航空機事故
航空機の機器から警報が鳴る。目の前に別の航空機が見えた。辺りに巨大な衝突音が鳴り響く。その航空機は衝突し、夜間の上空管制塔に警報音が鳴り響いた。
――何事だ?
稲津誠はディスプレイを見上げた。すると、地上の管制塔から連絡が入った。
「どうしましたか?」
稲津誠が対応する。
《地上所属の航空機と上空所属の航空機が衝突しました。すぐに警備戦闘機を派遣してください》
地上の管制官はそう伝えて来た。
「分かりました。今すぐ手配します」
稲津誠はそう応答すると、連絡を切った。そして。
「霜月。警備班へ連絡して下さい」
稲津誠は航空管理人工知能の霜月を通して、警備班の帆夏たちへ連絡を取った。
「了解」
帆夏と結城はそう応答する。そして、上空整備基地へと向かった。
「整備大丈夫ですか?」
帆夏は航へ尋ねる。
「完了しています」
航は答える。すると、帆夏はそのまま、戦闘機へ乗り込む。シートベルトを締める。結城も準備をする。
一方、整備士は戦闘機を誘導する。エンジン音が雑音を威圧する。何も聞こえない。そして、彼らは轟音と共に飛び立っていった。
二人は夜の空を行く。辺りは真っ暗だ。階下の街のライトしか見えない。
――現場は北に20km。海上だ。
次第に遠くから光が見えて来た。現場に到着している救急班のものだった。到着すると、海上に航空機の破片が大量に散らばっていた。生存者ゼロだった。
帆夏は機器を操作する。そして、現場の様子を映した画像を上空管制塔へ送った。
「空木、ありがとう。映像はこちらで解析する」
霜月はそう言うと、無線を切った。そして。
「空木、白井。すぐに帰還しろ」
文月だった。
「了解」
二人は旋回し、上空管制塔へと向かった。
「おかえり」
航は戦闘機から飛び降りて来る帆夏へ駆け寄る。
「ただいま」
帆夏は笑顔で答えた。航はそれが嬉しかった。
「帆夏、急ぐぞ。管制塔だ」
「はい」
彼女はそう返事を返すと、航へ少し小さめに手を振り、向かった。
上空管制塔。そこでは軍事管理人工知能の文月、航空管理人工知能の霜月が対応に追われていた。現場から次々と情報が寄せられる。立体映像のディスプレイには事故現場の映像や画像がずらりと並んでいた。そんな中、ある情報が入って来た。
「文月氏。新たな情報です」
「何だ?」
文月は入電をスピーカーにする。
「航空機が最後、自動操縦から手動に切り替わっていたことが分かりました」
――え?
その情報は帆夏の耳にも届いた。そして、それを聞いていた他の人物、霜月も凍り付いた。
どうやら、航空管理人工知能、霜月のミスによるものだった。
翌朝、日光の届く一面窓の側で帆夏と結城は朝日を見ていた。後ろには航がやって来た。
「どうしたの?」
航が心配そうに首を傾ける。
「ううん、何でもないよ」
「代わりの航空管理人工知能はまだ決まってないんでしょ?」
「まあね」
帆夏は朝日をもう一度、見た。
事故の捜査は軍事管理人工知能である文月が一人で行うこととなった。
「何か出来ないかな?」
「何かしたい」
二人は呟いた。一方、結城は無言で悩み込んだ。
「前もサイバーテロがあったよね?」
「確かに」
二人は話す。結城も頷く。
「文月」
帆夏は軍事管理人工知能、文月に話しかける。
「何?」
文月は少し、不機嫌そうに立体映像で現れた。
「サイバーテロの可能性はあるの?」
帆夏が尋ねる。すると。
「まだ調べてない」
彼女はきっぱりと答えた。
「早く調べて」
帆夏もきっぱりと意見する。
「はいはい」
文月は面倒くさそうに返事を二回した。
次の日。今日も晴れだった。階下にも雲はなく、地上からも晴れだった。
「帆夏、聞いたか?」
「何?」
帆夏は結城に話しかけられた。
「おとといの夜間事故、サイバーテロだったそうだ」
「本当に?」
帆夏は思わず、聞き返した。
「航空管理人工知能のセキュリティーが一時的に乗っ取られていたそうだ」
――とういうことは、霜月は更迭だろう。
すると、突然、警報音が鳴った。
――何があったのだろうか。
帆夏と結城は慌てて、上空管制塔へ向かった。
「何があったのですか?」
帆夏が稲津誠へ尋ねる。
「航空機が乗っ取られたらしい。文月が監視をしていたから、分かったのだが」
どうやら、航空機の危機らしい。
「私に管理させて下さい」
謹慎させられていた霜月が現れた。
「なぜですか?」
「このまま、更迭は嫌です」
「分かりました。文月と合同で対処して下さい」
「はい」
霜月はディスプレイを閉じていった。
――大丈夫かな?
帆夏は心配していた。すると、軍事管理人工知能の文月から連絡があった。
「サイバーテロを仕掛けているコンピュータを特定しました」
「分かりました。情報をこちらへ。警察と連携して確保に向かいます」
「はい」
文月はディスプレイを閉じていった。すると。
「航路が正常に戻りました」
そのアナウンスが、隣の機器から流れた。
「乗っ取られていた機体が通常の航路に戻って来ました」
機械の目の前に座っていた男性がそう報告した。どうやら、サイバーテロから航空機を守ることに成功したようだ。
「文月、霜月。二人ともありがとう」
稲津誠は二人を誉めた。
翌朝、サイバーテロ犯は逮捕され、一件落着していた。
それから、霜月は文月が上層部へ懇願したため、解体の危機から脱出し、再び、航空管理人工知能の仕事に復帰出来ていた。