏は笑顔で航を迎えた。
「大丈夫。生きてるよ」
帆夏は自分の額から流れる血液で航が心配をしていると思い、笑顔が苦笑になる。
――良かった。助かった。
航はその場に座り込んだ。そして、安堵の為か、泣き出した。
「もう、泣かないで? 大丈夫だから」
今回の事件での負傷者は帆夏の一人だけだった。上空管制塔も一部が破損しただけで済み、上層部は安心していた。
次の日。上空は晴れ。
「おはよう」
帆夏は笑顔で挨拶をする。額の傷は残らないと言われ、翌日から出勤していた。
「おはよう」
航は再び、涙を流しそうになった。